最後の魔導師

蓮生

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第2章 旅立ち

大魔法①

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「え!?」

 ニゲルは食い入るようにサフィラスの瞳を見つめ返した。


「…かつてこの国はね、周りの国を征服せいふくするために、魔法士を戦士として育てて、戦争で人を殺したり支配する事を彼らに強制きょうせいしていた。そして、魔法士は長い間国のためにと奴隷どれいのようにあつかわれて、多くの者がその命を失った。そうして国を救うためにと必死に戦う者たちが、この国が他国を侵略しんりゃくしているという事を知ったのは、ずいぶん後になってからだ。当時、多くの魔法士を育てていた魔導師の一人で、国の筆頭魔導師ひっとうまどうしであり、大魔賢者と呼ばれていた私の導師が、この国は間違っていると気づいて、その時の国王に楯突たてついてしまった。間違いを正すべきだと。魔法は、力を誇示こじして誰かを暴力ぼうりょくで支配するためにあるのではない、誰かを守る、平和のためにあるのだと。しかし、国王は、魔法士や魔導師が国家にそむいたと、反逆はんぎゃく汚名おめいを着せて、捕らえては次々処刑しょけいした。…それが魔法士狩りの始まりだ」

「なんでそんなひどい事するんだ!」

 ニゲルは怒りのあまり叫んでいた。
 信じられなかった。
 この国の偉い人がそんなひどい事をしているなんて、ショックでしかない。

「…それは、魔法士や魔導師を恐れているからだよ」

「でも正しい事を言っただけじゃないか!ひどすぎるよ!」

「…国王はおそろしかったのさ。力を持つ魔法士達が束になれば、国を乗っ取られてしまうかもしれないとね。それくらい、魔法士の技は神秘的で凄まじい威力いりょくがあった。だから、捕まえては魔法を使えないようにして捉えて、女性も、小さな子供でさえ、少しでも魔法を使える者はどんな人間でも殺してしまったんだ。そして、魔法士の子供は素質を受け継ぐからみんな捕らえられた。どこに連れて行かれたかも、分からないんだ」

 この国の王様はなんて残忍ざんにんな人なのだろう。
 思わず息を呑む。

 心の底から湧き上がるような震えにおそわれて、胸が苦しくなってくる。自分と同じくらいの男の子や、もっと小さい、アーラくらいの女の子でもそんな目にあった子がいるのかもしれないと思うと、恐ろしくてたまらない。

「…まって。じゃあ、もしかして…サフィラスを追いかけてて僕を殺そうとしたあの男の人、この国の兵士?サフィラスが魔導師だから殺そうとしてるの!?」

「いいや、彼はかつて魔法士だった」

「な…っ!」

 魔法士だって…?
 一体どういうことなのか!

「魔法士なの!?え?なんで?サフィラスの仲間じゃないか!それなのになんで!?」

 サフィラスは次第に下がってくる部屋の温度に気付いて、寝台から毛布をはいでくると、目で動きを追っているニゲルの身体を包むようにかけた。

「…そうだな。仲間だったよ。けれど彼は、魔法士であるには問題がありすぎるやつだったんだ。それで、導師に見放されたのさ。つまり破門はもんされて、全ての力を失ったんだ。魔法を2度と使えないように…」

「うそ…まさか、あの約束、やぶったの……?」
 ニゲルは、サフィラスが今しがた自分に手渡してきた紙を握りしめた。初めて見せられた時は、なんのためにこんなものを、と思っていた紙切れだ。

 けれどサフィラスはあの沢でたしかこう言った。

 ーーーこの紙にかかれた約束を度々破れば、いずれ力が使えなくなると。


「そう、その通り。あの紙は、私の導師が、私達弟子の為に作ったルールだ。紙を広げてごらん。消えた文字の跡があるはず。そこにはかつて《アオガン》という名前が刻まれていたんだ。ニゲルが沢で会ったあいつは、アオガンと言ってな…それはそれは、大きなアダマの吸収力をもつ男だった。誰も彼にかなわなかった。しかしアオガンはあろうことか、導師と交わしたおきてをことごとく破りはじめた。1度や2度ではない。弟子として最も優秀だった事をおごり、人をむやみに傷つけ、だまし、おとしいれ、さまざまな悪事を働いた。そうして、自分の力で人を意のままに支配しようとしたんだ。そして、ついにはそれを見かねて力を取り上げた導師に強い怒りをいだいたのだ」

「…そんな…」

「やつは力を失った後、導師に可愛がられていた私を表立ってうとむようになった。そしてもう2度と魔法士にはなれないから、国の役人になったのだ。しかしそれも全て、魔法士をこの国からほうむり去る事が目的だったのだ。私が導師の元で選ばれて魔導師となる試練を重ねていたある日、奴が試練場しれんじょうに乗り込んできたのさ。大勢の、兵士を連れて」

「え…!それでどうなったの?」

「試練の最中、私達は一定時間無防備むぼうびになる時間がある。集中しているから、周囲に気を配る余裕もないし、雑念ざつねんを払っているから、体と意識は外の世界とは切り離されているんだ。魂と肉体が離れているような感じだよ。だから、ヤツらが私たちに向かって遠くから毒矢を放っている事に気づかなかったんだ」

「うそ…!それで大丈夫だったの?」

「いいや…。私とて、いかに稀有けうな魔法を使えたとしても万能ではない。死ぬ時は死ぬ。私はその時、矢を何本もまともに受けて、毒により命を落とした」

「は!?死んだの??死んだってこと!?」

「…そう。死んだ」

「うそでしょ!いま、サフィラスは生きてるじゃないか!!」
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