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1章 訣別
17-2. キエザ辺境伯家と隣の事情
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ルイーゼのお兄様がフォートレル辺境伯家を訪れたのは、次の日の朝早くだった。往来は控えたいが、事情をまったく説明しないのも不義理なので、という理由だ。
「こんな時間に申し訳ない」
「先触れがあったのでお気になさらず」
セザールがにこやかに返している。
面会にフォートレル辺境伯は不参加だ。次世代同士、思うようにやりなさいということらしい。どうしても困った事態になれば、顔を出すと言われている。
「この時間ということは、夜陰に紛れて?」
「そうです。どこに人の目があるかわからないので」
首肯しながら簡単に状況の説明を始める。
「こちらの辺境伯家よりも、ウチの方が他領との往来が多いので念のために。我が家は辺境伯家の中でも北端に位置しますし、爵位のない平民扱いだから、そこまで気にしなくても大丈夫なのでしょうが」
キエザ辺境伯は伯父にあたり、直系に何かあれば後を継ぐ可能性もある家だけど、身分が貴族でないというだけで周囲の扱いはとても軽くなる。
「隣の領地の後継者が辺境を知らない者だとか?」
セザールの問いに、ディーノさん――ルイーゼの上のお兄様が溜息をつく。
「困ったことに。しかも本人は平民として育っているから、貴族の義務というのが身についていないのも」
「というと……?」
「四代前の当主の孫です。前当主とは再従兄弟の関係で、付き合いもなかったようですね。王都の大手商会で働いていたようです」
随分遡って後継を探したなというのが感想だった。子供が二代に渡って一人っ子というのは考えにくい。前当主の兄弟や、先代当主の兄弟やその子供たちはいなかったのだろうか。
私の頭を擡げた疑問は、こちら側の参加者全員も持ったみたいで、代表してセザールが質問する。
「先代の弟は幼少期に病気で亡くなっています。かつて魔獣の動きが活発になった時期があり、先々代の兄弟はそのときに……」
魔獣討伐は辺境を治める当主一族の仕事だ。戦闘に不向きな者でも、支援など間接的に関わることになる。対人戦闘では後方に下がる私も、森に入れば前衛を務めることは珍しくない。フェリシテだって前衛で闘っている。
お母さまも生前は魔獣討伐などに積極的で、叔母様――叔父様の亡くなった配偶者は戦闘が苦手だったから、後方支援に徹していた。
「今の当主は、商人としては優秀なんでしょうね。商会の支店を任せるという話も出ていたらしいので……」
「でも商人と貴族では考え方が違うから領地経営で壁にぶつかったということかな?」
「損得勘定で終わる話ではないのは、領地経営にかかわる貴族なら当たり前のようにもっている意識なんだが」
アマディ家は貴族扱いされていないけど、本家であるキエザ辺境伯家の一番身近で補佐を任されているから、考え方が貴族そのものだ。
「問題はもう一つあって、その新領主の婚約者が、国王の従妹に当たる。といっても先代国王の異母妹が降嫁した家の娘だから、国王との関係は薄い。されど王家の血筋、わかっていないからと無碍にもできずにいて、こちらも困っている」
実力もないのに権力だけはある、という構図なのか。一番やっかいな状況だ。
「こんな時間に申し訳ない」
「先触れがあったのでお気になさらず」
セザールがにこやかに返している。
面会にフォートレル辺境伯は不参加だ。次世代同士、思うようにやりなさいということらしい。どうしても困った事態になれば、顔を出すと言われている。
「この時間ということは、夜陰に紛れて?」
「そうです。どこに人の目があるかわからないので」
首肯しながら簡単に状況の説明を始める。
「こちらの辺境伯家よりも、ウチの方が他領との往来が多いので念のために。我が家は辺境伯家の中でも北端に位置しますし、爵位のない平民扱いだから、そこまで気にしなくても大丈夫なのでしょうが」
キエザ辺境伯は伯父にあたり、直系に何かあれば後を継ぐ可能性もある家だけど、身分が貴族でないというだけで周囲の扱いはとても軽くなる。
「隣の領地の後継者が辺境を知らない者だとか?」
セザールの問いに、ディーノさん――ルイーゼの上のお兄様が溜息をつく。
「困ったことに。しかも本人は平民として育っているから、貴族の義務というのが身についていないのも」
「というと……?」
「四代前の当主の孫です。前当主とは再従兄弟の関係で、付き合いもなかったようですね。王都の大手商会で働いていたようです」
随分遡って後継を探したなというのが感想だった。子供が二代に渡って一人っ子というのは考えにくい。前当主の兄弟や、先代当主の兄弟やその子供たちはいなかったのだろうか。
私の頭を擡げた疑問は、こちら側の参加者全員も持ったみたいで、代表してセザールが質問する。
「先代の弟は幼少期に病気で亡くなっています。かつて魔獣の動きが活発になった時期があり、先々代の兄弟はそのときに……」
魔獣討伐は辺境を治める当主一族の仕事だ。戦闘に不向きな者でも、支援など間接的に関わることになる。対人戦闘では後方に下がる私も、森に入れば前衛を務めることは珍しくない。フェリシテだって前衛で闘っている。
お母さまも生前は魔獣討伐などに積極的で、叔母様――叔父様の亡くなった配偶者は戦闘が苦手だったから、後方支援に徹していた。
「今の当主は、商人としては優秀なんでしょうね。商会の支店を任せるという話も出ていたらしいので……」
「でも商人と貴族では考え方が違うから領地経営で壁にぶつかったということかな?」
「損得勘定で終わる話ではないのは、領地経営にかかわる貴族なら当たり前のようにもっている意識なんだが」
アマディ家は貴族扱いされていないけど、本家であるキエザ辺境伯家の一番身近で補佐を任されているから、考え方が貴族そのものだ。
「問題はもう一つあって、その新領主の婚約者が、国王の従妹に当たる。といっても先代国王の異母妹が降嫁した家の娘だから、国王との関係は薄い。されど王家の血筋、わかっていないからと無碍にもできずにいて、こちらも困っている」
実力もないのに権力だけはある、という構図なのか。一番やっかいな状況だ。
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