最後の魔導師

蓮生

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第3章 エイレン城への道

かれを守る者 ②

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「…!!」

 身の丈以上に盛り上がる波が出現した。
 見上げるようにした目線の先、篝火かがりびや松明に照らされ、黒々と映し出された水の壁がせまりくる。

(な…なんだ!?)

 突如とつじょとして現れた波頭はとうのしぶきが、こちらを飲み込もうとするかのようにおそいかかろうとしていた。
 
 目の前に急に現れた黒い壁に、背後でどよめきが起こったのがわかった。

 竜が、尾を水面下でむちのようにしならせて起きた波動が、水を伝わり水上高く盛り上がる波となって、いっきにこの水際に押し寄せたのだ。

 「なに…!?」

 迫りくる黒い壁の中。
 その中に、一瞬、白いものが見えた。


 ——白い、だらりとした足だ。

 それにいち早く気づいたサフィラスは、何を考えるまでもなく叫んでいた。

「ニゲルッッ!!」

 無我夢中むがむちゅうでその波に身体を突っ込む。

 見える。

 ぼんやりと、揺らめく光を放つ、イウラの腕輪。
 
 刻まれた獅子ししもんが…、口を開けた2対の獅子が、黒い水の中で炎のような光を吐いているではないか。

(くっ…!)
 ニゲルが、この手を伸ばせば届く、すぐそこにいる。

 サフィラスは押し返すような水の圧力にさからって、腕を伸ばした。

 暴れる様に流れる水に逆らってぴんと伸ばした指の先、耳元でゴロゴロごぼごぼとなる水音、沢山の泡の向こう———、サフィラスの瞳は…ついに、力なく波に揉まれる白い顔をとらえた。

(ニゲル…!)

 うっすらとベールのように身体を包むアダマの流れが、かれを、かれの命を守るかのように、はかなげに水の中でただよっている。

 目をつぶり、まるで眠っているかのような穏やかな姿だ。

 それを見たサフィラスの両目は、熱くなった。
(…いきている…生きている…!)

 今まさに消えんとする命の炎が、腕輪を通じて、かれを…この暗闇の中でサフィラスの元へ導いている。
 まるで、誰かが連れてきたかのように。
 


———サフィラス、可愛い男の子が生まれたのよ!ねぇ、いつか会いに来てほしいの…お願いね…



 つかんだ白い腕を引き寄せると、どこからかルシエの懐かしい声が聞こえた。
 

 
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