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終幕後03 アーヴァイン大司教の活躍

05. 嫡子の認知 2

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 洗礼式は親であるカタリナとその付き添いであるリリー=ロートン、そして教会関係者しかいない寂しいものだった。

 赤ん坊はアーヴァイン大司教が名付け親になりアルベルトという名前になった。母親譲りの金髪と、父親譲りの濃青色の瞳を持つ子供だった。目元は父親似、通った鼻筋や口元は母親似と、両親のどちらにも似た子供で、アボットが我が子でないと言い張るには少々、父親に似すぎていた。

 カタリナは洗礼式が済み次第この国を発つ。結局、父親による認知は叶わなかったが、代わりにアーヴァイン大司教による、子の出生を証明する手紙を用意された。それを読めばカタリナの息子が私生児ではないことは理解してもらえる。

「色々とお世話になりました。リリーにも話し相手になってもらえて、気が晴れました」

「それは何よりです。セルティアでの生活の全てがつらいものにならなくて」

「夫は最低な人でしたが、それ以外は良い思い出しかありませんわ。外国人の私にも皆さんよくしてくれました」

 そう言って微笑む。既に子の認知問題は心の中で整理がついたのだろう。とても晴れやかな笑顔だった。

「もしこちらに遊びに来られたら、是非、大聖堂にも立ち寄ってください。それとこれは路銀です。旅の最中にお金が尽きたら大変ですからね」

 手渡したのは小さな袋だ。中には幾ばくかの宝石が入っている。既に金貨や銀貨を十分に渡しているから、本来は不要なものだ。売れば旅費の全額どころか、帰国して一年くらいは問題無い額になる筈だ。

「でも旅の手配は全て大司教猊下がしてくださってますわ」

「問題ありません、これは『経費』です。ロクデナシの懐から出ていると思って受け取りなさい」

 経費、それは匿われていたとき、嵩む費用を気にするカタリナに対して、アーヴァインが言った言葉だった。

 慰謝料の肩代わりですよ。離婚に関わる経費として受け取っておきなさいと。かかった費用は全て後からアボット男爵に請求するから問題ありません、教会の出費にはなりませんよと。

 聖アマーリエ女子修道院の院長からも「あのアーヴァイン大司教が、自分の損になることはいたしません、安心して受け取っておきなさい。その数倍の費用をアボット男爵に請求するだけなのだから」と。

「さあ、もうお行きなさい。レザンディン王国は遠いですよ。出立が遅れれば、今日の宿に到着するのも遅くなり、体力を消耗します。明日以降の旅程にも響きます」

 カタリナ夫人とアルベルトは洗礼式の後、旅立つことになっている。教会の本山がある国なので、教会関係者の行き来は多い。それに同行する形での帰国になるため、旅慣れた司祭による案内と護衛付きの快適な旅になる予定だ。

「帰国後に何かあれば、私の叔父を頼ると良いですよ。枢機卿を務めていますから、大抵のことは解決してくれます」

「判りました。ではお暇させていただきます。リリーも本当にありがとう」

「気を付けてカタリナ。もし巡礼の旅に出たら、あなたの家に遊びにいくわ」

 修道院の中で親しくなった友人たちとの別れも終わり、カタリナは馬車に乗る。

 走り出した馬車はあっという間に小さくなり、そう時間もたたずに見えなくなった。
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