あいと

西似居ハイロ

文字の大きさ
上 下
9 / 29
愛斗

へんか

しおりを挟む
すんすんと鼻を鳴らしながらしばらく神野に抱きついたままでいる。
(体温高い)
その温度が心地よい。

「…落ち着きました?」
「…うん」
コクリと頷く。

「じゃあ…戻りましょうか」
「…うん」

リビングに戻ると山下さんに猛烈に謝られた。
曰く、神野を手伝いたかったのと俺の昨日の状態が心配過ぎて焦ってしまったのだと。

「本っ当に不快な思いをさせてしまい、申し訳ございませんでした!!」

ガバっと頭を下げる山下さんに慌てる。

「いや…そんな…」

「…ねぇすず??」
俺の隣で神野が呼びかける。

「はい!」

「俺にさフラッシュバックの対処法教えてくれない?」

神野の意図をはかりかねたようにパチパチと山下さんはその長い睫毛に覆われた大きな目を瞬かせた。

「いや~毎回すずを呼ぶ訳にはいかないじゃん?自分らでもどーにかしたいから教えて?」

苦笑いしながら神野がそういう。

「お、俺も知りたい!」

神野に同意して俺もそう言うと、山下さんはいくつか対処法を教えてくれた。
俺はそれを全てノートし目に付きそうなところに置いておく。

「なにかあったら気軽にココに電話してください…いつでも駆けつけます!では私はこれで…」

俺に個人の電話番号を書いた名刺を渡して山下さんは帰っていった。

「神野…」

「はい…勝手なことしてすみませんでし…」
「ありがとな」

「へ?」

俺の突然の感謝の言葉に目を丸くする神野。
え、そんな驚く??w

「だって俺を思ってのことだったんだろ?精神的にアレだったとはいえ、怒鳴ったり八つ当たりしたりしてごめんな…?」

「いや…そうですけど…でも…」

「ほんとありがと。気にかけてくれて、過呼吸とかの対処法も聞いてくれて…その…嬉しかった」

そう言うと神野は目をきらっきら耀かせてた。
ぶんぶん振られているシッポが見える…神野犬…

「まだ不安定だしこれからもどうなるかわからないからまた迷惑かけるかもしれないけど…」

「俺のことは大丈夫です!これからも側に居させてください!」

「おま…そういうのは女に言えよ…」

なんとなく顔が見れなくてぷいっと顔を背けた。





■■■■■

ところで。
俺がぶっ倒れてから大きく変化したことが1つ。

「あっつい!」

俺に纏わりついていた神野の腕を引っ剥がす。

「俺は抱きまくらか!」

「んんぅ…」
神野が眠りながら不満気に声を上げた。

「なんでこんなに広いのにくっついて来るんだ…」

3人用のやたらデカいベットの上を四つん這いで移動し端っこの方で丸くなる。

そう、神野と俺は同じベットで寝ることになったのだ。
それにあたり導入されたのがこのクソデカベット。
もちろん俺の部屋(?)は愚か、神野の部屋にも今のままじゃ入らないため、大規模な部屋の模様替えをした。

3つあった部屋割が今まで
俺(倉庫)→入らせてもらえない部屋→神野  だったのが
俺(倉庫)→神野→寝室     に変わったのだ。

俺が悪夢を見たり寝ている間にラフッシュバックを起こしたときにすぐどうにかできるように、ということらしい。

もちろん最初俺はこの提案を拒否した。
が、神野お得意の犬耳&尻尾(幻覚)ときらっきらのお目々に耐えきれなかったのだ…。

でもくっつくのはやめていただきたい…
というかお前ハグ、好きだな??
この数日で何回ハグしてきた??

あと、最近神野がすごい過保護?になった気がする。
朝、彼が起きた時に俺がベットにいないと「愛斗さん?」と眠そうに言いながら俺を探しに来る。

可愛いけど…申し訳ないから寝ててくれ…可愛いけど
(結局、前日の夜に朝ごはんの用意をできるだけやっておいて俺が起きる時間をなるべく遅くすることにした)

それに、どうやら神野はリモートワークを申請してきたらしく週4で家に居ることになった。

ただ、俺の1ヶ月の有給の期限が刻1刻と迫ってきている。
───神野宅に来てから3週間が過ぎていた。




「なあ、お前これからずーっとリモートなのか?俺、来週あたり1旦会社復帰するけど…」

夕飯時に神野に聞いてみた。
因みに今日はデミグラスソースのオムライスだ。
神野のにはプラスでハンバーグが乗っかっている。

「いや。2週間だけです…そんだけしかもぎ取れませんでした…おいひい…」

ハンバーグをつつきながら残念そうに神野は言った。

「いや、2週間”も”もぎ取れただけで十分すごいからな?まあ、お前の会社の空気感とかはよくわからんがな?とはいえそれ以上は流石に迷惑になるだろ…」

神野の過保護っぷりに頭を抱える。
ここ数日は物件探しも買い物も神野の休憩時間に彼とともに行く流れができていた。
俺…30歳なんですけど…。
どこぞの箱入り息子か?生娘か??

「心配なんですよ…愛斗さんが…また苦しい思いしてないか、辛くないかって………」

「いやまぁ…うん。まぁ…実際何回かフラッシュバック起きてるし…ありがたいけど…ちょっとやり過ぎ…」

そういうと神野はむくれながら

「あなたが嫌なら…外まで付いてくのはやめます」
と言ってくれた。

ほんとどうしちゃったんだお前…

気になるのはこれだけじゃない。
部屋替えをしたあとの神野の部屋に入ったのだが、いくつか歴代だか現役だかの恋人たちの痕跡を見つけたのだ。

(山下さんが泊まりに来たとき用かな…)

あの時─俺が「山下さんがお前の彼女か」的なことをと言ったとき、神野ははっきりと否定しなかった。
だとしたら俺のせいで彼女向けの部屋を潰してしまったことになる。

(申し訳ないな…)
色々なもやもやが溜まり俺はこめかみを押さえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

離したくない、離して欲しくない

mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。 久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。 そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。 テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。 翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。 そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。

きみがすき

秋月みゅんと
BL
孝知《たかとも》には幼稚園に入る前、引っ越してしまった幼なじみがいた。 その幼なじみの一香《いちか》が高校入学目前に、また近所に戻って来ると知る。高校も一緒らしいので入学式に再会できるのを楽しみにしていた。だが、入学前に突然うちに一香がやって来た。 一緒に住むって……どういうことだ? ―――――― かなり前に別のサイトで投稿したお話です。禁則処理などの修正をして、アルファポリスの使い方練習用に投稿してみました。

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。

無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。 そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。 でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。 ___________________ 異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分) わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか 現在体調不良により休止中 2021/9月20日 最新話更新 2022/12月27日

囚われた親友に

朝陽ヨル
BL
 35歳独身、柏木陵。一流会社勤めに勤めるイケメンサラリーマンである。彼の学生生活は唯一無二の親友との青春で満ちていた。その彼との楽しかった短い学生生活の一部始終を……。

Tally marks

あこ
BL
五回目の浮気を目撃したら別れる。 カイトが巽に宣言をしたその五回目が、とうとうやってきた。 「関心が無くなりました。別れます。さよなら」 ✔︎ 攻めは体格良くて男前(コワモテ気味)の自己中浮気野郎。 ✔︎ 受けはのんびりした話し方の美人も裸足で逃げる(かもしれない)長身美人。 ✔︎ 本編中は『大学生×高校生』です。 ✔︎ 受けのお姉ちゃんは超イケメンで強い(物理)、そして姉と婚約している彼氏は爽やか好青年。 ✔︎ 『彼者誰時に溺れる』とリンクしています(あちらを読んでいなくても全く問題はありません) 🔺ATTENTION🔺 このお話は『浮気野郎を後悔させまくってボコボコにする予定』で書き始めたにも関わらず『どうしてか元サヤ』になってしまった連載です。 そして浮気野郎は元サヤ後、受け溺愛ヘタレ野郎に進化します。 そこだけ本当、ご留意ください。 また、タグにはない設定もあります。ごめんなさい。(10個しかタグが作れない…せめてあと2個作らせて欲しい) ➡︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。 ➡︎ 『番外編:本編完結後』に区分されている小説については、完結後設定の番外編が小説の『更新順』に入っています。『時系列順』になっていません。 ➡︎ ただし、『番外編:本編完結後』の中に入っている作品のうち、『カイトが巽に「愛してる」と言えるようになったころ』の作品に関してはタイトルの頭に『𝟞』がついています。 個人サイトでの連載開始は2016年7月です。 これを加筆修正しながら更新していきます。 ですので、作中に古いものが登場する事が多々あります。

傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします

槿 資紀
BL
 傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。  自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。  そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。  しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。  さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。  リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。  それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。  リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。  愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。  今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。  いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。  推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。  不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

処理中です...