上 下
28 / 106
第五話 前編

臼井と犬神の能力乱用 3

しおりを挟む


「犬神さん、ちょっと電話して良いですか?」


臼井誠の提案に、犬神絵美は動揺する
救急車を呼ぶつもりだと思ったからだ


「電話なら私がするよ?」


「いや、知り合いに電話したくて」


なんだ、本当に心配するほど具合が悪いわけじゃないのか
犬神絵美は心配して損をしたと、肩を落とす
その途端に、臼井誠の親戚の名前すら教えてもらえてない停滞ぶりに、苛立ちが込み上げてくる


「いいけど、手短にして」


「はい、すみません…あ、もしかしたらですけど、後で電話を代わってもらうかもしれません」


「どういうこと?」


「それは、電話の相手に確かめてからになります。すみません、電話しますね」


臼井誠がスマホを取り出し、画面に電話帳のページが見えた
誰を押したかまでは分からなかったが、指がスクロールもせずに通話画面に切り替わっていた
スマホを耳に当てる臼井誠の声に集中する


「すみません、犬神さん。どうしても確かめたいことがあって電話しました」


犬神?と、犬神絵美はまさかの同姓と電話をしていることに驚く
そして、変に胸のあたりがざわつき始めた
なんだか、じっと待っていられない衝動にかられる


「友人関係に明らかな優劣があるようですが、これは何か意味があるんですか?」


臼井誠は何の話をしているのだ?
自分を待たせてまで聞かなければいけないことか?
犬神絵美は待たされていることに意味無し、そう感じるや否や、声を掛けようとした
しかし、臼井誠の次の言葉で、横から掴みかかろうとした姿勢を止める


「それは、立花桃に近付いている証拠ってことですよね?」


まさか、目の前の男の口から、自分が探している者の名前が出てくるとは思わなかった
犬神絵美からすれば臼井誠は、ヒントを求めて立ち寄った村にいる一人、村人その4ぐらいの存在だった
それが実は、自分と共に行動が必要かもしれない冒険者だと知らされた感覚だ


「え、聞こえない?えっと…縁を切った相手との記憶は残るのに、名前だけ記憶から消える意味は何ですか?」


一体、臼井誠は誰と話している?
意味の分からない話ばかりだし、それと立花桃に何の関係がある?
縁を切るって何?
犬神絵美は自分はよく我慢をしたはずだと納得し、ベンチに座って電話をする臼井誠の前に立ちはだかった


「おい。あんたには私に全てを説明してもらわなきゃいけない義務があるわ。電話を切って、一から説明しな」


睨みつける犬神絵美の姿に、臼井誠だけじゃなく、近くで時刻表を確認していた老婆までが振り返り固まってしまう


「ちょっと場所を変えようか。こっちに来な」


「そんな、まだ電話したいことが」


「うるさい!黙れ!」


臼井誠の腕を掴みベンチから立たせると、まるで罪人を連行するように、腕を離さず掴んだまま、駅前通りを外れたところまで連れて行った



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...