最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
上 下
13 / 93
1章 出会い

お互いの気持ち

しおりを挟む
 ニゲルは意地悪を言われているような気がしてきた。まるで、教えたくない、そう言っているように感じる。
 思わず不満をあらわにして、サフィラスを見た。
 しかし、その瞳は、ニゲルの事を信頼しきって全てをさらけ出しているかのように真っすぐだった。 なんの濁りもない、澄んだ清らかさがにじみ出て、正義感が溢れている。
 そして、一際強く宿る責任感がはっきりと映っていた。

 だからニゲルはそれ以上、サフィラスを悪く思うことは出来なかった。

「…どうして人に見せたり簡単に使ったりするなら教えないって言うの?使うために覚えるんだよね?」

「そうだよ。使うために覚える。だけどそれは、いざという時に使うためだ。今こそまさに使うべきだという時のため。むやみやたらにふりかざすために覚えるわけじゃない」

「いざという時…」

むやみやたらに力を振り回す人がいたら、ニゲルはどう思うか?サフィラスはそう言った。

「力というのは、正しく使わなければならないよ。それは、私と魔法を学ぶ上でのおきてだ」

「…わかった…」
「まだ、納得できない?」

「…大丈夫」

 首を横に振って、納得したと意思表示をする。
 しかし正直なところ、完全に納得は出来ていなかった。
 しつこいくらい自分に言い聞かせてくる理由がいまいちよくわからない。

「さっき言った、この3つの約束はとても大事な約束なんだ。だから度々破るようになれば、ニゲルは私からすごい技を学んだとしても、その力を次第に使えなくなる。そして、全く守らないようになれば、いずれは二度と使えなくなる。これはそういう契約の紙だよ」

「…使えなくなる!?うそ、なんでそんなことするの?困るよ!」

「…それは私が先生だからだよ。48日しかニゲルと一緒にいられなくても、私は、ニゲルが死ぬまで先生でいるつもりだ。これから教える魔法の技よりも、この大切な3つの約束を忘れられたら困る。だから、こうして契約で見守り続けるんだ」

「そっか、離れても厳しい先生のままってこと…?」

 サフィラスは優しく微笑んでニゲルの頭を何度も撫でる。

「そうだ。君が私の誇らしい生徒でいてくれるよう、ずっと見守っているよ」

 頭を撫でる優しい手。
 ニゲルにこんな優しい眼差しを向けてくれる人はこの先現れないかもしれない。
 サフィラスは、どうしてこんなふうによくしてくれるのだろう。不思議でならない。
 難しい事をいうけど、こんなに自分のそばにいてくれようとしてくれる大人は初めてだ。
 もしかしたら、お母さんに頼まれてニゲルの様子を見に来たのかもしれない…。

 ふとそんな予感がした。


「弟子になったら、サフィラスは、僕が死ぬまで僕の、どうしなんだね」

「あぁ、もちろんだよ。忘れるんじゃないぞ?」

「わかった、忘れない。…約束、絶対忘れないよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

積み木クラブ

はりもぐら
児童書・童話
ある日僕は積み木クラブを見つけた

お姫様の願い事

月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。

わたしの婚約者は学園の王子さま!

久里
児童書・童話
平凡な女子中学生、野崎莉子にはみんなに隠している秘密がある。実は、学園中の女子が憧れる王子、漣奏多の婚約者なのだ!こんなことを奏多の親衛隊に知られたら、平和な学校生活は望めない!周りを気にしてこの関係をひた隠しにする莉子VSそんな彼女の態度に不満そうな奏多によるドキドキ学園ラブコメ。

処理中です...