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第一章〜幼年期編〜
各々の血筋
しおりを挟む今日はリンに指導を受け、新しい星技を習得する為に実戦形式で刃を交えながら魔力の“質”を高める鍛錬をしていた。
然し、何事も適度に集中する方が良いというリンの方針からベンチに腰掛け水筒の中身であるスポーツドリンクで喉を潤し、執事長という立場から見た3人の様子を問いかける。
「あれから1週間経ちますが、3人の仕事ぶりはどうですか?リン」
「は、3人とも歳の割には仕事ぶりは上々です。各々得意分野も異なりますのでそれに合わせた仕事を振る事でより一層の仕事ぶりが期待出来るかと」
「ミモザはエルフの血が流れていて、アリスは魔族の血が、エミルは……言いたがらないんでしたね、確か」
「はい、ミモザは庭園の世話を、アリスは一度見たものであれば魔導書の管理を…エミルはアンナ様のお世話をしたがっていましたが給仕や洗濯を命じています。せめてエミルの口から何が得意なのかを聞ければ仕事の振りようもあるのですが…」
各々の適性を見越した上で仕事を振っているリンに上々、と言わせるのはリン達に授業という名の鍛錬を受けている俺自身が、凄い事だと認識出来るが…問題はエミル、か。
「…自分が何の種族の血を引いているかを知るのはそのまま適正に繋がるのでしょうか?」
「必ずしもそう、とは限りませんが血というのは、かなりその傾向を示すファクターにはなるかと。現にエルフの血を継いでいるミモザは動植物と心を通わせている節がありますし、魔族の血を継いでいるアリスは魔導書から様々な知識を得ているようです」
確かに、ミモザは時々庭園の花々に話し掛けている様子が見受けられるし、アリスは自由時間は魔導書を読んでいる姿を見掛けた事がある。
ただ、エミルは自由時間になるとふらっと何処かへ行ってしまう為俺も気にかけてはいた。
「なるほど、なら長い視野で見れば本人の為にもエミルがどの種族の血を継いでいるかを知る事が重要…と」
「えぇ、そうなります。…さて、休憩は終わりです、絶掌は習得するのに3日掛かりましたが、次の星技を教える筈だったシュリは見習い3人を指導していますので、私がお教えします。といっても本来の使い手であるシュリとは違って、手習い程度にしか理解していないのでそこは心苦しいですが…」
「…耳が痛いですね、ですがシュリの件は私も関与していますので…よろしくお願い致します」
3人の仕事ぶりが安定するまで、シュリには3人の指導を優先させている為、こうしてリンに負担が行く訳だが…そこは申し訳なく感じながらも俺は再び星武器を構えた。
そんな俺達を、物陰から見ている視線に気付きながら。
◆❖◇◇❖◆
夜、使用人も床に付き俺も寝ようとしていた所に扉を3回ノックされベッドから上半身を起こす。
「はい…?」
「オレだけど…」
「エミル…どうしました?こんな時間に…取り敢えず中へ入ってください」
取り敢えず中へ入るように勧めると、その言葉に従い寝巻き姿のエミルが入ってきた。
エミルはその一人称や普段の態度がそう感じさせる所為で男に見えるがれっきとした女である。…まぁ、中身がガチモンの男である俺が今更性別を気にするのもおかしな話だが。
「その、昼にリン先輩と話してた内容…聞いちまってさ…」
「昼…あぁ、エミルがどの種族の血を引いているか、でしたか…?」
どうやら、あの視線の正体はエミルだったようだ。
「うん…やっぱ話さなきゃマズイかな…?」
気まずそうに俺に視線を向ける様子に此奴なりに考えがあって黙っているのであれば、と俺は首を横に振る。
「……いえ、エミルが話したくないのであれば無理に聞こうとは思いません」
「ぇ…でも…」
「私が重要視しているのは貴女が、何をしたく、その為に私が何を出来るか、ですから」
「オレが、何がしたいか…オレは、アンタを王様にしたい」
意外な言葉に小首を傾げる、確かにノワール王国は歴上、女が王位に就いた事は何度かはあるらしいが…訝しみながら、俺はその真意を問う。
「王…ですか…?何故、王にしたいのですか?」
「オレ達に生きる場所をくれた、オレ達に生きる価値を与えてくれた、…オレ達の存在理由になってくれたアンタを支えたい…」
「…そうですか、…私が、私の個人的な事情で貴女達を雇っただけだとしても?」
どうやら純粋な気持ちから俺を慕ってくれているようだ。
それは思いもよらぬ考えで、素直に感謝するが、同時に俺自身の独り善がりな行動を映す鏡のような気がして、つい、問いかけるが、エミルは笑顔を浮かべていた。
「関係ねーよ、少なくともオレの主はアンタだ、アンナさま。…だから、話せる時が来たら話すから…待っててくれ」
「えぇ、…分かりました。…お待ちしていますね?」
「おう、用はそんだけだ。おやすみ、アンナさま」
「えぇ、おやすみなさい。エミル」
正直、俺自身が前世が極道者という簡単には人様には言えないもんを抱えているから、エミルが話せるようになるまで何時までも待つつもりだ、…あの娘の信頼に足るような人間になりたい、そう思いながらその日は眠りについた。
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