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学園編・前編
第32話〜各々(それぞれ)の歌〜
しおりを挟む「Aブロック、Bブロック共に開始5分足らずで決勝進出を決めた影響か会場では早く彼等の戦いを見せろとブーイングの嵐!実況を努めさせて頂く私としても同じ気持ちです!」
ヒュウガ達の治療を済まし四寮の皆と控え室にて先の一寮VS二寮の戦いを記録した映像を魔法鏡で写し違和感を覚える。
「なんていうか、昨日迄は普通だった奴が今日になって人が変わっているねぇ…ルシアもアルの馬鹿野郎もさ」
「なんだか怖いですぅ…」
そう、遠目でも解るように魔力の質が瘴気のそれに似ている。魔法との親和性が強い妖精族や竜人族、人魚族であるベラ先輩方が本能的に恐怖を抱いているのも無理からぬ事だ。
「…先ず、神歌を使うセチアを無効化しよう、多分他の方々を倒しても回復させられたらジリ損になるし何をしてくるか解らない、というのがある、レナに関しては「…エリスが止める…」…一人で大丈夫?」
ん、と頷くエリス。足運びからしてレナが戦闘に使う流派は魔身流だ、何処で習得したのかは全くもって不明だがかなりの実力者を倒すではなく止める、と口にしたエリスの覚悟を信じよう。
「…なら、レナ、セチア、シオンの3人の内レナはエリスに任せるとしてその他の者は私とこの馬鹿で止めるとしよう」
「お、アレをやんのか!良いぜ?倒さないってのが少し気になるけど師匠の邪魔はさせねーさ!」
リリア先輩とライ先輩はアル先輩と他の対戦相手の無力化を申し出てくれる。
「それならボクはシオン先輩を足止めしよう、神が殺される事は無いが一時的に剥がされる事は考えられるからね…逆を言えば先輩の“眼”に対抗出来るのはこの中ではユウキか私、エリス位だろう」
「ならあたいとベラは拠点を防衛しつつ全員の援護かねぇ、特にシオンとレナとかいうのは要注意人物っぽいし…セチアは任せたよ、ユウキ」
「が、頑張ってください~」
現状考え得る布陣としてはベストな布陣だ、だが相手がどの様な奇策や術を用いてくるか解らない…私は既に保護下に置いているエリスとアリシア以外の四人に御守りを差し出す。
「お願いします、…御守りです、精神干渉系魔法や呪術の類を跳ね返す力を持っています、…それから───」
四人各々が懐に入れたのを確認すると最後に私以外の六人が思わず唖然としつつも思わず笑う作戦とも呼べない作戦を口にする。
さて、今取れる準備は全て整った、後は相手がどう出るかだが…。
----------------
所代わり一寮の控え室。
一寮生が尋常ならざる瘴気に似た魔力をその内側で巡らせ苦悶と苦痛を体現する室内でレナ、シオン、セチアは椅子に腰掛け床に這い蹲るアルを見下ろしていた。
「くひひ…コロス…コロシテヤル…わ、私を愚弄するものは誰だろうと…!」
「あーあ、この子壊れちゃった。まぁ使い捨てにしかならない塵がユーくんに触れて良い訳ないんだけどね~」
レナは愉しげにアルの頭を蹴飛ばすがその痛みすらヒュウガ、そしてユウキに向けている。その在り方は狂おうが歪みが無い分真性の屑だという事がシオンやセチアの目からも窺えた。
「………どうでも良い、そんな事より例の約束はちゃんと果たしてくれるの…?」
屑には興味は無い、視界に入れるのも御免蒙るとばかりに一瞥すらくれずにシオンはレナに半ば詰め寄るがレナはにこにこと微笑みながら頷く。
「勿論、お師匠はやる気はないけど私(レナ)は約束は護るよ~?だから頑張って“自由”になろうね?飼い殺しにされない為に…♡」
「……そう、私はあの人を消す為に力を貸してくれるならそれで良いわ…」
この二人の中にあるのは仲間意識というよりも共通の目的を果たすビジネスパートナーという立ち位置の方が近いのだろう、但しその性質は異なる。
片や亡き先代大魔王の忘れ形見ではなく個人としての自由を手にする為に。
片や、滅するもの…世界を確かに見据えながらその一つを消す為に。
性質が異なる二人ではあるが、大魔王(ファラ)暗殺を掲げる目的は同じ、それを理解しているシオンは瞳を綴じる。
「ふふふ…、私(レナ)はシオンちゃんのそういう処は大好きだよ~?…あ、そうだ。一応解ってるとは思うけど『死滅の魔眼』は今回は使っちゃダメだからね?」
「……厄介な能力ね、こういうやり方で封じられるとは思わなかったわ」
先程ヒュウガやユイにも魔眼を使おうとしたのだろう、彼等を守護する力により魔眼が一時的に使えず今も頭が割れそうになる頭痛に苛まれながらも自由の為に、この学園を鳥籠とする大魔王(ファラ)や自身を取り巻く環境から自由を勝ち取る為に、今は少しでも回復に時間を宛てている。
「うふふ…それがユウキ様ですわ、護ると決めたものは如何なる手段を使っても護るし仮に敵であろうとも必要以上に傷付けようとはしない高潔な御方…あぁ…早く欲しいですわ…彼がっ!」
「…ふふ、勝てたらあげるよ~…勝てたら、ね」
狂気に満ちながらも愛おしい男(ユウキ)の名を紡ぐイレーナ、実の弟とはいえ勇者であり領主を餌にするレナ、二人の共犯者に頭痛が更に酷くなるが…もうじき自身の自由を手に出来るとシオンは意識を次の戦いへと向けるのであった。
「……彼(ユウキ)も不憫ね…」
自身にとって最大の障害に哀れみの念を抱きながら。
----------------
開幕の合図がブザー音となり試合会場を包む中、辺りは緊張に包まれる。
「す、凄い…」
会場の誰が呟いたかは解らないが、そう形容する事しか出来ないのは無理からぬ事。
何故なら、開始早々にルビアが繰り出した特大の爆炎弓が一寮のメンバーを上手く分断し、戦場を中心にして各エリアで各々異なる歌声に混じり剣戟、弓や魔法の応酬が繰り広げられているのだから。
「…何を考えてるの…貴女達は…」
自らも魔法とレイピアを用いて先陣を切って戦場を駆けるシオンであるが力の神(クラトス)をその身に降ろしたアリシアと鍔迫り合いになる形で足止めされる。
「ふふ、戦いの最中で歌を歌ってはいけない、というルールはありませんよ?シオン先輩?────」
「…不愉快だわ、その余裕が…ッ!」
本来鍔迫り合いは疎か単騎戦には不向きなレイピアを巧みに扱い乍突きの嵐を見舞うシオンは目の前のアリシアの歌声に苛立ちを覚える。
何故なら、それは彼方にて己の矜恃を通さんとする男(ユウキ)に対する恋情を唄うものだから。
──彼女が得られない未知の感情を唄う声に、彼女は内心焦りとも羨望とも取れぬ感情を抱きつつ、自由への渇望を叫びと変えて神降ろしの勇者(アリシア)と斬り結ぶ。
----------------
「へへ、やっぱ師匠はすげーや!上手く行ってる!」
「喋る暇があるなら歌え、というかお前のその歌はなんだ?───」
アルを始めとするレナ、セチア、シオンを除いた四名とライとリリアの二人組が対峙する中無属性の強化魔法と持ち前の俊敏性…そして、一週間の地獄の特訓を通して身に付けたトップスピードで走り抜ける事で水の上を時計回りに走り抜ける独自の歩法で怒りや欲に血走った眼を文字通り回している四人を拳で殴り、リリアは自身が最も得意とする水魔法と空間魔法を用いたフィールドを形成し逆時計回りに回りながら縦横無尽に三叉槍で切り付けて行く。
「これ?俺の部族に伝わる戦いの歌!~~ッ!」
「…そうか、一族に誇りを持つ部分だけは賞賛してやる…!───」
性質の異なる二人ではあるが一族に誇りを持つ、その一点に於いては全く同じ二人は二年生の身ながら自身の力以上の力に苛まれている四人を手玉に取っている。
----------------
「よ、っほっ、と!」
「ルビアちゃん、次はあっち!」
無属性による障壁魔法で本陣を難攻不落の要塞としながら空間に極小の穴を作り各戦場に弓での援護を行うルビア、ベラペア。特にライ、リリアペアを援護しているが要所要所で横槍を入れる形で他のメンバーの援護も的確に行っている。
「魔力は大丈夫かい?ベラ!───」
「う、うんっ、まだ大丈夫!───」
二人が口ずさむのは竜人族と妖精族、種族の垣根を超えた二人の友情の証である校歌であった。
華が無いと笑わば笑え、そう言わんばかりに…然し確かな矜恃を持って唄う歌声は誰よりも力強く後輩達を支えていた。
----------------
「やれやれ、私(レナ)の相手は君なんだね~…ま、良いや、偽物の姉より本物の姉の方が強い事を教えてあげるよ」
「……エリス、負けない……ユーくんを泣かす人は例えユーくんのお姉ちゃんでも許さない…───」
音速の域を超えた拳と拳がぶつかり合い、蹴りと蹴りが交差する中でもエリスは唄う、姉弟の様に育った愛しい男(ユウキ)に捧ぐ愛の歌を。
「…この時間軸でも、君はその歌を唄うんだね…!」
「…?…どのエリスも、エリス…!───」
何を言っているのかが解らない、そう言わんばかりに魔身流を修めた者同士が赤みを帯びた黒い力の塊、魂合(こんごう)を纏いながらぶつかり合う。
──お互いに譲れない想いを掛けて。
----------------
「…貴方様なんですの?皆様に歌を歌わせているのは…」
「…まぁね?心を読める君からしたら目眩し程度にしかならないだろうけど」
戦場の中心で時折味方陣営の力を増幅する為の歌を口ずさむセチアと神剣を鞘に納めたままのユウキが対峙する。
「…いえ、皆様の歌はとても心地好いですわ…それで、貴方様はどんな歌を歌って下さいますの?」
狂気に彩られていたセチアに理性の色が戻るのを肌で感じるユウキは不敵に微笑む。
「───無論、囚われのお姫様(セチア)を救う為の歌(こえ)を紡がせて貰うよ。一曲踊ってくれるかい?セチア」
「──あぁ、…矢張り貴方様は素敵ですわ…!えぇっ、一曲と言わずこの身、この魂が果てる迄…死が私達(わたくしたち)を別つまでッ!」
二振りの神剣を引き抜く勇者(ユウキ)と二組の短剣を構える聖女(セチア)、二人の戦いが始まらんとしていた。
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