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第一章〜幼年期編〜
研修医との出会い①
しおりを挟むゆっくりと意識が覚醒するのを感じ、両眼を開けると清潔感のある真っ白な天井と、すぐ隣に置かれた花瓶に活けられた花々を視界に収め上体を起こす。
「……ん…」
「目覚めましたか?」
花瓶に活けられた花を眺めていた水色の髪を肩まで伸ばし、白衣を着ている子供に声を掛けられ、俺は意識を失う前に何が起きたかを思い出しながら問いかける。
「ここは…」
「エキナセア国の国立総合病院です、貴女は3日間程意識を失っていたのですよ」
エキナセア国、聞いた事がある。ノワール国が優秀な星騎士を多く保有する国であるならエキナセア国は優秀な医療系星騎士を保有する医療大国である、と。
「そう…ですか、…貴方は…?」
「申し遅れました、僕はルカ・エキナセア…このエキナセア国の王子であり研修医をしております」
「研修医…ですか…見たところ私と同じ位の年齢ですが…」
「えぇ、医療系の星騎士としての能力を持つと法国家に認められた者はデバイスを与えられた年から研修医として従事する事を許されるのです」
「なるほど、医療系の星騎士は稀ですからね…納得です」
「御理解頂きありがとうございます、アンナ殿下」
諸々の事情は把握した、目の前の人物がエキナセア国の王子である事。
医療大国と呼ばれる国に担ぎ込まれる程の大怪我を負った事。
恐らく、リンも此処に居るであろう事を。
ともあれ、先ずは色々と聞けるように友好的に接するのが良いだろう、上体を起こしたまま穏やかに微笑みルカに視線を向ける。
「堅苦しい呼び方は好きではないのでアンナとお呼びください、…私もルカとお呼びしても?」
「…分かりました、ではアンナ…と。婚約者以外をファーストネームで呼ぶのは初めてです」
「そうなのですね、…私は何人かファーストネームで呼ぶ男性は居ますが、確かに婚約者はファーストネームで呼び易いかもしれません」
「婚約者…というと確か…」
「えぇ、ジャック陛下です。正確には婚約者候補、ですが」
「なるほど、彼の国の皇子殿下と同列なのは光栄ですね」
「ふふ、そうですか?……あの、私は3日間意識を失っていたとのことですが、私の従者であるリンは…彼女は無事でしょうか…?」
婚約者以外の女をファーストネームで呼んだことがない、というのも珍しい気もするが、そういう事もあるのだろう。相槌を打っていると、笑みを浮かべ恐らくは社交辞令だろう言葉を口にするルカに気になっていた事を問いかける。
「…アンナも知っての通り、星騎士という存在が発展する程に私達医療従事者の医術も進歩し、今では各国の主要施設に点在する生命維持装置に入れれば、ほぼ即死の傷を負っていたとしても時間がそう経っていなければ蘇生も可能ですが…それでも昨日、漸く持ち直したようです。余程魔力を消耗していたのでしょうね」
「そう、ですか…良かった…」
医療の知識はさっぱりだが、どうやら魔力の消耗が原因で生死の境を彷徨っていたリン。だが、なんとか息を吹き返したようだ。安堵の声を漏らすとルカが問いかけてくる。
「お会いになりますか?」
「大丈夫なのですか…?」
「えぇ、今は面会は可能ですよ」
「では…お願いします」
「はい、案内しますね…此方です」
ベッドから降り、病院服のまま病室を出るとルカの案内を受けてリンが入院している病室まで歩く事に。
◆❖◇◇❖◆
暫く歩くと病室から今にも飛び出そうとしていたリンと、それを飄々としながらも押し留めるシュリと出会す。
「だからぁ、今のリンちゃんが行っても出来ることがないって…あ、アンナさま~おはようございます~」
「離してくださいシュ……!アンナ様…!ご無事ですか…!?」
「おはようございます、シュリ、リン。はい、先程目を覚ましたばかりですが何とか…」
「良かった…、此の度は大変申し訳ありませんでした…!」
シュリの方は割と普段通りだが、リンはこれまで見た事が無い程憔悴しきっていた、案外、魔力云々よりも精神的なものが原因だったのでは?と、思える位には。
だから、此処は姫として、何より真剣に戦い合った対戦相手として頭を下げる。
「謝らないで下さい、…貴女は星騎士として真剣に向き合ってくれた、あの戦いで謝るような事があるとすれば私こそ神槍の力に溺れてしまい力を制御出来なかった……その一点に尽きるかと。本当にごめんなさい…」
「アンナ様が謝る様な事では…」
「もう~、二人共謝り過ぎですよ~?どっちも悪かったしどっちも悪くなかった、それで良いんじゃないですか~?」
「シュリ…」
こういう時、シュリの在り方には助けられる。叱る時は叱り、褒める時は褒める…メイドよりも教育者として向いているスタンスだろう。
「アンナ様、力を持つ者は力を振るうタイミングを知らないとめっ、ですよ~?でも、リンちゃんとの試験で今のアンナ様のデータも、神槍を振るっていた時のデータも取れましたけど~」
「シュリ……ありがとうございます」
「いえいえ~、アンナ様も目を覚ました事ですし、ルドルフ理事長に連絡入れてきますね?明日には来れると思うので試験の結果は明日、採取したデータと一緒に発表して貰いましょ~」
「えぇ、分かりました。では明日…また。ルカもありがとうございました」
「いえ、医者として当然の事をした事だけですから」
リンやシュリに手を振り、此処まで案内してくれたルカに頭を下げると元来た道を戻りベッドに横になる事で身体を休める事にした。
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