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第五話 前編
臼井と犬神の能力乱用 3
しおりを挟む「犬神さん、ちょっと電話して良いですか?」
臼井誠の提案に、犬神絵美は動揺する
救急車を呼ぶつもりだと思ったからだ
「電話なら私がするよ?」
「いや、知り合いに電話したくて」
なんだ、本当に心配するほど具合が悪いわけじゃないのか
犬神絵美は心配して損をしたと、肩を落とす
その途端に、臼井誠の親戚の名前すら教えてもらえてない停滞ぶりに、苛立ちが込み上げてくる
「いいけど、手短にして」
「はい、すみません…あ、もしかしたらですけど、後で電話を代わってもらうかもしれません」
「どういうこと?」
「それは、電話の相手に確かめてからになります。すみません、電話しますね」
臼井誠がスマホを取り出し、画面に電話帳のページが見えた
誰を押したかまでは分からなかったが、指がスクロールもせずに通話画面に切り替わっていた
スマホを耳に当てる臼井誠の声に集中する
「すみません、犬神さん。どうしても確かめたいことがあって電話しました」
犬神?と、犬神絵美はまさかの同姓と電話をしていることに驚く
そして、変に胸のあたりがざわつき始めた
なんだか、じっと待っていられない衝動にかられる
「友人関係に明らかな優劣があるようですが、これは何か意味があるんですか?」
臼井誠は何の話をしているのだ?
自分を待たせてまで聞かなければいけないことか?
犬神絵美は待たされていることに意味無し、そう感じるや否や、声を掛けようとした
しかし、臼井誠の次の言葉で、横から掴みかかろうとした姿勢を止める
「それは、立花桃に近付いている証拠ってことですよね?」
まさか、目の前の男の口から、自分が探している者の名前が出てくるとは思わなかった
犬神絵美からすれば臼井誠は、ヒントを求めて立ち寄った村にいる一人、村人その4ぐらいの存在だった
それが実は、自分と共に行動が必要かもしれない冒険者だと知らされた感覚だ
「え、聞こえない?えっと…縁を切った相手との記憶は残るのに、名前だけ記憶から消える意味は何ですか?」
一体、臼井誠は誰と話している?
意味の分からない話ばかりだし、それと立花桃に何の関係がある?
縁を切るって何?
犬神絵美は自分はよく我慢をしたはずだと納得し、ベンチに座って電話をする臼井誠の前に立ちはだかった
「おい。あんたには私に全てを説明してもらわなきゃいけない義務があるわ。電話を切って、一から説明しな」
睨みつける犬神絵美の姿に、臼井誠だけじゃなく、近くで時刻表を確認していた老婆までが振り返り固まってしまう
「ちょっと場所を変えようか。こっちに来な」
「そんな、まだ電話したいことが」
「うるさい!黙れ!」
臼井誠の腕を掴みベンチから立たせると、まるで罪人を連行するように、腕を離さず掴んだまま、駅前通りを外れたところまで連れて行った
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