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1章 訣別

03-1. 二つ目の婚約破棄

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 目が覚めると、もう陽は高い位置にあった。
 今日から学院は休学だ。お父様が領地からいらっしゃったら、直ぐに退学手続きをとってもらう予定だ。同時にオリオール辺境伯家とオリオール伯爵家が共有するこの屋敷も引き払って、両家は王都から完全撤退する。
 王都に来る必要がある場合は、宿に泊まれば良いだけだから困ることにはならない。

「もう荷物をまとめ始めて大丈夫ですって」
「実はすでに終わっています」
 身支度の手伝いに入ってきたリリーに言えば、即座に笑顔で終了したと返ってくる。

「用意周到すぎない?」
「マリエ様の限界が近づいているみたいだったから、少し前に名代様に許可をいただきました」

 名代というのは父のことだ。先代領主だった母が早逝し、次代である私が未成年なので、繋ぎとして領主代理を父が務めている。

「それと荷運びのため、すでに領地から人が来ております。明け方に到着して、今は仮眠中です。優先度が高いものやマリエ様の身の回りの品以外を順次運び出しますわ」

「随分と手際が良くない?」
 婚約解消は一昨日、退学を相談したのは昨日だ。

 馬車では半月近く必要な旅程の領地と王都だけど、ワイバーンなら二日ほど。婚約解消の報告後に領地を出たら、朝方到着する。王都にワイバーンを乗り付けると王都民が怯えるから、毎回夜中に王都入りする。帰りも同様だ。

 だから日の入りを過ぎてから移動を始めて、空が白み始める前に着陸して休憩する。
 唯一、日中にワイバーンで王都入りするのは、年に一回、魔法結晶を王宮に納品するときだけ。

「元々、こちらのお屋敷は荷物を増やさぬように心がけておりましたし、先代ご当主様の話を聞いていましたから、即日撤退の覚悟はできました。そうしたら退学の話が出ましたので、午後から急遽、書籍の荷造りを」

 書類関係は基本的に王都の屋敷にはない。金銭的に価値が高いのは書籍だ。他に貴重品はないから、後は気に入りの品だけど、こちらはあまり無い。高級陶器の類は辺境で入手し辛いから、取り合えず持ち帰っておくか程度の扱いだ。

 羽を伸ばした臨時の休日を思い切り満喫したら、あっという間に夜になった。二日連続して昼まで寝るのは嫌だったから、早めの就寝を試みる。たっぷり寝たから寝付けないかと思ったのに、意外にもあっさり夢の中の住人だった。

 更に翌朝、お父様とお兄様が屋敷に到着した。
 朝、起きて食堂に行くと、二人がのんびりお茶をしている。

「おはよう、マリエ。朝食にしようか」
 にっこりと微笑んだお父様は、夜通しワイバーンに乗っていたとは思えないくらいしゃっきりしていた。お兄様も同様だ。

「おはようございます。お父様、お兄様」
「おはようマリエ、大変だったね。今日、退学手続きを取るから、できるだけ早くオリオールに帰ろう」
 柔らかな笑みは相変わらず、妹にとても甘い。

「ここを引き払うことに決めたから、手続きが終わるまでしばらく滞在する予定だけど、もし早く帰りたいなら明日の夜に俺と一緒に、一足先に領地に帰ろう」
 ワイバーンのために必要な休息を取るだけで、できるだけ早く帰ろうと言ってくれるお兄様の心遣いが嬉しい。

「学院に通わなくて良いなら、手続きが終わるまで居ても大丈夫。一人じゃないもの」
 家族が近くに居てくれると思うだけで気力が湧いてくる。

「まずは食事を一緒に食べよう。領地から新鮮な食材を持ってきてるよ」
 お父様に促されて食卓につく。ひさしぶりの家族揃っての食事はとても美味しかった。

 食後、カミラの実家であり、北方の守護者であるバルト辺境伯家に先触れを出した後、訪問するには早い時間に二人は出かけて行った。最初に学院で退学手続きを取った後、辺境伯家に行くらしい。

 そして昼を少し過ぎた頃に二人は帰宅した。

「お兄様はカミラとの婚約を取りやめて良かったの? 仲が良かったと思うのだけど?」
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