最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
上 下
51 / 93
第2章 旅立ち

別れの時⑥

しおりを挟む
 

 ところが、重苦しい気持ちを奮い立たせて向かった部屋の中では、思いもよらないことが起きていた。
 
 いつも3人で寝ている寝台の上はカバンや何かの道具のような謎の物体で埋められ、部屋の真ん中には小さな山ができるほど積み上げられた衣類。

 まるで泥棒でも入ったかのように床には物が散乱さんらんしぐちゃぐちゃで、荒れ放題荒れていた。

「ラモ…なんでこんなことになってるの」

 唖然あぜんとなって、扉のそばで固まっていたラモに話しかけるものの、ラモはニゲルをちらりと見るやいなや、そそくさとそばをすり抜け、気まずそうに部屋を出ていった。

 あとに残されたのは、積み上がった衣類のそばでお互いを敵であるかのようににらみつけ突っ立っているマリウスとマーロンである。

 ふと、マリウスが物凄い形相ぎょうそうでニゲルのほうを振り向いた。

「マーロンのいう事は本当なわけ…?」

 ―――もしや。

「にいちゃん、アーラと僕を捨てるのかよ…?」

 やっぱり。
 (はあ…マーロンの奴)
 なんだか収拾がつかなくなりそうな予感だ。

「そうじゃないよ。だけど、僕は命を狙われているからマリウスとアーラと一緒に居られないんだ」
「…はあ?」
「僕が離れていれば、2人は無事でいられる。それに、あの洞穴の家にはもう住めない。だからマリウスたちはここで安全に暮らすんだ。いいって言ってくれたんだよ。そんなありがたいことないじゃないか!だけど僕は、ここにずっといて、そのせいでいつかウエンさんたちが危険にさらされるようなことになったら、どうつぐなえばいいんだ。だからサフィラスと行くことにしたんだ」
 ニゲルは怒りをあらわにして睨みつけてくるマリウスに必死にうったえた。
 自分に力があろうがなかろうが、2人を守るため…それが一番の理由なのだ。それを分かってほしかった。

「冗談じゃない…帰ってこないつもりかよ!」
 マリウスは聞いたこともないほどの大声で叫んだ。

 はっとするほどの悲しい表情から、ぽろぽろと涙があふれ伝っている。

 ――もう、手紙を渡すなんてどうでもいい。
 そう思い、今の心の中で渦巻うずまく感情をニゲルも爆発させた。

「帰ってきたいよ…だから僕は闘うんだ!サフィラスや僕を狙って追いかけてくる奴と闘って勝たなきゃ、僕にはこの先も、命の危険が付きまとう。生きる為に仕方なくいくんだよ!!なんで分からないんだ」
「にいちゃんのバカ!!」
 マリウスは勢いよくニゲルに駆け寄りつかみかかると、いきなりほおを本気で殴ってきた。

 ほおの骨に手の関節が当たったのか、ものすごく痛い。

「…いっ!」
 あまりの力で、ドンっと床にうしろ手をついてしまう。
 おどろいて目を見開いたままマリウスを振り返ったが、彼はそれだけでは止まらず、しりもちをついた体に馬乗りになって手あたり次第殴りかかってくる。
「ぐッ…や、やめっ!うっ!」
「…おい、マリウス!ニゲルを放せ!」
 マーロンが驚いてマリウスを後ろから羽交はがいじめにしようと引っ張っているが、めちゃくちゃな力のせいか、暴れるからか、なかなか引きはがせない。
 ニゲルもなんとか殴りつけてくるマリウスを止めようと手をつかんだけれど、今度はひたいに頭突きをされ、あまりの痛みにその手を離して頭を抱えた。
「ううッ!っッ!」
マリウスははあはあと肩で息をしながら、涙や鼻水を拭きもせずに怒鳴り散らしていた。
「こんな僕に勝てないくせに!!そんな危ない連中に勝てるわけないんだ!!」
ふたたびボコボコとニゲルの脇や顔や腹を殴っては、髪を引っつかんで床にしてやろうと押し付けてくる。
「やれるもんならやり返してみろ!僕たちを置いて行くってんなら、絶対に許さないからな!!」
「マリウス!落ち着けって!!ニゲルから離れろったら!!」
「うるさい!!僕たちの事知りもしないくせに!!」


 もはやマーロンも巻き込まれて3人で大乱闘になっていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

[完結]ゆり子と不思議なコピー機

早稲 アカ
児童書・童話
ゆり子の家に、ふしきなコピー機がやってきたのですが、思わぬ事態に・・・。楽しんでいただければ幸いです。

スクナビコナの冒険―小さな神が高天原を追放されネズミとともに地上に落っこちてしまった件―

七柱雄一
児童書・童話
 スクナビコナは人の手のひらに乗る程度の小さな体の神です。  またスクナビコナは日本神話に登場する神でもあるのですが、作者としては日本の神話などに関する予備知識があまりなくても、読み進められるように本作を書いていくことを心がけようと思っています。  まだまだ『アルファポリス』初心者の上に未熟者の作者ですが、一応プロを目指す方向でやっていくつもりでおります。  感想、ご指摘、批評、批判(もちろん誹謗、中傷のたぐいはご勘弁願いたいのですが)大歓迎でございます。  特に特定の読者層は想定しておらず、誰でも読めるものを目指した作品です。  また『小説家になろう』『カクヨム』でもこの小説を投稿しております。  ではぜひお楽しみください!

恋を奏でるピアノ

四条葵
児童書・童話
放課後、音楽室。 柏崎 愛華(中学二年生)は、音楽室のベランダからいつも校庭を見ていた。 その視線の先には、一生懸命部活に取り組む、陸上部の男子、三浦 椿の姿が。 音楽室からながめていた彼に、次第に恋心を抱くようになった愛華。 一度も話したこともない、なんの接点もないふたり。 そんなある日、危ないところを椿に助けてもらって、愛華の恋が動き出す。 椿の走りに勇気をもらった愛華と、 愛華のピアノに元気をもらった椿の、 ほのぼの学園ラブストーリー。

今日の夜。学校で

倉木元貴
児童書・童話
主人公・如月大輔は、隣の席になった羽山愛のことが気になっていた。ある日、いつも1人で本を読んでいる彼女に、何の本を読んでいるのか尋ねると「人体の本」と言われる。そんな彼女に夏休みが始まる前日の学校で「体育館裏に来て」と言われ、向かうと、今度は「倉庫横に」と言われる。倉庫横に向かうと「今日の夜。学校で」と誘われ、大輔は親に嘘をついて約束通り夜に学校に向かう。 如月大輔と羽山愛の学校探検が今始まる

無人島サバイバル〜修学旅行に行くはずだったのに無人島ってどういう事ですか!?〜

アキラ
児童書・童話
 主人公の栗原世衣加ちゃんは修学旅行に行くはずだったのに、無人島に横たわっていた。 修学旅行は諦めて、無人島サバイバルの始まりだ! とテンションの高い世衣加ちゃんだが、他のクラスメイト達の様子と、この世界がおかしいことに気が付き……。

ミラー★みらくる!

桜花音
児童書・童話
楠木莉菜、中学一年生。 それはわたしの本来の姿。 わたしは莉菜という存在をずっと見ていた、鏡の中にいる、もう一人のリナ。 わたしは最初から【鏡】の中にいた。 いつから、なんてわからない。 でもそれを嫌だと思った事はない。 だって鏡の向こうの〈あたし〉は楽しそうだったから。 友達と遊ぶのも部活も大好き。 そんな莉菜を見ているのは楽しかった。 でも唯一、莉菜を悩ませたもの。 それは勉強。 そんなに嫌?逃げたくなるくらい? それならかわってあげられたらいいのに。 その瞬間、わたしと莉菜が入れ替わったの。 【鏡】の中で莉菜を見ていたわたしが、束の間の体験で得るものは……

平等のお菓子

大山 たろう
児童書・童話
母は、長男、次男、三男に『平等に』菓子を与える。

わたしたちの恋、NGですっ! ~魔力ゼロの魔法少女~

立花鏡河
児童書・童話
【第1回きずな児童書大賞】奨励賞を受賞しました! 応援して下さった方々に、心より感謝申し上げます! 「ひさしぶりだね、魔法少女アイカ」 再会は突然だった。 わたし、愛葉一千花は、何の取り柄もない、フツーの中学二年生。 なじめないバスケ部をやめようかと悩みながら、掛けもちで園芸部の活動もしている。 そんなわたしには、とある秘密があって……。 新入生のイケメン、乙黒咲也くん。 わたし、この子を知ってる。 ていうか、因縁の相手なんですけどっ!? ★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★ わたしはかつて、魔法少女だったんだ。 町をねらう魔物と戦う日々――。 魔物のリーダーで、宿敵だった男の子が、今やイケメンに成長していて……。 「意外とドジですね、愛葉センパイは」 「愛葉センパイは、おれの大切な人だ」 「生まれ変わったおれを見てほしい」 ★*゚*☆*゚*★*゚*☆*゚*★ 改心した彼が、わたしを溺愛して、心をまどわせてくる! 光と闇がまじりあうのはキケンです! わたしたちの恋愛、NGだよね!? ◆◆◆第1回きずな児童書大賞エントリー作品です◆◆◆ 表紙絵は「イラストAC」様からお借りしました。

処理中です...