嘘つきは聖下のはじまり

オウラ

文字の大きさ
上 下
8 / 13
国王陛下の嫁探し

信じてくれ、聖下

しおりを挟む
 先程のルーカスの想い人(仮)、もといリリアンヌ・ドロイア、通称リリィはドロイア侯爵家の長女であり、なんとルーカスの元婚約者らしい。だが、遠の昔に婚約は破棄され、ここ数年顔を合わせる事もなかったらしい。故に、今ではほぼ他人、以前話したルーカスの想い人は、彼女でもなんでもない、ただの知り合い。だから、勝手に勘違い、誤解しないでほしい。と言うのが、ルーカスの言い分だった。いや、そんな事を突然言われても

「誤解しないでくれ、聖下。違うんだ」

 誤解しないでくれと言われても、その焦りようだとそうとしか思えなくなるのもまた事実。どう見ても、好きな人がバレてしまい恥ずかしい故に、言い訳をしている思春期の青年にしか見えない。……もう、とっくに思春期なんて、終わってますよね、貴方。
 それに、思っているような相手じゃないって……私別に、彼女の事をどうのこうの言った覚えはないんだけど……いや、言ったわ。仲睦まじそうって、言ったな。ごめん、忘れてた。

「……そうですよね。でも、後宮に自ら赴くのではなく、自分の側に置き"あーん"なんて、する仲を誤解しないでくれと言われましても」

 無理な事。さっさと認めて楽になれ。……うぐ、考えるだけで、胸が苦しくなってきた

「 違う、違う。あれは彼奴、リリィが勝手にやった事なんだ。俺はハッキリ言って困っていたし…」

  あんなに可愛い子にアーンとされて困る野郎なんているのだろうか。内心嬉しかったんだろ?そうだろ?だいたい、リリィなんて、愛称で呼んでる時点で……2人の関係者が、丸わかりだよ。

「リリィの事は好きじゃない。信じてくれ、聖下」

 なのに、なんでこんなに否定するのやら。そんなに、私に想い人がバレるのが嫌なのか。

「だったら、陛下の想い人は誰ですか?」
「え……、いや、それは。」

 何をもったいぶっているのか。信じてくれって言うなら教えてくれてもいいじゃないか。言えないって事は、やっぱりそうなんじゃないか。バカ……




「ユーリ宰相は知ってるのに、なんで、私には教えたくないの?私は、ルーカスの為なら、ちゃんと協力するよ。」
「え……聖下?」
「もしかして、私、頼りない?信頼できない?……それとも嫌いなの?」


 ついつい出てしまう本心。あぁ、聖下としての威厳が丸つぶれだ。言葉遣いも、声色も、てんでダメ。全部丸つぶれ。今にも泣きそう。じわっと視界が涙で揺らぐ。ベールがあるから、相手には見えないけど、でも、きっと泣いているのは、わかってしまうだろう。なんてことだ、今まで気付き上げて来たものが、こうも簡単に崩れ落ちるなんて

 諦めたと思ってたのに。いや、仮に諦めきれなくても、こんな風に見っともなく泣くなんて、なんて私は馬鹿なんだろうか。

 このままここにいたら、色々とやばい。もう遅いかもだけど、聖下としても、そうだけど、私、一個人としてもこうして泣きべそをかいてここにいるのはやばい。

  
「………申し訳、ございません陛下。今日は、ここら辺で…….失礼しますね。また後日、お伺いいたします。」

 すぐにでもここを、この部屋を去ろう………今日の事はなかった事にしてしまおうと思い、ドアの方へと振り返ったその瞬間、腕を掴まれ、ぐいっと後ろに引っ張られた。

「っ!!」

 バランスを崩し、そのまま後ろに倒れてしまう………と思ったのもつかの間、気がつけばルーカスに抱きしめられた状態。背中に手が回され、密着する身体と身体。高まる心臓の音、一気に赤くなる顔……果たして何が起きたのか、一切理解できなかった。……え、何この状況。

「馬鹿なことを言わないでくれ。信じてないわけがない。嫌いなわけがない。君がいたから、俺は今ここにいるんだ。俺は君を何よりも信じている。」

 ぎゅっと力を込められ抱きしめられる。

「へ、へいか?」

 見上げれば、キラキラと光るルーカスの翡翠色の瞳。その瞳には、私が写っていて……それで

「聖下、そんなに俺の好きな人が知りたいなら教えてあげるよ。まだ、その時じゃないけれど、俺はね……俺の好きな人は」

 陛下の口から紡がれそうになる、彼の好きな人。聞きたいような、聞きたくないような。いや、諦めるって決めたんだ。それに、陛下が、私を信頼してくれて教えてくれるんだ。ちゃんと聞いて、ちゃんと向かい合おう。そして、形は違えど、ずっと、ずっと陛下の隣に立っていられるように……


「俺の好きな人はね……」


「陛下!!こちらの政策のことですが!!!………あ」

 バーンっと言った効果音と共に、部屋に入ってきたやってきたユーリ宰相。………なんて言うか、なんて言うか、台無しだ。

 慌てて、ユーリ宰相は、部屋を出て言ってしまったが、なんとも言えないこの状況。思わず、陛下と顔を見合わせる

「えっと、陛下?その……」
「あ、いや、やっぱ無し!!無しで!!」

 さっきまで、話すって言ったのに!

「え……」
「いや、ちゃんと今度話すから!な?」
「いや、陛下!?教えてくれるんじゃ……」

 う、嘘つき!!陛下の嘘つき!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...