ティラミス

静流

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「落ち着いて、ライラス。偶々、お昼に見掛けただけよ」

「へえ、よくそれでブラックだと分かったね。ミルク無しはともかく、砂糖は?」

皮肉気に突っ込んでくるが、周りは目を逸らして、見ないふりを決め込んでいる。

カイは驚くだろうが、此処にいる面々は、ある意味慣れっこで騒ぐこともない。

昔は、これが日常茶飯事だったのだから、今は猫を二重三重に上手く被っているのだ。

「角のコーヒー店よ。あそこは、コップの色で分かるでしょう。いい加減にして」

サラの言うように、通りの角っこにある店は、コップの色で分けれているので有名だ。

種類も、ブラック、ラテ、カフェモカ、ブラックに砂糖いりの4つのみだ。
客は、ミルクと砂糖の量を注文時に指定するだけで、セルフサービスが存在しない。

「あ、ごめん。痛かった?疑って悪かったよ。機嫌をなおして」

誤解だと理解した途端に態度を一変させて、掴んでいた肩を撫でている。
要するに、非常に嫉妬深いのだ。

「だいたい、カイさんが、そんな事をすると本気で思ったの?ありえないわ」

呆れ切った物言いだが、正論過ぎて反論も上がらない。

間違っても、女性と二人でお茶をするような真似はしない。
特に上司の恋人なら、疑惑を抱かれる行為は避ける筈だ。

「そう責めないでやってくれないか。私が直接話しかけたから、元々機嫌が悪かったんだ。私もその疑惑は、面白くないがな」

ライラスを庇っているようで、しっかり追い討ちを掛けている。

仮にライラスが今回嫉妬に狂って、暴走すれば被害にあうのはカイであってサラではない点が、仮定でも許容外なのだ。

「呆れた。まさかアレク様に妬いたの?カイさんの情報を訊き出しているのに、他に目がいく余裕がある筈ないでしょう!もう、信じられない」

ライラスは更に、怒りを買ってしまい、アレクを恨めしそうに見遣った。
だが、こちらも当然ながら、冷ややかな視線を返される。

「人の事は言えないが、嫉妬も程々にしないと身を滅ぼすぞ」

アレクは、一段と低い声で恫喝紛いの警告をして、しっかりと釘を刺す。

「承知しました。二度とこの様な真似はしません」

蒼白状態で宣誓しているが、内容を鑑みると情けなさが倍増する。
サラも、怒っていたのを忘れて、呆気にとられていた。

「上には上がいるが…閣下が暴走したら誰が止めるんだ?」

一連のやり取りを、傍観していたマックが呆然と呟けば、フランクが「冗談でも笑えない」とボヤいた。叩く気力も湧かないほど、考えたくない事態だ。

今迄は、サラとライラスの騒動が主流で、止めるのに苦労した。

だが、アレクが参入すれば、ライラスは即座に抑えられる。

暴走していようが、アレクの威圧を前にすれば、頭も冷めるだろう。

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