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第2章 旅立ち
別れの時⑥
しおりを挟むところが、重苦しい気持ちを奮い立たせて向かった部屋の中では、思いもよらないことが起きていた。
いつも3人で寝ている寝台の上はカバンや何かの道具のような謎の物体で埋められ、部屋の真ん中には小さな山ができるほど積み上げられた衣類。
まるで泥棒でも入ったかのように床には物が散乱しぐちゃぐちゃで、荒れ放題荒れていた。
「ラモ…なんでこんなことになってるの」
唖然となって、扉のそばで固まっていたラモに話しかけるものの、ラモはニゲルをちらりと見るやいなや、そそくさとそばをすり抜け、気まずそうに部屋を出ていった。
あとに残されたのは、積み上がった衣類のそばでお互いを敵であるかのように睨みつけ突っ立っているマリウスとマーロンである。
ふと、マリウスが物凄い形相でニゲルのほうを振り向いた。
「マーロンのいう事は本当なわけ…?」
―――もしや。
「にいちゃん、アーラと僕を捨てるのかよ…?」
やっぱり。
(はあ…マーロンの奴)
なんだか収拾がつかなくなりそうな予感だ。
「そうじゃないよ。だけど、僕は命を狙われているからマリウスとアーラと一緒に居られないんだ」
「…はあ?」
「僕が離れていれば、2人は無事でいられる。それに、あの洞穴の家にはもう住めない。だからマリウスたちはここで安全に暮らすんだ。いいって言ってくれたんだよ。そんなありがたいことないじゃないか!だけど僕は、ここにずっといて、そのせいでいつかウエンさんたちが危険にさらされるようなことになったら、どう償えばいいんだ。だからサフィラスと行くことにしたんだ」
ニゲルは怒りをあらわにして睨みつけてくるマリウスに必死にうったえた。
自分に力があろうがなかろうが、2人を守るため…それが一番の理由なのだ。それを分かってほしかった。
「冗談じゃない…帰ってこないつもりかよ!」
マリウスは聞いたこともないほどの大声で叫んだ。
はっとするほどの悲しい表情から、ぽろぽろと涙があふれ伝っている。
――もう、手紙を渡すなんてどうでもいい。
そう思い、今の心の中で渦巻く感情をニゲルも爆発させた。
「帰ってきたいよ…だから僕は闘うんだ!サフィラスや僕を狙って追いかけてくる奴と闘って勝たなきゃ、僕にはこの先も、命の危険が付きまとう。生きる為に仕方なくいくんだよ!!なんで分からないんだ」
「にいちゃんのバカ!!」
マリウスは勢いよくニゲルに駆け寄りつかみかかると、いきなりほおを本気で殴ってきた。
ほおの骨に手の関節が当たったのか、ものすごく痛い。
「…いっ!」
あまりの力で、ドンっと床にうしろ手をついてしまう。
おどろいて目を見開いたままマリウスを振り返ったが、彼はそれだけでは止まらず、しりもちをついた体に馬乗りになって手あたり次第殴りかかってくる。
「ぐッ…や、やめっ!うっ!」
「…おい、マリウス!ニゲルを放せ!」
マーロンが驚いてマリウスを後ろから羽交いじめにしようと引っ張っているが、めちゃくちゃな力のせいか、暴れるからか、なかなか引きはがせない。
ニゲルもなんとか殴りつけてくるマリウスを止めようと手をつかんだけれど、今度はひたいに頭突きをされ、あまりの痛みにその手を離して頭を抱えた。
「ううッ!っッ!」
マリウスははあはあと肩で息をしながら、涙や鼻水を拭きもせずに怒鳴り散らしていた。
「こんな僕に勝てないくせに!!そんな危ない連中に勝てるわけないんだ!!」
ふたたびボコボコとニゲルの脇や顔や腹を殴っては、髪を引っつかんで床に伸してやろうと押し付けてくる。
「やれるもんならやり返してみろ!僕たちを置いて行くってんなら、絶対に許さないからな!!」
「マリウス!落ち着けって!!ニゲルから離れろったら!!」
「うるさい!!僕たちの事知りもしないくせに!!」
もはやマーロンも巻き込まれて3人で大乱闘になっていた。
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