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第一章〜幼年期編〜

研修医との出会い②

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 あれから時間は流れ夕方。
 ルドルフとは別れ、シュリも俺のデバイスの機能を拡張するとやらで持ち込んできた機材でデバイスの機能を増やすと笑みを浮かべながら部屋を出て行った。


『あ、そうそう。入院中退屈だと思うのでシュリちゃん達5人の星戦リーグの試合を録画したものをデバイスから観れるようにしておきますね~、暇潰しに観てくださ~い』


「…分かってはいましたが、5人とも戦闘スタイルがバラバラで観ていて参考になりますね」

 折角機能を拡張してやれる事が増えたのだ、俺はリン、シュリ、レイ、ハク、セイ…各々の戦いぶりを映像として眺めている。
 特にレイは結界術の使い手ながら、その結界の扱い方は流れる水の様に多岐に渡る。変幻自在、という言葉は正にレイの為にある言葉だろう。

 シュリのお陰で時間を無駄に使わずに済んだ…こうやって強い奴の戦いぶりを観るだけでも得られるものはある。

「こんにちはぁ…検温に来ましたぁ…」

「ごきげんよう、検温ですね。体温計を貸して頂けますか?」

「あ、は、はい!どうぞ!」

 映像に夢中で部屋に近付いてくる気配に気付くのが遅れ、入口に薄紅色の髪を腰まで伸ばし白衣を着た同年代の女に声を掛けられ、体温計を受け取る。

「あ、ありがとうございます…?」

「じー…」

「……」

「じー…!」

「……っ…」

「じー…!!」

「あ、あの…そんなに見つめられては計り難いのですが…」

「はっ!?す、すみません!」

 前世でもそうだが、凝視されるのはあまり慣れない。特に此奴みたいに悪意や殺意といった負の感情に縁の無さそうな、おろおろとしつつも、俺を気遣っているのが分かる、純粋そうなガキに見つめられるのは。
 何だったら敵意や悪意、といった負の感情に晒されている方がまだ慣れてるまであるが…そんな事を言っても仕方ねぇ。俺が忘れてるだけでどっかで逢った事があるんだろう、此処は素直に問い掛ける事にした。

「いえ、…何処かでお逢いした事がおありですか…?」

「いえっ、その…此処に運ばれた時に殿下と一緒に運ばれた執事服を着た女の人に殿下を気に掛けて欲しいと言われたので…ご、ごめんなさい!」

「リンから、ですか…いえ、そういう理由でしたら納得しました。…ただ、気に掛けるようにと言われて擬音を口にしながら見つめる事に意味があるとも思えませんが…」

 なるほど、搬送中にリンに頼まれたのか。…律儀な話だ。

 何より当時のリンや俺はお互いの攻撃で意識が混濁する程のダメージを受けていた、つまり傷だらけで血塗れだったと思われる。そんな状況で縋られて怖気付く事なく頼まれ事を聞いてる辺り、研修医の名に恥じない肝の座った嬢ちゃんだ。


「ぅ、た、確かに…」

「ただ、…気持ちは嬉しかったです」

「え、えへへ…ありがとうございます、殿下!」

 華のような笑顔、というのはこれまで何回も見てきた、レオナ、エリー、エミル、ミモザ、アリス…それから、エステル。あの5人と同じ類の笑顔に絆されるのを感じながら小首を傾げ問う。


「…良ければお話をしませんか?お時間があれば、ですが…」

 
「はい!私も殿下とお話がしたかったので是非よろしくお願い致します!」

 
「他の方が居ない時はアンナで構いませんよ、見た所同い歳みたいですし…呼び難いなら殿下、でも構いませんが」

「ぇ、い、良いんですか?」

「私は構いませんよ。その代わり貴女の事を教えてください」

「はい!私はミラっていいます、ルカ様と同じ研修医としてこの病院で働いていますが…」

 何方かといえばレオナと同種だろうか、犬っぽい気質…人懐っこいとも言えるミラの表情が曇るのを見ながら先を促す。

「いますが…?」

「その、研修医の中でもへっぽこで…傷を癒す事と結界を張ることしか能がないんです…ルカ様は病気を癒す事が出来るのに…」

「傷を癒す力を持っているだけでも充分凄いとは思いますが…」


 実際に傷を癒す力を持っているのなら救急救命士等の世界では引っ張りだこだろう、俺も時魔法で時間を遡らせる事で似た様な事は出来るが医療の知識が無い身としては、矢張りプロに任せた方が良いと思うし。
 そんな事を考えていると、ミラはおずおずと訊ねてくる。


「……その、アンナさまは生命維持装置について何処までご存知でしょうか?」

「生命維持装置、ですか?確か絶命さえしていなければ四肢の欠損くらいならば直ぐに再生させ、仮に死に至る傷でも外傷そのものは…」

「はい、再生させます…今時、生命維持装置が無い病院なんて殆ど無いし、何ならウルガルド学園とかは保健室に何台か置いてあるので、私の能力は実質ハズレみたいなものなんです…」

 能力がハズレ、か…そんな事は無いと思うが。実際、エミル達の様なストリートチルドレンから見れば生命維持装置なんて見た事がなかったらしいし、そんな境遇の奴等を助けられる可能性があるだけ凄いと思うのは俺が前世の記憶があるから、かもしれねぇな。

 そんな俺だからこそ、伝えられる事は伝えてやりたいと説くことにする。

「…そんな事は無いと思いますが、例えば生命維持装置自体が使えない状況に陥ったら、それこそミラの出番だと思いますよ?」

「そ、そうでしょうか…?」

「えぇ、力に無駄なものはありませんよ」

「アンナさま…ありがとうございます!」

 あぁ、力に無駄なものなんてない。
 力は力に過ぎない、どんな使い方をするかで、そいつの真価が問われるのだから。
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