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中学編

不健康女子の中三・啓蟄の末候②

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「あわわわわ……」

 やばい。
 まずいよう、これはシャレにならないぞどうするんだ私。これ自分で自分の首絞めてるよね!?
 掲示板を見上げながら、口をぱくぱくすることしかできない。
 どうしよう。
 だってこんなことになるなんて思ってなかったのだ。


 学舎の保護者同伴入学オリエンテーション。
 私とママはたぁくんのママの車に便乗しての参加だ。昨日電車でヘロヘロになってしまった私を気遣ってくれたたぁくんが、おうちの人へお願いしてくれたのだ。農作業や春のお彼岸のぼたもち作りに忙しいはずなのに、ふたりは朝からうちへ迎えに来てくれた。

「どうせ行かなきゃいけないなら、早いも遅いもないよ! 一緒に行きたいってうちの丈夫がうるさいしね!」

 たぁくんのお母さんは明るく笑った。ありがたい。

 新入生と保護者は別の場所で学校生活についての説明を受けた。受験番号順だったので、たぁくんとは離れて話へ耳をかたむける。
 感じるのは学舎の勉学に対する徹底ぶりだ。1週間の休みは日曜・祭日のみ。長期の休みには学校で講習が組まれ「学舎に行けば塾なんかいらない」といわれる理由がよくわかった。その上、運動会や文化祭など、行事というものがほとんどない。
 え? 少女マンガによくある胸キュンイベントは?
 青春って何だっけ? 質問したら、学舎は『勉学!』とサムズアップしながら答えるだろうそんな環境。運動オンチと致しましては、運動会がないのはありがたいわん。

 オリエンテーションは12時をこえたあたりでようやく終わり、私はたぁくんより一足先に外へ出る。彼は奨学金希望者なので、個別に結果が知らされるのだ。ぼんやり待っているのもなんだし、クラス分けが張り出された掲示板の前へ行く。

「ええと……?」

 専願なら進学クラスだから3組か4組だ。上から下へ眺めて自分の名前を探す。

「んん?」

 ない。
 見落としかな? 私はもう一度、世渡イコの名前を丁寧に探す。

「うそだぁ」

 ない。どういうことだ。なんでないの? 事務の人が間違えたのかな、後で聞いてみよう。たぁくんはたぶん、成績がいいから選抜クラスでも1組の方だろう。探せば、さすがたぁくん。すぐに1組で岩並の名字を見つける。

「……ん?」

 2組。名簿の最後の方。一瞬なじみの字を見つけた気がした。じっくり見つめる。
 あった。

「あわわわわ……」

 やばい。
 なんで? なんで私2組なの? 選抜クラスじゃないか、私、専願枠だよ?! 普通は進学クラスでしょう、なんで選抜!?
 もしかして、0点製造機になりたくないがために、たぁくんに教わりながら勉強してた影響ですかね? それにしたってあなた、私なんか選抜クラスの中でも崖っぷちからぶら下がってるギリギリの状態なんでしょ?
 無理。無理です!
 ついて行ける気がしない。
 これで来年進学クラスにランクダウンとか恥ずかしいじゃないですかーヤダー。

「悪い、イコ。遅くなった。母さんたち、荷物を車に置いてくるって先に行ったぞ」
「たぁくん……」

 振り向くと、たぁくんは半ベソかいてる私を見て眉を寄せた。

「どうしたイコ? クラスメイトに気の合わなそうな奴でもいたか? 気にするな、俺が話しておくから」
「えっ、待ってそんな、まだクラスメイトについてなんてわからないし、どうしてそんなにしっかりコブシを握っているのたぁくん! それ話す気ないよね? 実力行使する気満々だよね?! たぁくんそんな人だったっけ?!」

 優しいお気遣い紳士はどこへ行ったのだ。

「選抜クラスだよう、どうしよう。私そんなに頭よくないのに」
「イコは合格した後も勉強にはげんでいたじゃないか。当然の結果だ」

 たぁくんはコブシを開いて私の頭をなでる。掲示板の前で、人がいっぱいのところでなにをするのですか! 嬉しいけれど恥ずかしくて、私は彼の腕へ抱きつき端へと誘導する。

「今回は一緒のクラスじゃなくて残念だけど、来年は同じクラスになれるかもしれないな」
「まあほら、私がんばらなくてもたぁくんが落ちて来てくれるならいいよ!」
「なんだそれ」

 話すたぁくんは上機嫌だ。
 もしかして。

「奨学金、決まった?」
「もらえることになった。正直1年目からもらえるとは思わなかったけど、ありがたいよ」
「おめでとう! すごいね、たぁくんのお母さんも喜んだでしょう」
「まだ実感わかないって言ってたな」

 合格しても手を抜かずに、たぁくんは塾も続けてがんばっていた。0点はイヤだ、と基本をおさらいするだけだった私とは比べられない努力をしていた。

「さすが! やっぱりたぁくんはすごいよ!」

 何事にも手を抜かない私の彼は、私の賛辞にはにかんで笑った。笑顔が滅茶苦茶キュートでした。大柄むきむき眼福イケメンのはにかみ笑顔、大好き。





 4人でファミレスに行き昼食にした後「うちでお茶しよう!」とのたぁくんのお母さんの言葉で、岩並家へお邪魔することになった。行くのはクリスマスの停電以来だ。私は後部座席、たぁくんの隣で、わくわくしながら話しかける。

「おじゃましたいって言ってたのに、まだ行けなかったもんね。今日こそたぁくんの部屋の魅惑の18禁を探索するのだ!」
「だから、そんなものない」
「みんなそうやって知らんぷりするんだよね、持ってても」
「だから、そんなもの持ってない!」
「まあまあ」
「その、わかってますよって感じの笑顔はやめてくれ」

 いやあ、わかってますよ、18禁を嫌いな健康優良男子なんていませんよねフヒヒ! どこを探そうかなあ。本棚、押し入れ、後どこがそれっぽいかな。楽しみ。


 そして学習能力のない私は、岩並家へ着いて早々、ペロちゃんの熱烈ペロペロ大歓迎に遭い、顔中どろどろで窒息しかけた。

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