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07-2. 7年後 2
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今回の戦争の結果、レイエ王国はガスティエン王国の三分の一を手に入れた。土地の多くは報償として従軍した貴族に下賜される予定だ。残りの三分の二はレストヴァ王国が支配下に置き、終戦と同時に国が消滅している。
キャスリンの弟やフェリクスの弟は祝賀会が終わった後、下賜された領地に向かう。同じような境遇の、農民の次男や三男たちとその家族や恋人を連れて。
元々、その土地を支配していた領主たちは、後継となる子や孫が平民と変わらぬ魔力しか持たなくなった時点で、自分たちの時代の終焉を悟っているだろう。力を以て土地を追われなくても、自分たちの代で家が終わることも。
もし悟っていなかったとしても、新たな領主が来た時点で理解するしかない。彼らは土地を出ていくか、農民として生きていくかの二択を迫られるのだ。
本来、占領地を統治するのに、新たな領主に挿げ替えるのは聞かない話である。普通は貴族たちは新たな王を受け入れ恭順するだけだ。今回、余計な波風を立ててまで領主を挿げ替えるのは「魔力が少ない」の一言に尽きる。
「全てが落ち着いた頃、元のガスティエン人は残っているのかしら?」
「多分だけど、少数民族の一つとして点在して暮らすようになるんじゃないか。もっと先、この子達が大人になる頃は淘汰されているかもしれないね」
厳しい言葉だった。
しかし従軍した弟たちから聞いた話では、キャスリンがかの国で暮らしていた時と変わらず、尊大でレイエ王国を下に見る者ばかりだったというから、フェリクスの言葉通りだろうと思う。古くから住んでいた農民たちが新たに入植してくる農民たちと上手く行くとも思えないし、レイエ人貴族の領主を認めるとも思えない。
ほぅ……と溜息をついたときだった。部屋のドアがノックされ執事が手紙を持って入ってきた。
「……ガスティエンの元国王が亡くなったらしい。デラフェンテ公爵も」
手紙の内容は、因縁ある尊い身の死亡連絡だった。逆恨みからキャスリンを害そうとしているのでは、という噂を否定するとともに、その可能性ある人物の死を教えるために認められたのだろう。
「何があったのかしら?」
敗戦国の、王位を簒奪された元国王とはいえ、護衛はそれなりにいた筈だ。デラフェンテ公爵も臣籍に下ったとはいえ王弟なのだから、守られるべき人なのだ。
「夜陰に紛れて逃亡を図ったけど、押し寄せた暴徒に襲われたらしい。食べていけなくなった平民が相当数いるみたいだね。治安が相当悪くなっているようだよ」
「まあ……」
もう二度と顔を合わせたくないどころか、煩わされるのも名前を聞くのさえ嫌だったけれど、殺されてしまえとまでは思ってみなかった。意外な最後だったけれど、自分本位過ぎる人たちだったから自業自得なのだろう。
そう思うと、キャスリンは彼らを忘れることにした。妻であり母であるのだから心を配るのは家族だけで、自分を煩わせた相手ではないのだった。
キャスリンの弟やフェリクスの弟は祝賀会が終わった後、下賜された領地に向かう。同じような境遇の、農民の次男や三男たちとその家族や恋人を連れて。
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もし悟っていなかったとしても、新たな領主が来た時点で理解するしかない。彼らは土地を出ていくか、農民として生きていくかの二択を迫られるのだ。
本来、占領地を統治するのに、新たな領主に挿げ替えるのは聞かない話である。普通は貴族たちは新たな王を受け入れ恭順するだけだ。今回、余計な波風を立ててまで領主を挿げ替えるのは「魔力が少ない」の一言に尽きる。
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厳しい言葉だった。
しかし従軍した弟たちから聞いた話では、キャスリンがかの国で暮らしていた時と変わらず、尊大でレイエ王国を下に見る者ばかりだったというから、フェリクスの言葉通りだろうと思う。古くから住んでいた農民たちが新たに入植してくる農民たちと上手く行くとも思えないし、レイエ人貴族の領主を認めるとも思えない。
ほぅ……と溜息をついたときだった。部屋のドアがノックされ執事が手紙を持って入ってきた。
「……ガスティエンの元国王が亡くなったらしい。デラフェンテ公爵も」
手紙の内容は、因縁ある尊い身の死亡連絡だった。逆恨みからキャスリンを害そうとしているのでは、という噂を否定するとともに、その可能性ある人物の死を教えるために認められたのだろう。
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そう思うと、キャスリンは彼らを忘れることにした。妻であり母であるのだから心を配るのは家族だけで、自分を煩わせた相手ではないのだった。
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