16 / 106
第三話 前編
臼井と犬神 4
しおりを挟む犬神という苗字がただでさえ珍しいのに、今日出会ったばかりの神の使者も犬神だった
偶然にしては…
「あの、早くしてくれない?」
「あ、すみません。ご希望のパックやご希望の部屋はありますか?」
やり取りをしながら、犬神絵美の顔を確かめ直す
鼻は違うものの、どこか犬神里美に似ている気がしてきた
もしかして、この女性も…神の使者?
「では、こちらがお客様のお部屋になります」
細長いバインダーに挟んだ発効伝票と、預かっていた会員証を渡す
そして、ここで能力を使おう、としたが辞めた
犬神絵美から伝わる雰囲気が、臼井誠を臆させる
人に触れさせたくない強い警戒心、不信感、次の瞬間に手を出してきそうな攻撃的な雰囲気、初対面でも感じてしまう
もともと人とうまく付き合えない臼井誠
危険を回避する直感だけは養われてきた
犬神里美の挑発的な言動、犬神絵美の攻撃的な雰囲気
どちらも、まるでハンターのようだ
犬神なだけに犬の素質があるのか?
「そんなバカな」
首を振る臼井誠がいるカウンターに、犬神絵美の姿はもう無い
ただ、部屋の位置は分かる
勘違いかもしれないが、もし繋がっていれば犬神里美のことを知ることができる
立花桃に関する情報を、犬神絵美なら教えてくれるかもしれない
「はい、交代」
パーマヘアーのスタッフ、柿原一騎(かきはら いっき)がカウンターへ現れる
お決まりの交代だ
この時間に必ず来る常連の女性客に、柿原一騎が一目惚れしている
仲良くなる為、彼女の受付だけは柿原一騎に任せることをスタッフ間で取り決めている
だが、彼女にはその気は全く無いようで、半年経っても連絡先すら交換できていない
「臼井くん、トイレ掃除してきて」
「え、まだ清掃時間じゃないよ?」
「いやさっきさあ、男子トイレ内巡回したら、大便器のとこに漫画とティッシュが散らばってたんだよね~。まじ、こんな時間に勘弁してほしいよ。片付けようとしたけど、ほら、時間じゃん?だからちょ~ど、カウンターから離れる臼井くんにお願いしたくて」
「…わかった」
はじめから、これをさせる為に受付業務を交代させたのだ
変なタイミングだった
自分が相手したのは犬神絵美だけ
かなり短い時間だった
常連の女性客が来る時間だとは分かっていたが、まさかこんな仕掛けだったとは
柿原一騎は年下の後輩だが、臼井誠に対しては皆、同じように気をつかわない
そして時間通りに女性客がやってきた
「いらっしゃいませ、いつもありがとうございます」
まるで水商売のボーイのような姿勢だ
まあ、女性客も水商売をしているような雰囲気がある
そんな女性に下から入っていったところで、同じ位置になるまでに、あと何年かけるつもりだろう
臼井誠は踵を返し、カウンターから離れようとした
そこで、ふと立ち止まる
再び体を後ろへ反転させ、カウンターにいる女性客を視界に入れた
受付をしながら世間話を挟んでいる柿原一騎
話に合わせながら頷くが、軽くあしらっているようにも見える女性客
そこへ歩み出した、臼井誠
柿原一騎が臼井誠に気付いて視線を向ける
女性客も何事かと視線をこちらへ向けてくる
臼井誠がすぐに肩へ触れた
「おかえり」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる