保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 今と昔のお話

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「雨、いやだね」
「そうね」
 衣替えしたのに、寒いし。 私は寒がりだから、白いセーラーの上に、紺のカーディガンを羽織ってる。
 またお腹痛いって嘘ついて、保健室のベッドに来た。
「夏服も、すてきね。 似合ってよ」
 先生は背もたれ付きの、仕事の椅子のまま。 座ったまま、ベッドのそばに来てくれる。
「すてきかなぁ。 まぁ、私服よりいいね。 制服なら、おしゃれじゃないの、ばれないから」
 お休みの日もかわいいわよ、と言って、ほっぺにキスしてくれる。
 まだ、二時間目。 雨の日はいつもよりさらに憂鬱で、つい、来ちゃった。
「授業中もしょっちゅう、来てくれるけど。 出席日数、大丈夫ですか」
「だいじょぶ。 色んな教科で抜けて、偏らないようにしてるから」
 ふふっ、と先生が笑う。 だいじょぶじゃないよね。
 先生は今日も、きれい。 好き。
「先生、お話ししよ」
「いいわよ。 何のお話にしましょうか」
「先生が、学校行ってた頃の話がいいな。 先生って、ここの卒業生?」
 女の先生はけっこう、卒業生が多い。
「いいえ、私、こっちじゃないの。 向こうの女子高」
 向こう、とは。 市内には二つ、県立の女子高がある。 向こうの女子高は、うちよりもっと頭が良い子が行く方だ。
「そうなんだ。 頭いい」
「お勉強、嫌いじゃなかったの。 家庭教師の先生がいたから」
「うぇ。 家庭教師。 お金持ち……」
 先生は、私の髪を指にくるくる巻いて、遊ぶ。
「家庭教師の先生、女の人? 美人だった?」
 気になる。
「そうね、きれいだったかもね。 もう、忘れてしまったわ」
 きっと、美人だよ。 先生に、勉強教えてくれた人だもん。
「大学は? 大学、私が行きたいとこ?」
 私が行きたい(というか、そこしか選べない)のは、地元の国立大。 めちゃめちゃ人気というわけではないけど、通えるところで、学費が安いのはそこしかない。 教育学部がある。
「大学はね、東京なの。 一人暮らし、させてもらって」
「そうなんだ……。 同じところがよかったな」
「ふふ。 かわいい」
 先生は私のほっぺに手を当てて、目を閉じて、今度は唇にキスしてくれる。
「今、一緒だから。 今が大切。 ちがう?」
 私は、首をふりふりする。 違くない。 私も、今一緒だから、それでいい。 
 雨、いやだけど。 じめじめして、外は暗くて、でも、そんな日も、今だけかも。
 今度は私から、少しだけ大人のキスをした。
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