保健室 三年生

下野 みかも

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三年生 熱、休んだ日

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「本当に大丈夫? ひとりで、いられる?」
「うん。 つらすぎたら、病院に電話するから。 大丈夫だよ」
「ごめんね。 そういう時は、本当に掛けていいからね。 ママの名前言って、娘ですって。 番号、大丈夫だよね?」
「登録してあるよ。 外科の病棟にかければいいんだよね」


 年に何回か、熱が出る。 弱ってる時、疲れた時なんかに。 
 今年は、初めてだな。 ぼうっと考える。 頭、痛い。
 こういう風邪みたいな熱は、寝て治したほうがいいって、ママは言う。 余計に薬、飲む事ないって。
 ママの仕事はシフトだから、急には休めない。 子供がいるって言っても、高三だよ。 一人で寝て、治さないと。
 学校、休んじゃった。
「先生……。 会いたいな」
 今日は金曜だから、土日も入れて、三日会えない。
 ケイにはメールした。 「頑張って寝れ!」ってメッセージと、今日の授業のノートの写真を送ってくれた。
 先生とは、一日、三往復しかメールしない、約束。
 決めないと、私が、ずーっとずーっとメールしたくなっちゃうから。 約束して、連絡先を交換してもらった。
 朝、熱です、頭痛い、ってメールして。 
 昼、まだ痛いよってメールして。 
 夕方ママが行く前に、これから一人で留守番、変な人が来ませんようにってメールして。
 返信は、「お大事に。 早く治りますように」が、三回。 先生はメールが、上手じゃない。


 痛い頭で無理矢理寝ると、決まって変な夢を見る。
 今日は、幽霊が出てきた。 美人の、女の幽霊。
 私の事、知ってる風。 ばかにして、笑ってる。
 きらい。 怖い夢は、きらい…


 ピンポンと、インターホンが鳴る。
 汗びっしょりかいた私は、音で目を覚ます。 一九時半。 何だろう。
 また、ピンポン。 いやだな。 幽霊だったら、どうしよう…。 
 ばかなことを考えながら、モニターへ向かう。
 そこには、先生が映っていた。
 慌てて、受話器を取る。
「先生? どしたの」
「一人だって言うから。 心配になってしまって。 大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ…。 今、迎えに行くね」


 うちのマンションは、先生の住んでるところとは違う、古いマンション。 うち、三階。
 サンダルをつっかけて、エントランスまで階段で駆け降りる。

「あの、部屋の番号、教えたっけ」
「調べれば、わかるから」
 公共の場では、先生、と呼びません。 温泉で、学んだこと。
 私は、先生の手を引く。 嬉しくて、涙が出てきてる。 振り向けない。 袖で、ぐしぐし拭う。
「こっち、エレベーター。 すぐ着いちゃうけど」


「先生。 来てくれるなんて。 夢みたい」
 玄関の鍵をかけて、私は先生に抱き付く。 先生も、ぎゅっとしてくれる。
「かわいそうに。 まだ、熱、あるの?」
「測ってみる」
 熱、三十八度。 朝より下がったけど、まだ辛い。
「まだ、ちょっと。 先生、うち、汚くて…ごめん」
 先生のお家の百倍くらい、モノがある。 恥ずかしい。 うち、私の友達もママの友達も来ないから、多分普通のお家より、きれいじゃない…。
「全然。 私はひとりだから、片付けできるんです。 お母様、お仕事で。 あなたも勉強、忙しいし。 普通ですよ」
 うっ。 やさしさが、刺さる。
「お茶…」
「いいから、寝て。 それとも、お腹、空いてる?」
「食べたくない。 寝る。 先生、部屋に来て」
 手を引いて、私の部屋に。 リビングよりは、モノがない。


「夜勤の時は、何時頃お戻りなの?」
「お昼前かな」
「じゃあ、十時頃まで、いようかしら。 いても、いい?」
「うれしい」
 先生、仕事帰りに来てくれた。 ブラウスに、パンツ姿で。 今日も、すてき。
「一緒に、寝たい…」
「眠れそう?」
 こくこく、頷く。 今日はさすがにえっちな事、なくてもいい。 ぎゅってして、眠りたい。
「でも、汗、びっしょりね。 パジャマ、替えましょうよ」
 変な夢、怖い夢、見たからだ。 あとで、聞いてもらおう。
「汗、拭きましょうね。 タオル、使っても?」
「うん。 きれいなやつ、こっち」
 先生は、熱いお湯に浸けたタオルをぎゅっと絞る。
「さあ、脱いで」
「えっ」
 は、恥ずかしい。 ここで?
「何を今更。 散々、裸になったでしょ」
「そ、そうだけど。 それはなんか…ちがうというか…  ひとりでやるから、大丈夫」
 先生を、部屋から出す。 裸になって、身体を拭く。 顔だけ後で洗うから、首から、上から下に。
 足まで拭いたころ、声を掛けられる。
「できましたか? 変なところ、触ってない?」
「もう! 今日は、してないよ!」


 下着とパジャマを替えて。顔を洗って、歯磨きして。 先生も、お化粧落として、歯磨きして。
「着てきた服でベッドに入るの、きれいじゃないから。 先生も、下着で一緒に入ってもいいですか」
「いいけど、したくなっちゃうかも…」
「今日は、我慢よ。 早く寝ましょうね」
 先生は服を脱いで、黒いつるつるの下着姿になる。 えっち。 我慢、できるかなぁ…。
 ベッドに入ってくれるから、ぎゅうっとする。 先生も、ぎゅっとしてくれる。 少しだけ、キスをする。
「お家でキスしてもらえるなんて、夢みたい」
「何だか、悪い事をしているみたいだわ」
 二人で、笑う。
 私は熱で頭が痛いけど、ぼうっとしてるのが変に気分が良くて、なんだかすぐに眠れそう。


 今度は、先生が一緒だから。 変な夢は、もう見ない。
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