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1章 訣別

04-1. 帰郷

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 ワイバーンの背に乗って見る朝焼けはとても美しい。
 白み始める空の色の移ろいはきれいだ。そして山の稜線から、金色の陽がゆっくりと昇っていくのだ。

「きれいね、お兄様」
「ワイバーン乗りの特権だな」

 オリオール領で使役するワイバーンは一番大型のものが多く、大人が二人乗っても平気だ。普段はそれでも王都までの往復は長距離移動だからという理由で一人一頭だけど、今回は完全に町屋敷を引き払うために大人数での移動だから二人乗りだった。
 私はお兄様の前に乗っている。

「王都の屋敷を引き払うということは、二度と南の辺境として社交を行わないってことよね?」
 わかっていることだったけど念のための確認だ。
 二度と王都に行かなくて良いと思っていたのに、後からまた行くとなったらがっかり感が半端ない。

「そういうことになるね。ミラボー公爵家やバルト辺境伯家との婚約も解消されたから、もう中央貴族と付き合う必要もない。俺たちより若い世代はきっと貴族学院への進学もしないし、家臣が魔法結晶を納めにいくから、国王が領主の顔を知らない日もくるだろうな」

 拠点が無いから今後は社交は一切できなくなる。
 貴族たちは王宮主催の公式行事への出席義務があるけど、辺境は事情を考慮されて社交は免除されている。代替わりのときに国王に謁見する義務もない。

 今まで欠かさずに代替わりの度に領主が王都に出向いたのは、形だけでも円満な関係や恭順の意を示すためだった。
 でも私は成人とともに領主の座についても、謁見する気はない。

 ほかにも王家の一存での転封が無い、婚姻の自由などが保証されている。特にオリオール伯爵家は魔法結晶をどの辺境領地も多く納める代わりに、自由裁量の幅が辺境伯の四家よりも大きい。

 だからフォートレル辺境伯家ともども王都を引き払っても困ることはない。
 年に一度、魔法結晶を納めるために領主が王都に行くのだって、王家に対する形ばかりの敬意を示す意味だけだった。今回の件で、その義理さえなくなった。来年からは家臣の誰かが献上しに行くのだろう。

「魔法結晶が無ければ日々の生活が成り立たないくらい依存している癖に、どうして今までこんなに横柄にできたのかしら?」

 魔法結晶は辺境でしか採れない。辺境伯家とオリオール伯爵家だけとは言わないけど、スタンピードの被害が大きかった土地に多い。だから被害の少なかった北の辺境伯家では、見つかることがごく稀だ。

「ここまで酷い扱いになったのは今の国王かららしいぞ。だからお祖母様の時代はもう少し居心地が良かったんじゃないか?」

「そうなのね……何がしたかったのかしら?」
 現国王を評価する人はオリオール領にもフォートレル辺境伯領にもいない。
「さあ? 気になるなら父上かそれより上の世代に聞いてみればいいんじゃないか?」

 お兄様は昔のことに興味がなさそうだ。
 私もそこまで知りたいとは思わない。ほんの少し気になった、それだけだった。


 空が白み始めた頃、休憩のために一旦、地上に降りる。ランヴォヴィル領の人里から離れた場所だった。
 ここから先、次の人里はオリオール領に入らないとないから、もう夜間の移動は必要ない。大休止を取った後は一気に領地まで飛んで帰領する。
 着陸前に後ろを振り返ったけど、もう王都は見えなかった。
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