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帰ってきた幼馴染
しおりを挟む夏休みって、思いのほか短いのかもしれない。ぐーたら、だらだら過ごしてたら、すでに半分も終わってしまった。この調子だと、夏休みなんて、すぐに終わりそうだ。いや、まぁ、元々そう言う風に過ごす予定だったから、後悔はしてないがあと半分で終わってしまうのは辛いし、怠い。て言うか学校行きたくない。あー、あと11ヶ月くらい休みだったらいいのになぁ。それだったら、最高なのになぁと思う。
……いや、それだったら、ただのニートか。ニート、なりたいなぁ、親のすねをかじるおすねかじり虫になりたいなぁ。……怒られそうだけど、確実に怒られるけど。
あぁ、怒られそう、と言えば、だ。翔真が家族旅行からついさっき帰ってきた。両手にあふれんばかりのお土産を持ち、我が家にやってきた奴は、お土産を私の両親に渡すや否や、我が城に突入してきたわけである。
「あー」
……にしても、なんだろうかこの体勢は。
「翔真さん?なんでしょうかね、これ」
「……別にいいだろ」
よくねぇよ!!
現在、何故か私は、翔真にぎゅっと後ろから抱きしめられている。ベッドの上であぐらをかき、ボケーと漫画を読んでいたら、突然部屋に入ってきた翔真に、何故か、当然のごとく、自然に、後ろから抱きしめられたのだ。お腹のところに手を回され、頭上に奴の頭が乗せられている。重いし、暑いんだが。いや、クーラーが効いていてむしろ肌寒いと言えば、肌寒いが、そうじゃないだろ?くっ!夏なのに、ベタベタするなよ!
「漫画読みにくいんだけど!?」
昔買った漫画をせっかくの夏休みなので、読み返していたというのにこれでは読みにくいことありゃしない。
「……うるさい」
いや、うるさいって、お前それはないだろう!と無理やり翔真を引き離そうとしたが、逆に抱きしめる力が強くなる。
「うぐ」
頭の位置が、肩へと移動する。うぅ、首筋に、チクチクと翔真の髪の毛が当たってくすぐったい。と言うか、顔を埋めるのは、やめろ!頭を動かすな、本当にくすぐったいんだって。なんか、こう、モゾモゾする。
この状況、本当にどうしたのか。
いや、確かに昔から、偶にこうして甘える癖はあった。小さい頃は寧ろ、オカンとはかけ離れた性格をしていた。だが、成長するに従って、こういう事もなくなってきたというのに、マジで一体どうしたのか。………っく!仕方ない、集中もできないし、一旦読むのは止めることにするか。
「………で?何、どうしたの」
漫画を読むのをやめ、翔駒にそんな事を尋ねれば、少しだけ拘束が弱まった。
「別に……何でもない」
いや、嘘だろ?何でもなかったらこんな事はないだろう。さっさと何があったか訳を話せ、そして私を離せ。
「何かあったなら話してくれないと困るんだけど」
グッと手を伸ばし、ポンポンっと翔真頭を撫でれば、何となく気持ち良さそうな顔をしている。……おぉ、珍しい。そんな表情もするのか。
「……奏……お前夏休み中に………友達と映画に行ったらしいな」
「あぁ、うん。行ったね」
……何で、翔真が知っているのだろうか。母さんか?母さんがバラしたのか?もう、娘のプライベートをペラペラ話さないで欲しい。プライバシーって大切だよ?
「俺が、連絡しても一切返信がなかったのに……お前は、俺以外と遊んでる。」
………え、何その、付き合ってる彼氏が他の女の子と遊んでたのを目撃した彼女みたいなセリフ!お前は女子か!
「……ずるい」
いや、ずるいとか言われても困るんだけど。本当に何なんだ、今日の翔真は可笑しいぞ。
あれか?仲のいい友達が、他の子と仲良くしてたら嫉妬しちゃう的な奴なのか?女子か?女子なのか?独占欲が強いとウザがられるぞ?
「……俺とはいつも渋々出かけるのに」
えー、いや、だっていつも、出かけるのは翔真の都合じゃないか。私はなるべく家でダラダラしていたいのだ。わかるかい?そこ重要だよ。
「はいはい、ごめんね」
「許さん」
許さんと言われても困るんだが……そして、ぶっちゃけ言えば許してもらわなくても構わない………と言えばさらに怒りかねないので、ここは黙っておこう。
「許して欲しかったら……俺と出かけろ」
結局そこに来るのか。めんどうだなぁ。まぁ、いいか、少しぐらいは……翔真の旅行中、ウザイって理由だけで着信拒否してたのは、多少、悪かったと思ってるし。
「仕方ないなぁ」
あー、でも家から出るのめんどくさいなぁ。部屋で一緒に過ごすのじゃダメなのかなぁ。それだと、いつもとおんなじだけどさ
「……だったら明日、明日どこかに行こう。」
急だな!急すぎてびっくりだよ。こっちの都合も考えて、欲しい。それに明日は……明日は先約がある。立花くんとオープンキャンパスに行かなくてはならないのだ。前々から約束したたし、予約も入れてたから流石に明日は無理
「明日は用事があるからなぁ」
「は?奏……お前に用事が?常に部屋に引きこもっていると言うのに。」
おい!失礼だろ!私だって用事の1つや2つ………あるときはあるんだ。多分、きっと、うん。
「その用事ってなんだ」
「え、オープンキャンパス。」
「………別にうちの系列校に進学すればいいじゃないか。そうすれば……」
お前、簡単に言うけどな私立の学費ってバカにならないんだぞ?それ誰が出すか知ってる?君の親じゃなくて、私の親だよ?別に出そうと思えば出せるだろうけど、あんまり負担はかけたくないんだよ。
「学費のことが気になるなら、奨学金を狙えばいい。それにお前の成績なら、無利子どころか給付型を狙えるだろ?」
いや、そうはいってもなぁ。と言うか、なんでこいつは此処まで私を誘うのだろうか。
「なぁ?うちに来いよ。他なんて、行かなくても別にいいだろ?」
「だから、ダメ。それに友達の付き添いとして一緒に行くから」
だいたい、前日になって断れるわけないだろ。ドタキャンとか、非常識だそ?
全く本当に何を考えてるんだこいつは。そもそも、私の人生なのに、勝手に決めて欲しくない。
「………わかった。その代わり俺も行く」
「はぁ!?何言って」
いや、何を言ってるんだこいつは!一緒に行くとかあり得ないだろう。だいたい、明日のオープキャンパスは予約して行くんだぞ!?
「予約制だから!今更遅いから!」
「だったら今から電話して予約を取ってやる。何大の何学部のオープキャンパスだ!」
どんだけ行きたいんだよ!そこは、諦めろや!
「い、一応行くのは一番近くの大学で、学部は工学部」
「工学部……お前の友達、女子なのに珍しいな。」
ん?待て、なんかこいつ勘違いしてない?
「一緒に行く予定の子は、立花くん、立花健人くんは男の子だよ?」
「………は?」
「いや、だから男の子だよ」
衝撃を受けたような表情になったかと思えば、何故かみるみるうちに、翔真の目が冷ややかなものになっていく。物凄く起こっているときの翔真の表情だ。え、今の会話で怒るような内容なんてあった!?
「そうか………男か。もしかして映画を一緒に観に言ったという相手もそいつか?」
地を這うような声に、寒気がする。なんか、こう、ゾクゾクする。え、本当になんで、こいつ怒ってるの?
「そ、そうだけど……」
と答えた瞬間、更にゾクゾクっと寒気がした。そして、何を思ったのか、翔真はペッタリとさらに私を抱き寄せ、ドスンとそのままベッドに倒れこむ。
真夏なのにこの密着度は、ないと思う………が、そんなことを言える雰囲気ではない。いや、本当にどうしたんだ翔真よ………。頼む、元のオカンに戻って!!
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