34 / 89
終幕後01 ネイサン=ファーナムの決闘履歴
04. 入団直後 4
しおりを挟む
夕方、移動した同期たちが寮に戻ってきたとき、疲労困憊し歩くのがやっとの生きた屍状態だった。
「お前、上官に泣きついたのかよ」
ヘロヘロになりながらも、ネイサンの顔を見つけて恨み言をぶつけてくる。
「知らないよ」
「お前らが羨んだコネそのものだよ」
ネイサンを庇うライリーは、いつもの調子で突き放す。
「お前らが死にそうな訓練、俺は入団前から同じくらい扱かれてたからな。あれが俺の普通なんだ」
ライリーの言葉で周囲が一瞬、しんと静まり返る。
「大体な、自分の弟や息子が弱かったら恥ずかしいだろ、だから自分のために扱くんだよ! 一回くらいで恨み言なんか言うなよ、情けねえな」
自分のため……ライリーのためではなく、自分のために息子や弟を扱く、そんな言葉が一気にライリーへの同情に変わった。
「俺、武器と水を持たされただけで山の中に放り出されたこともあるんだぜ。十歳のときに。自力で山を下りて来いって」
わざわざ剣を持たされるのだ、遊び目的で行くような場所ではないのだろう。
「下山するまで三日もかかるし、獣はうようよいるし、夜は狼の群れに襲われたりして、あれは大変だった……」
思い出しながらライリーは遠い目になる。
「食事なんか自分が狩った獲物しかないから、道中、兎を仕留めたり猪を仕留めたりして食つなぐんだけど、手早くやんないと他の獣が血の臭いに釣られてやって来るし、あれは大変だった。本当に大変過ぎて二度とごめんだ」
大変だと二度言うライリーは、心底嫌そうだった。
「そんなにコネが羨ましいってんだったら、兄貴たちを紹介するから言ってくれよ」
そう言えば、誰も何も言わなくなった。
「……大変だったんだな」
ネイサンを始めとする友人たちはライリーを労る。
「もう思い出したくない。俺、末っ子だったから兄貴たち全員から可愛がられて……」
可愛がるという言葉が文字通りでないことは、全員が判っていた。
「多分だけど、今日のあいつらは初めてだからすごく手加減されたと思う。それで愚痴を言うなんて甘ったれすぎだよ」
その日、一番荒れたのは扱かれた連中ではなくライリーだった。
「お前、上官に泣きついたのかよ」
ヘロヘロになりながらも、ネイサンの顔を見つけて恨み言をぶつけてくる。
「知らないよ」
「お前らが羨んだコネそのものだよ」
ネイサンを庇うライリーは、いつもの調子で突き放す。
「お前らが死にそうな訓練、俺は入団前から同じくらい扱かれてたからな。あれが俺の普通なんだ」
ライリーの言葉で周囲が一瞬、しんと静まり返る。
「大体な、自分の弟や息子が弱かったら恥ずかしいだろ、だから自分のために扱くんだよ! 一回くらいで恨み言なんか言うなよ、情けねえな」
自分のため……ライリーのためではなく、自分のために息子や弟を扱く、そんな言葉が一気にライリーへの同情に変わった。
「俺、武器と水を持たされただけで山の中に放り出されたこともあるんだぜ。十歳のときに。自力で山を下りて来いって」
わざわざ剣を持たされるのだ、遊び目的で行くような場所ではないのだろう。
「下山するまで三日もかかるし、獣はうようよいるし、夜は狼の群れに襲われたりして、あれは大変だった……」
思い出しながらライリーは遠い目になる。
「食事なんか自分が狩った獲物しかないから、道中、兎を仕留めたり猪を仕留めたりして食つなぐんだけど、手早くやんないと他の獣が血の臭いに釣られてやって来るし、あれは大変だった。本当に大変過ぎて二度とごめんだ」
大変だと二度言うライリーは、心底嫌そうだった。
「そんなにコネが羨ましいってんだったら、兄貴たちを紹介するから言ってくれよ」
そう言えば、誰も何も言わなくなった。
「……大変だったんだな」
ネイサンを始めとする友人たちはライリーを労る。
「もう思い出したくない。俺、末っ子だったから兄貴たち全員から可愛がられて……」
可愛がるという言葉が文字通りでないことは、全員が判っていた。
「多分だけど、今日のあいつらは初めてだからすごく手加減されたと思う。それで愚痴を言うなんて甘ったれすぎだよ」
その日、一番荒れたのは扱かれた連中ではなくライリーだった。
27
お気に入りに追加
3,656
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。