ティラミス

静流

文字の大きさ
上 下
52 / 181

52

しおりを挟む
「まったく、頭が沸いているのですか?気持ちは分からないでもないですが、少しは落ち着いて下さい」

「分かるなら、邪魔せずともいいだろう。可愛いらしい番を愛でて何が悪い」

憮然としながら、惚気るという器用な真似をしているが、腕の中で顔を蒸気させているカイに目を落とすと、相好を崩している。

「カイさんに迷惑でしょうが。慣れてないんですから、可哀想ですよ。手加減ぐらい覚えて下さい」

ライラスは「初々しくて、可愛いのは認めますがね」と言い添え、嘆息している。

だが、それを耳にした途端に、アレクは腕で囲い込み「見るな」と、無茶な注文を付けている。

「閣下。カイさんが窒息しますよ。狭量過ぎて、愛想を尽かされたいんですか?」

「減るっ」と文句を言うアレクに、「それどころではない」とライラスが注意を喚起させている。お蔭で、腕で窒息させられずに済むが、暫く必死に呼吸する羽目になった。

「済まない。もう大丈夫か?」

せっせと背中を摩っていたアレクが、気遣わしげに確認してくるのに、素直に頷きはしたが、一気に体力を消耗した気分だった。

「カイさん。はい、これでも飲んで一息ついて下さい」

いつの間に用意したのか、爽やかな香りのするお茶だ。
序でに、アレクにも差し出されたが、こちらは水のようだった。

「カイ殿へのお茶は感謝する。だが、これは酷くないか?」

「閣下には必要では?冷たい水で、頭を冷やして下さい」

顔を引き攣らせたアレクに、素気無く流すライラスだが、目がしっかり笑っている。
ただし、嘲た感じが混じっている。

「まさか、意趣返しではないだろうな」

胡乱気に見遣り、大人しく水を一気飲みした途端に、顔を歪めている。
緩められた腕の中で、カイは申し訳なさそうに温かいお茶を啜って、ライラスに目礼し、謝意を伝えていた。

キンキンに冷やされた水を飲んだアレクは、目を眇めて「どこが落ち着いただ」と零している。

「あの、大丈夫ですか?」

言葉と共に手を伸ばされ、頭痛が一瞬で消え去る。
アレクは、目を瞬き破顔した。

「治してくれたのか?ありがとう。私の番は世界一優しいな」

「あ、いえ緩和させただけです。治癒の方が良かったですか?」

否定しながら、窺ってくる姿を蕩けるようにみて、カイの頭を撫でる。

「そんなことはない。カイ殿が気にかけてくれるだけで、私は充分幸せなのだ。それよりも、疲れたのではないか?」

本気で心配になってきたアレクが覗き込み、額や頰に触れて確認してくるのに「大丈夫です」と返しながらもカイは、はにかんでいる。

「敵に塩を…、ではなくて藪蛇?いや、余計なお世話でしたかね」

ライラスが、生暖かい目で眺めながら、1人ボヤいていると、ノックの音が響いた。
時計に目を走らせれば、もう直ぐで昼時だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

異世界転生で僕に生きる意味をくれたのは殺し屋でした

荷居人(にいと)
BL
病気で何もできずに死んでしまった僕。最後まで家族に迷惑をかけ、疎まれ、ただ寝てぼーっとする日々に、何のために生きてきたのかわからない。 生まれ変わるなら健康な体で色んなことをしたい、こんな自分を愛してくれる人と出会いたいと願いながら僕は、15歳という若さで他界した。 そんな僕が次に目を覚ませば何故か赤ちゃんに。死んだはずじゃ?ここはどこ?僕、生まれ変わってる? そう気づいた頃には、何やら水晶が手に当てられて、転生先の新たな親と思われた人たちに自分の子ではないとされ、捨てられていた。生まれ変わっても僕は家族に恵まれないようだ。 このまま、餓死して、いや、寒いから凍えて赤ん坊のまま死ぬのかなと思った矢先に、一人のこの世のものとは思えない長髪で青く輝く髪と金色に光る冷たい瞳を持つ美青年が僕の前に現れる。 「赤子で捨てられるとは、お前も職業に恵まれなかったものか」 そう言って美青年は、赤ん坊で動けぬ僕にナイフを振り下ろした。 人に疎まれ同士、次第に依存し合う二人。歪んだ愛の先あるものとは。 亀更新です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

処理中です...