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終幕後02 伯爵夫人ブリトニーの流儀
02. 夫の浮気騒動とやっかいな幼馴染 2
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「全く、あなたときたら……。何か言われたら、次からは部屋の場所だけ聞いて、その次に私を会場で探してくださいな。もしみつからなければ、私の友人に尋ねてください」
「ごめん、僕は君の足を引っ張ってばかりだ」
気弱な夫は、妻の尻に敷かれた軟弱者と評判だ。
「でも私を心配してくれたことは嬉しいわ。きっとアーサー以外は私が倒れたと言っても一笑に付して、誰も信用しないと思うわ」
「そんなことはない。君は女性にしては体力があるけれど、それでも守られるべき存在だよ」
「嬉しいわ。私の騎士はあなただけね」
実際、弱みを見せたくないブリトニーは、何があっても強気で堂々としている。それが祟ってつらいことがあったときに誰にも甘えることができなかった。
例えそれが母の葬儀のときであっても。
必死で涙を堪えていたブリトニーを慰め、胸を貸したのはアーサー以外、誰もいなかった。実の父や兄でさえ彼女の張り裂けそうな胸の内に気づかなかったのだ。
「でも浮気をされた妻としては、言葉だけでなく誠意を見せてもらいたいわ」
甘えから一転して、挑むような眼で夫を見上げる。
「私、大きな紅玉が欲しいの。首飾りと耳飾りを合わせて。それと大きな紅玉の周りを、小さな紅玉で取り巻きたいわ」
「それはまた随分と高そうだね」
「ええ、夜会用のドレス一年分くらいかしら? でも大丈夫よ、石は押さえてあるの。加工は領地でできるでしょう? 普通に買うよりはずっと安上がりよ」
「その石はリプセット商会かな?」
「ええ、勿論」
リプセット商会は妹の嫁ぎ先で、ブリトニーの実家の領地の中に店を構えている商会だ。
ブリトニー自身が夫の仕事を手伝い、実績を上げることで報酬を受け取っているため、他の夫人よりも金回りが良いのだ。だから少々どころではなく値の張る買い物も簡単だ。もっとも今回の宝石の代金は、後から夫に請求する気満々だったが。
「大丈夫よ、お抱えの工房に作らせれば安くできるし宣伝にもなるわ。石と工賃の代金はあなたが売ってきっちり回収できると思うの、頑張ってね」
エレンディア家の商売は宝飾品加工と販売だ。ブリトニーとアーサーの結婚は一応は恋愛結婚だったが、形としては政略になる。
気の弱そうな見た目から、強気な女性に迫られて逃げること数回、女性関係には振り回されっぱなしのアーサーだが、商売や領主としての能力は非常に高い。ブリトニーと結婚してからの収入は右肩上がりだった。
だから少しばかり値の張るおねだりもなんとかなるのだが、それにしてもドレス一年分は高額だ。
しかも妻の要求は常に過小評価で、実際にはそれ以上なことばかりだ。今回も伯爵家の支出一年分程度に出費が膨らむだろう。
アーサーは大きく溜息をついた。
馬車馬のように働かなくては、その費用を捻出するのは難しそうだった。
「……頑張るよ」
力なくこたえる夫と嬉しそうな妻を乗せて、馬車はエレンディア伯爵家の街屋敷へと帰っていく。
「ごめん、僕は君の足を引っ張ってばかりだ」
気弱な夫は、妻の尻に敷かれた軟弱者と評判だ。
「でも私を心配してくれたことは嬉しいわ。きっとアーサー以外は私が倒れたと言っても一笑に付して、誰も信用しないと思うわ」
「そんなことはない。君は女性にしては体力があるけれど、それでも守られるべき存在だよ」
「嬉しいわ。私の騎士はあなただけね」
実際、弱みを見せたくないブリトニーは、何があっても強気で堂々としている。それが祟ってつらいことがあったときに誰にも甘えることができなかった。
例えそれが母の葬儀のときであっても。
必死で涙を堪えていたブリトニーを慰め、胸を貸したのはアーサー以外、誰もいなかった。実の父や兄でさえ彼女の張り裂けそうな胸の内に気づかなかったのだ。
「でも浮気をされた妻としては、言葉だけでなく誠意を見せてもらいたいわ」
甘えから一転して、挑むような眼で夫を見上げる。
「私、大きな紅玉が欲しいの。首飾りと耳飾りを合わせて。それと大きな紅玉の周りを、小さな紅玉で取り巻きたいわ」
「それはまた随分と高そうだね」
「ええ、夜会用のドレス一年分くらいかしら? でも大丈夫よ、石は押さえてあるの。加工は領地でできるでしょう? 普通に買うよりはずっと安上がりよ」
「その石はリプセット商会かな?」
「ええ、勿論」
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ブリトニー自身が夫の仕事を手伝い、実績を上げることで報酬を受け取っているため、他の夫人よりも金回りが良いのだ。だから少々どころではなく値の張る買い物も簡単だ。もっとも今回の宝石の代金は、後から夫に請求する気満々だったが。
「大丈夫よ、お抱えの工房に作らせれば安くできるし宣伝にもなるわ。石と工賃の代金はあなたが売ってきっちり回収できると思うの、頑張ってね」
エレンディア家の商売は宝飾品加工と販売だ。ブリトニーとアーサーの結婚は一応は恋愛結婚だったが、形としては政略になる。
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だから少しばかり値の張るおねだりもなんとかなるのだが、それにしてもドレス一年分は高額だ。
しかも妻の要求は常に過小評価で、実際にはそれ以上なことばかりだ。今回も伯爵家の支出一年分程度に出費が膨らむだろう。
アーサーは大きく溜息をついた。
馬車馬のように働かなくては、その費用を捻出するのは難しそうだった。
「……頑張るよ」
力なくこたえる夫と嬉しそうな妻を乗せて、馬車はエレンディア伯爵家の街屋敷へと帰っていく。
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