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1章 訣別
09-2. 独立
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夜襲から一か月後――。
南と東の辺境が一気に森を拡大させた。馬で森を抜けるのは以前より更に難しくなった。野蛮だといってワイバーンを排していた中央は、辺境に軍を送ることも使者を送るのも難しい状況だ。
オリオール伯爵家が王都の屋敷を引き払った後、街道付近はあまり手をつけなかったものの、街道から離れた土地は森を広げていたから、馬が街道を走れなくなるまであっという間だったのだ。
「あの惨状が嘘みたいに穏やかね」
遺体を埋葬することも考えたけど、数が多すぎた上、血の匂いに釣られた魔獣に食い荒らされてどうしようもなかった。
もし手を出そうものなら辺境領の兵士たちに被害が出そうだったのだ。
「中央貴族はこういう結末を望んでいたのかしら?」
同じワイバーンに乗るクロヴィスに話しかける。
「さあ? 何も考えていなかったんじゃないかな。ただ楽な方に流されただけで」
森の向こうには私の背丈くらいに育った木々が続いている。植林したばかりだからまだ細く頼りない。とはいえ枯れ葉や堆肥と魔法石粉を土に混ぜたから、次に見回るときは立派に成長してるだろう。
森の面積が数倍に広がって、ワイバーンを捕食するような大型の魔獣が生息するようになれば、もう人が辺境と中央を行き来するのは無理になる。
二百年も続いた平和であり、中央との付き合いだった。壊れるときはあっという間なのだと思うと、一抹の寂しさがある。嫌な思い出ばかりだけど、楽しかった思い出も少ないけど確かにある。初代の頃は、今となっては信じられないほど両者の関係が良かったらしい。
「中央が敵国になってしまったから、警戒を怠れなくなってしまったわね」
「そうだな、人の欲望は際限ないから、魔獣より性質が悪い」
クロヴィスは私と違って中央人の友人がいた。隣接するランヴォヴィル侯爵家の子供たちとの関係も良好だった。多分、二度と会うことは叶わないし、消息を知る術もない。
「あっけないわね」
「あっけないな」
私たちはそれ以上言葉を交わすことなく帰還した。服越しに感じるクロヴィスの体温が感傷的になった心を癒してくれた。
南と東の辺境が一気に森を拡大させた。馬で森を抜けるのは以前より更に難しくなった。野蛮だといってワイバーンを排していた中央は、辺境に軍を送ることも使者を送るのも難しい状況だ。
オリオール伯爵家が王都の屋敷を引き払った後、街道付近はあまり手をつけなかったものの、街道から離れた土地は森を広げていたから、馬が街道を走れなくなるまであっという間だったのだ。
「あの惨状が嘘みたいに穏やかね」
遺体を埋葬することも考えたけど、数が多すぎた上、血の匂いに釣られた魔獣に食い荒らされてどうしようもなかった。
もし手を出そうものなら辺境領の兵士たちに被害が出そうだったのだ。
「中央貴族はこういう結末を望んでいたのかしら?」
同じワイバーンに乗るクロヴィスに話しかける。
「さあ? 何も考えていなかったんじゃないかな。ただ楽な方に流されただけで」
森の向こうには私の背丈くらいに育った木々が続いている。植林したばかりだからまだ細く頼りない。とはいえ枯れ葉や堆肥と魔法石粉を土に混ぜたから、次に見回るときは立派に成長してるだろう。
森の面積が数倍に広がって、ワイバーンを捕食するような大型の魔獣が生息するようになれば、もう人が辺境と中央を行き来するのは無理になる。
二百年も続いた平和であり、中央との付き合いだった。壊れるときはあっという間なのだと思うと、一抹の寂しさがある。嫌な思い出ばかりだけど、楽しかった思い出も少ないけど確かにある。初代の頃は、今となっては信じられないほど両者の関係が良かったらしい。
「中央が敵国になってしまったから、警戒を怠れなくなってしまったわね」
「そうだな、人の欲望は際限ないから、魔獣より性質が悪い」
クロヴィスは私と違って中央人の友人がいた。隣接するランヴォヴィル侯爵家の子供たちとの関係も良好だった。多分、二度と会うことは叶わないし、消息を知る術もない。
「あっけないわね」
「あっけないな」
私たちはそれ以上言葉を交わすことなく帰還した。服越しに感じるクロヴィスの体温が感傷的になった心を癒してくれた。
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