ティラミス

静流

文字の大きさ
上 下
47 / 181

47

しおりを挟む
「カイ殿の懸念は、今までの人生を鑑みれば仕方がないが、少しは信用してくれないか?私は番であるカイ殿と一緒に幸せになりたいだけで、他意はない。なんなら、能力を使用しないと、誓約しても構わない」

顔を上向けられ、手で固定された状態で、言い募られた。
目を逸らすこともできず、居た堪れない。

自分の疑惑を勢いでぶつけて、玉砕したのは、まだ良い。
だが、真摯な言葉には嘘も感じられないのだ。

自分の勝手な思い込みで、罵倒し貶したのに責めもしないで、逆に折れてくれてる。

穴があったら埋まりたい…。思わず涙が溢れた。

アレクは、ギョッとしたように、慌てふためいて、手で体をあちこち探ったと思ったら、憔然となり袖口で涙を拭いてくれる。

「済まない、ハンカチを忘れたようだ。痛くないか?」

「大丈夫です。あの濡らしてしまって、申し訳ありません」

身を縮めて謝罪するが、気にするなと流されてしまう。
今まで周りに居た者たちと違い過ぎて、戸惑ってしまう。

返事を急かすこともなく、頭を撫でたり背を軽く叩いて宥めるだけで、終始穏やかな態度だ。チラリと見上げれば、微笑み返してくれる。

ライラスが、傍で生暖かい目で観ているのには気付かなかった。

「怒っていませんか?」

「うん?特に怒ってはないのだが、何を気にしているのかな」

不思議そうな顔をされてしまい、逆に目を瞬かせた。

「私が失礼な言動を取ったり、一方的な疑念を抱いたことです」

他に何があるのだと、憮然とした物言いになった。

「別に、怒るほどでもない。至って普通の反応だろう」

そんな事かと笑って済ませる大人の対応に、罪悪感だけが増していく。

「アレクさん、物分かりが良過ぎます」

モヤっとしているのを隠さずに愚痴を言っても、頭を優しく撫でられるだけで、張り合いがない。

「私を、そう評価するのもカイ殿だけだ。それほど優しくはないしな」

自嘲するアレクに、目の色を変えて反論していた。

「そんなことはありません!アレクさんは、充分優しいです。包容力もありますし、理不尽なことも言わない。いい方です」

「ックク、閣下が…。あり得ない…はぁ、カイさん最高です」

ライラスが横で吹き出し、必死に押さえているがあまり効果がないようで、漏れ出ている。挙句に何故だか褒めてきた。

「ライラス、軍に入りたいなら何時でも歓迎するぞ。そなたの両親も、さぞ喜ぶだろうな」

「閣下、私はギルドで満足してますから。そ、それよりも、養子縁組先の説明がまだです」

アレクが急に低い声で勧誘し、ライラスの笑みが固まり、一気に青褪める。
ライラスの目が泳ぎ、話題を急変させてきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

異世界転生で僕に生きる意味をくれたのは殺し屋でした

荷居人(にいと)
BL
病気で何もできずに死んでしまった僕。最後まで家族に迷惑をかけ、疎まれ、ただ寝てぼーっとする日々に、何のために生きてきたのかわからない。 生まれ変わるなら健康な体で色んなことをしたい、こんな自分を愛してくれる人と出会いたいと願いながら僕は、15歳という若さで他界した。 そんな僕が次に目を覚ませば何故か赤ちゃんに。死んだはずじゃ?ここはどこ?僕、生まれ変わってる? そう気づいた頃には、何やら水晶が手に当てられて、転生先の新たな親と思われた人たちに自分の子ではないとされ、捨てられていた。生まれ変わっても僕は家族に恵まれないようだ。 このまま、餓死して、いや、寒いから凍えて赤ん坊のまま死ぬのかなと思った矢先に、一人のこの世のものとは思えない長髪で青く輝く髪と金色に光る冷たい瞳を持つ美青年が僕の前に現れる。 「赤子で捨てられるとは、お前も職業に恵まれなかったものか」 そう言って美青年は、赤ん坊で動けぬ僕にナイフを振り下ろした。 人に疎まれ同士、次第に依存し合う二人。歪んだ愛の先あるものとは。 亀更新です。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悪役令息に憑依したけど、別に処刑されても構いません

ちあ
BL
元受験生の俺は、「愛と光の魔法」というBLゲームの悪役令息シアン・シュドレーに憑依(?)してしまう。彼は、主人公殺人未遂で処刑される運命。 俺はそんな運命に立ち向かうでもなく、なるようになる精神で死を待つことを決める。 舞台は、魔法学園。 悪役としての務めを放棄し静かに余生を過ごしたい俺だが、謎の隣国の特待生イブリン・ヴァレントに気に入られる。 なんだかんだでゲームのシナリオに巻き込まれる俺は何度もイブリンに救われ…? ※旧タイトル『愛と死ね』

処理中です...