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第十二話 後編
明かされる真実 3
しおりを挟む着ぐるみを被った臼井誠が立花桃に近付こうとした時、栗原優は遊園地の外に居た
当初の計画では臼井誠の近くで待機し、不測の事態があればスタッフやパレード隊に指示を出す予定だった
パレード隊のフィナーレで紙吹雪が飛び出すことで、遊園地の側に建つマンションの配慮が必要だったかなと、ふと視線をそのマンションへ向けた際、異様な人影を目撃したのだ
8階建ての最上階、真ん中あたりのベランダの扉を開け放ち、遊園地へ向かって建つ黒服の姿が見えた
見たところ、他の部屋のベランダには上部にエアコンの室外機が設置されているが、黒服がいる部屋のベランダには室外機が見当たらず、さらにカーテンも無いようだった
そこに建つ黒服は、立ち尽くしているわけではなく、明らかに何かを肩の辺りから持って、構えている
まるでスナイパーのようだった
栗原優は考えている間もなく、本能的に走っていた
危険を感じる
人混みを掻き分け、入退場ゲートを抜け、マンションへ走っていた
中に入れるかどうか、入れなかったら管理人へ伝えて入れてもらうか、黒服がどこかから逃げ出してくるだろうか
走りながら考えた
切れそうな息を吐きながら、ようやくマンションのエントランスへ辿り着く
「………」
スマホの着信が鳴る
だが、今は話している場合ではない
あの黒服が構えだけの遊びであれば、それはそれで良い
もし、本当に誰かを狙っているのであれば…
普通の人であれば何も事を起こさないかもしれない
だが、栗原優は経験している
犬神絵美と猿渡慎吾と一緒に居た森の中で、二発も撃ち込まれた経験がある
それがあったから、栗原優は予感がしたのだ
遊園地の客ではなく、自分の身近な誰かが狙われているのではないか
偶然にも、オートロックが開いた
中から老夫婦が出てきたのだ
住人を装い軽く会釈をし、そのままエレベーターへ向かう
先程の老夫婦が使ったのか、エレベーターは1階に待機してあり、栗原優はすぐに乗り込み8階のボタンを押し、扉が閉まると、次の考えに移る
部屋の場所だ
確かこのマンションの間取りは9部屋あった
その真ん中、間違いないはずだ
エレベーターが止まり、扉が開く
すぐに部屋の方へ走り、玄関ドアの表札を確認する
空欄だった
息を整えながら、なるべく息を殺してドアに耳を当ててみる
中からは何も音は聞こえない
インターホンを鳴らすべきか迷う
中から何もなかったように黒服が出てくるのか、それともこちらに攻撃的な姿勢を見せてくるか、もしくは居留守を使われるか
幸い、インターホンにカメラは付いていない
ドアスコープから覗かれるかもしれないが、まずは黒服の行動を伺い、目撃したことを問うしかないだろう
遊園地の関係者として、なるべく低姿勢で、例えこちらの思い過ごしで文句を言われようとも、なるべく低姿勢で挑もうと決めた
そしてすぐに、インターホンを押す
中からチャイムの音が聞こえてきた
走ってきたせいなのか、緊張のせいなのか、心臓の鼓動が激しく落ち着いてくれない
なかなか中から応答がなく、再びインターホンを押そうと指を伸ばしたところで「ガチャッ」と音がした
ドアノブが反応している
そして無言のまま、ゆっくりとドアが開き始めたのだ
余計に緊張感が走る
栗原優はドアの開く方向へ合わせるよう思わず体を避けながら、ドアの向こう側を警戒した
すると、姿を現さないまま、中から意外な声を掛けられる
「…何か用ですか?栗原さん」
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