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パンドラの記憶

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「おーほっほっほ、馬鹿な娘!貴方の命はここで終わり。」

「私こそが、彼に相応しい。あぁ、愛しの王子様。」

「ふふふふふ、私こそがこの世で1番美しい……」

「あら、私に逆らうというの?ならば、死になさい」



 ………と、台本を持ちながらも、劇のセリフを発すれば後ろから

「私の目に狂いはなかったわ!流石桃月さん!!」

 と言ういいんちょの声が聞こえてきた。うむ、なんて言うか酷いけど、彼女の言うことは最もかも知れない。
 いいんちょに任されたのは、魔女の役。所謂物語の敵役で、まさしく私の事なんだろうなぁと台本を読んで改めて思った。

 所謂乙女ゲームの悪役に転生した私は、まさしくこの劇に出てくる魔女そのものだ。好きな男を手に入れるため、ヒロインをいじめ抜き、そして殺そうと考える。でも、結局は、悪者は退治され、酷い罰を受ける。まさしく、私には適役だ。代役とは言えども、多分、私以上にこの役にぴったりの人間はいないかも知れない。
 きっと、私もこの魔女みたいに最後には酷い罰を受けるんだろうなぁ。はぁ、そう考えると、なんというかなぁ。いや、任された以上は、頑張るよ。もう本番まで時間もないし?やれるだけのことは、やるよ?でもなぁ、なんだかなぁ………

「うーん。でも、それでも、なんだか気分が悪い。」
「え、桃月さん?大丈夫?」
「え、うわっ!びっくりした。」

 ポンと背中を叩かれるる。パッと後ろをむけば、そこに居たのは立花くん。なんだか、心配そうに私のことを見つめている。

「どうしたの?立花くん」
「あぁ、ごめんね。でも、気分悪いって言ってたから。……その、大丈夫?」

 どうやら、知らず知らずのうちに心の声が出てたよう。恥ずかしい

「あー、うん。大丈夫!!ちょっと思うことがあっただけだから。」
「そっか………でも、無理はしないでね。……急な代役、しかも結構な代役が決まって大変だと思うけど、俺もなるべく手伝うからさ」

 あぁ、相変わらず立花くんは優しいなぁ。うん、優しい。天使だよ。

 うん、まぁ、あれだ。思うところはあるけど、取り敢えず頑張るとするか。うん、頑張ろ。











「…………ところで、桃月さん。思うところって?」
「え?」
「さっき言ってたよね?あ、いや、その………もしかして、聞かないほうがよかった?ごめん」
「あー、うん。その、この魔女に、なんて言うのかな?思うことがあって」
「……思うこと?」

 なんて言うんだろ。同情?いや、同情とはちょっと違うか。
 自業自得の結果だから、可哀想とか言うよりも、自分のいく先を見ているようで、なんとも言えない気分になっているんだよなぁ。

「いや、なんだろ。身近にこの魔女みたいな人がいて、その人の事を思い出してたの。………立花くんは?どう思う。この物語の魔女のこと、魔女がした選択について」

 自分の目的のために、愛する王子を我が物にしようとする一心で、罪を犯す選択をしたこの魔女は、なにを思ってその選択を選んだのだろうか。同じ道を歩いているけれど、でも、今の所サラサラそんなつもりのない私にとって、その気持ちは、理解できない。理解することが、できたなら少しは…………少しは、自分のいく先を受け入れることが出来るのかな?と思ってしまう



「…………どうだろ。確かに喉から手が出るほどに、欲しい相手がいたらと考えると気持ちもわからなくない。………でも、こんな事をしても相手の気持ちは手に入らない。むしろ、離れてくだけ。いや、むしろ恨みの対象になるよ。」

「恨みの対象?」

「愛してる人を殺されたんだ。もう二度と会えない。一人残された………その原因である奴は、腹わたが煮えくりかえる程に………」

 瞬間ゾクッとした。全身が、血が凍りつく感覚。怖くて、足元がすくむ。こんな立花くんは初めてだ。

「だから、俺はそう言う人間は、大っ嫌いかな」

 そういった立花くんは、とても冷たい目をしていた。顔は笑ってるけど、目は笑っていない。
 でも、そうだよな、そう。魔女みたいな人間なんて、自分のために目的を選ばない人間なんて、みんな嫌いだ。私だって、自分のことじゃなかったらこんな人間大っ嫌いだ。
 わかってたけど、なんだろ。目の前が真っ暗。気分が悪い。


「まぁ、でも、1番嫌いなのは、憎いのは、それを未然に防げない………って、桃月さん?」

 息が苦しい。すごくなんだか、辛い。

「桃月さん!?大丈夫!?」

 さっきとは、全くちがう優しい表情をこちらに向ける立花くんが視界に入る。心の底から、心配しているその顔は、いつも通りの立花君で、私の知ってる顔。でも、でも、いつかはさっきみたいな表示を向けられるんだろな。

 …………あ、なんでこんなに苦しいのか、わかった。初めてなんだ。わかっていたはずだけど、実際にどんな目で見られるかを初めて知ったんだ。そっか、そっか。わかってたと思ったけど、想像以上に、辛いもんだなぁ。



「……大丈夫?桃月さん」
「あ、うん。だ、大丈夫。」

 辛いけど、ダメだ。ちゃんと、ちゃんとしなくちゃ。今は、劇の練習中。今ぐらいは、ちゃんとしないと。これから、皆んなに嫌われる最低な人間に成り下がってしまうけれど……今ぐらいは、ちゃんとしなきゃ。

「ちょっと、気分が悪くなっただけだけど。もう、大丈夫。心配かけて、ごめんね。」

「………………あぁ、そっか、いや、こっちこそ、ごめんね。桃月さん」
「……?」

 え、なんで立花君が、謝ってるの?謝る要素なんて、何処にもないのに。

「うーん、なんて言うのが正解なのか分からないけど、これだけは取り敢えず言っておくよ。俺は、何があってもちゃんと君の味方だよ。」
「え?」

 何があっても、味方?一体、しかも突然、立花君は何を言っているんだろうか。

「た、立花君?」
「桃月さん、あのね。大丈夫だよ。俺は、君の事は嫌いにならないよ」

 本当に、本当に立花君は何を言っているんだろうか。
 なんだか、それは、その台詞はまるで、そう。まるで、私がこれらする事を知っているみたいじゃないか。私が…私のことを知っているみたいじゃないか。

「……だって、俺は」

 もし、そうならなんで立花君は、そのことを知ってるの?仮に知ってたとして、何でそんな事を言ってくれるの?
 それになんだろ。あれ?なんか私、大切なことを忘れてない。すごく大切なことを……


「っ!痛っ」
「桃月さん!?」

 突然だった。ずきり、ずきりと頭が割れるような痛みを感じる。なんで、痛いの。なにこれ……
  









 …………????


「……………あれ?私、なにしてたんだっけ?」

 確か、劇の練習をして、それで立花君くんに話して………ん?何の話をしてたんだっけ?

「……え………あ……い、嫌だな、桃月さん。劇を頑張ろうって、話してたじゃないか。………不安なところは、ちゃんと手伝ってあげるって……ね?」

 あー、そうだった気がする。何だろ、ボーとしすぎた?

「あはははは、そうだった、そうだった。ごめんね。立花くん。えっと、頑張ろうね、お互いに」
「うん、頑張ろうね」

 不思議なことに、なんだか少し悲しそうに返事をする立花くん。あれ?私、何かしちゃったのかな?
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