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1章 訣別

16-1. 敵襲

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 言葉と同時に急速上昇する。上を抑えられるのは空戦では不利なのだ。
 黒い影はワイバーンに騎乗した人。森を回り込んだ経路は辺境の人間飛行航路ではない。
 上昇しきって再確認すると、既にくっきりと形が見えるまで近づいていた。

「マリエは後方に!」
 聖女の魔力は辺境になくてはならないもので守られるべき対象なのだ。だから戦闘力があるからと前に出てはいけない。魔獣相手なら防御をしっかりすれば大丈夫だけど、対人戦の場合はどういった作戦を立てているかわからないし厄介なのだ。

 でも――。

「まだ海上なら防御結界の応用で墜とせると思う」
「だが敵にマリエの魔力を見せたくない」
 エドモンさん――フェリシテの下のお兄様が私を止める。

「全力は出さないわ。そちらの方と力を合わせた形になる。相手のワイバーンに聖属性魔法を高出力で当てるの。今の城壁と同じくらい」

 ワイバーンも魔獣だから聖属性魔法は苦手だ。人の手で育っていることと訓練の結果、耐性がついているというだけで。
 とはいえ強くした城壁の聖属性結界は辺境のワイバーンでも駄目なほど強力にしてある。少し前までは問題ない程度の強さだったから森との往来は自由だったけど、中央側も使役することを考えての措置だった。

「それくらいなら私でも余裕で出せる程度です」
「だったらそれで任せたぞ、シュリエ!」

 随行していた方からもフォローが入る。
 フェリシテが名を呼んでくれたから名前がわかった。

「城壁の結界に上乗せする形にしましょう!」
 言っている間にも敵は急速に近づいてくる。

「城壁ではなく、沖の結界に上乗せで頼む!」
 沖の岩礁にも結界が張ってある。波の満ち引きがあるから石積みの城壁は作れなくても、魔法障壁を作ることで魔獣対策になっているのだ。

「敵は十五……いや二十か!」
 エドモンさんの指示とクロヴィスの報告を受けて「余裕です」とシュリエが返した。

「じゃあ私はフォローに回る」
 一応、守られている形は取ろうと思う。
 クロヴィスとフェリシテ、エドモンさんは「任された」と言って先行する。

 三……二……一……。

 近づく敵が障壁に接触するのをカウントダウンしていく。
 もし沖合にある聖属性の魔法障壁を問題なく通過したなら、城壁の結界に魔力を上乗せして、確実に仕留められるように一番後ろで待機だ。

 ――バシンッ!

 衝撃を受けたように、敵のワイバーンが次々と墜落していく。
 実際にはなかった音が聞こえたような気がする。

 半分が海に墜落し、残りは失速しながら地上に墜ちていく。
 態勢を立て直そうと騎手たちが手綱を引くけど、ワイバーンから落ちないようにするのが手一杯だった。
 そこを前衛の三人が魔法の風を当てて、次々と落としていった。それなりに高さはあったけど死ぬほどではない。

「近くの詰め所に連絡を入れましたから、直ぐに応援が駆け付けます」
「北の辺境伯家お抱えの傭兵かしら?」
「だと思いますが、生きているので情報を引き出せるでしょう」

 北と西の辺境伯家は領主家族が王都に住んでいる。森の管理や魔獣を狩るのは専ら傭兵の仕事だ。一応、兵力ではないという言い訳に冒険者などと称しているけど、呼び方以外の違いはない。

 辺境伯家として常時所有している軍事力は、領主家族や屋敷を守る護衛騎士くらいと、ほかの中央貴族と変わらなかった。
 全員、地上に墜ちたけどフラフラになりながらも剣を抜き、果敢にも闘う意志を見せている。でもそんな状況で辺境領主一族に叶うはずもない。

 クロヴィスの一閃で剣を持つ腕が跳ばされた。続いてエドモンが別の敵の胴を掃う。手際よく次々と戦闘不能にしていくと、あっという間に拘束して武装を解除していった。

 フェリシテはといえばその間に海に向かっている。海に墜ちた傭兵たちは泳げなかったらしく気付いたら海に沈んでいた。ワイバーンの方は身体が痺れたように動けないまま波に弄ばれている。

 それを次々に浮かせて陸に揚げていく。弱っているけど騎手と違って死んではいないみたいだ。今後は調教し直して辺境のワイバーンとして使っていくのだろう。
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