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高校編

不健康女子の高一・清明 式の後①

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 うちの和室で、ふたりでのんびり午後のお茶。

 たぁくんは学ランこそ脱いだけど凝った比翼仕立てのシャツにスラックスだから、思い切りくつろぐ所まではいかないだろう。私を抱きしめる腕が、厚い胸板が、薄いシャツ越しに体温を伝えてくる。

 そんな彼の腕の中。体の芯までぽかぽかしてくる。冷たくなってた指先やつま先まで、彼の熱でくるまれてるみたいだ。
 私を抱きしめて、肩に顔をうずめてしまったので彼の表情は見えないけれど。

 いつも泰然自若たいぜんじじゃく、のていで落ちついてどっしり構えているたぁくんが、疲れた声でぼやくのは珍しい。

「大変だったのはたぁくんの方だったねぇ、お疲れさま」

 朝、電車の中で元気づけてもらったお礼とばかりに、よしよし、いいこいいこ、と頭をなでなでしてみる。ううう、かわゆいです。
 たぁくんが! かわゆい!
 あ、なんか今私、女性ホルモンどばどば出てる気がするぞ。

「それ、いいな」
「なにがー?」
「イコの手になでられると元気になる」
「一緒だね! 私もたぁくんの手になでられると元気になる。たぁくんの手がだーいすきなのです! あっ、お尻も好き! 筋肉も全部好き!」
「そうか」

 たぁくんの手は魔法の手だ。いつだってあったかくて私を安心させる。ただ、この大きな手は、時に私をちりちりと駆り立てたり、体の奥から甘い快楽を引き出したりもする。
 どちらも、そう、どちらの彼の手も、好きです。

 肩に彼の頬をゆっくりとすりすりされて、体の奥がきゅんきゅんする。甘えんぼなたぁくんかわゆい。
 おいも食べよう、と誘うと、顔を上げたたぁくんが「食べさせてくれるか」なんて言うからなおさらきゅんきゅんする。くそう、可愛いぜ!
 ほっぺにちゅーとかしたいな。

「今日のたぁくんは甘えんぼさんモードですな! 新鮮」

 よしよしー、いいこでしゅねー!
 私はわくわくしながらフライドポテトをつまんで、顔を上げたたぁくんの口元に差し出した。
 大きな手が柔らかく私の手首を掴んで口元へ導き、そのまま口がぱくりとポテトを食べる。

「もう冷めてる? チンしてこようか」
「これでいい」

 もぐもぐ動く彼の咀嚼が肩から伝わってきてくすぐったいな、なんて思っていると、つかまれたままだった手の指先をぺろっと舐められる。

「ひょわぁ!」

 濡れた柔らかな感触にびっくりして叫べば、くすり、と彼が笑う。

「しょっぱいな」

 ひぃ! 耳元でそんなエロい声出さないでください妊娠する!
 たいしたこと言ってないのに、低くて静かな声に熱と甘さが加わると、もう、脳みそ絡め取られちゃいそうにセクシーな声になる。
 怖い。イケメン怖い。このナチュラルボーンタラシめ!

「も、もう、びっくりした!」
「嫌か」
「嫌じゃないけどくすぐったい」

 たぁくんは、つかんでいる私の手の甲に頬ずりし、唇で軽く食んだ。彼の唇の柔らかさ、一瞬だけ触れた口内の熱さに声が出そうになる。

「イコが好きだ」
「う、ん」

 手首を押さえていた大きな手が、手のひらをなでながら上にあがり、私の指へ指を絡める。
 指の間をすべる彼の太くあたたかい指にぞくぞくして、体がぴくっと1度跳ねた。

 もうだめ、もう身も心も彼にめろめろにされて訳が分からない。
 私は一体たぁくんにどうされたいんだろう。
 緊張してこわばる指を、たぁくんはキスをしてから、離した。

「たぁくん……?」
「せっかくイコが用意してくれたんだ、まずは食べないと。紅茶も冷めるし」
「あっ、そっ、そっすね!」

 慌てて紅茶へ手を伸ばす。私の慌てっぷりにか、くくっ、と小さく笑って彼も身を起こした。
 カップを傾けぬるめの紅茶をのみながら、少しだけ後ろを向いて、上目遣いにたぁくんを見上げてみる。
 桜ムースを食べようとしていた彼は、私を1度見下ろして目を細めた。
 紅茶色の眼差しは、とろりと甘いのにどこか獰猛で、ちょうど今私は肉食獣の爪にがっちりとらえられているんだろうな、と思わせる。

 なんか……、これたぶん、きっとそうだ。
 お茶の時間が終わったら、私、たぁくんに唇が腫れるくらいちゅーされるんじゃないだろうか。手加減とか絶対ないやつ。
 熱烈で、熱烈で、意識をかりとってくる、嵐みたいな激しいくちづけ。


 期待と少しのためらいに、唇がほんの少し、震えた。


 ◇


『ちゅーは、ふたりきりのときに、たぁくんの腕の中でするちゅーが、いちばん好きなの』

 本心そのままに口にした言葉は、しっかりたぁくんの記憶へ焼き付いたらしい。
 彼の腕の中ではじめ、柔らかく重ねるだけだったキスは、細かくついばむものに、角度を変えてする甘いものに、柔らかさに甘やかされるようなものにと変わっていき、気がついたときには畳の上。両手の指を絡めて縫い止められたような柔らかな拘束のもと、深いくちづけを与えられていた。

「んっ、んう、ふうっ」

 柔らかな舌が口の中を探り、くすぐり、誘うように私の舌へ絡まる。その全部が私に好きだと伝えてきて、もう与えられる思いもいっぱいいっぱい、私がぱちんと弾けてしまいそうだ。

「あぁ……、そんな、可愛すぎるだろう。無防備に、とろけた顔して……。可愛い」

 顔を離した彼は、切なげな眼差しにむき出しの熱を込めて私を見る。焼けつきそうに熱い頬をなで、キスのしすぎでとろけたみたいな唇をなぞる。

「イコ、可愛い……」
「たぁ、くん」

 舌がもつれる。
 鼻先で私を見つめる大好きなひとを呼ぶ。

「唇だけじゃぁ、やだぁ……」
「イコ」
「キス、して。いっぱい。からだ、ぜんぶ。ねえ……」

 鈍く動かない頭が言わせる言葉。

「からだじゅう、どこも、ぜんぶ、ぜんぶ……たぁくんのキス、ほしいよ」

 至近距離で、たぁくんの目の色が変わった気がした。
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