ティラミス

27

「心配せずとも、その際は叔父夫婦が動くだろう。カイの親だからな」

しっかり聴こえていた様で、アレクがマックを見返している。

「まさか、その為の養子縁組ではないですよね？」

アレクの穏やかな表情に、胸を撫で下ろして念の為に確認する。

「いや、そのまさかだ。陛下が、カイの身の安全を考慮した結果だそうだ」

憮然としながらも、諦観が混じっている。

「身の安全ですか？周りの被害防止ではないのですね」

フランクは困惑して、微妙に嫌そうな感じが醸し出されている。

「その様子だと、知らないようだな。カイは魔力持ちだ。それも、歴代類をみない程の魔力だ」

「はぁ？冗談にしては笑えない。それなら、どうしてあんな目に合うんだよ」

マックが怒りにまかせて噛み付くが、フランクも注意しない。
それほど扱いが酷かったのだ。

「あの商家は、辺境伯の弟で似た者同士だ。ただ、弟の方が狡猾でな、魔力持ちだから引き取って、飼い殺しにする気だったようだ」

淡々と感情を削ぎ落として言われる方が、怒りの程を示している。
挙句に、冷気まで漂わされれば、苛立っていたマックも身を引いて青褪める。

「そういえば、「魔力も使えない穀潰し」と貶してたんですよね。結果的に良かったとはいえ、なんで使わなかったんでしょうか？」

フランクは、引き腰になりながらも、この際とばかりに質問する。

好奇心の趣くままに動くマックとは違い、状況を観て判断しているが、訊く機会がないかもと多少焦って無茶をしたのだ。

「魔力過多で、逆に加減が難しいのだろう。桶に水を出すつもりで、洪水を起こしても困るからな」

眉を跳ねさせ、呆れながらも推測を語れば、聴いている方がギョッとしている。

水なら洪水だが、火だと辺り一面焼け野原でも可笑しくない。
そこまで、類推したかは疑問だが、一様に「使わなくて正解だ」と合点していた。

「ライラス、ギルドの測定結果はどうだったの？」

「アレク様の言われる通りだったが…悪いが、この件は緘口令がしかれていて、これ以上は応えられない」

サラの問いかけに、アレクが漏らした事以外は、黙秘すると断りを入れる。

「まあでも、それなら納得がいくわ。ギルドの過保護っぷりには、違和感があったのよ。未成年で、虐待されていたからにしては、ちょっとやり過ぎなんだもの」

仕方がないわと頷きながらも、今までの鬱憤を晴らすように文句をつける。

「サラ嬢が妬く程度には、ライラスが構いだおしていたのか？」

「妬くほどではないですが、最初は急に食事に連れて来るし、休みの日もカイさんの様子を観に行って、構ってくれないから面白くなかったのは確かですね」

首を振って否定するライラスを横目に、アレクに報告するが、これでも一応控えめにはしている。

なにしろ当初は、四六時中面倒をみていた筈だ。
その間、ずっと放置されたのを、未だに詫びられてもいない。

別に仕事だから妬いてはいないが、なんの説明もないのは、流石にあんまりだと怒っていたのだ。