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中学編

不健康女子の中三・桃の節句④

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 あったかい。
 ぼんやりした意識の中、温かな肌にすり寄る。優しく抱きしめなおされて、嬉しくてくすぐったい。
 ああ、私まだ、裸だ。
 触れ合う彼の体も素肌で、だけどさっきのような焦燥がない。寄りそう嬉しさだけを、ゆったりと感じていられる。

 大好きなひとの腕の中。

 体がだるくて力が入らない。ヘロヘロだけど、嫌な疲れじゃない。ふっと、彼の、たぁくんのにおいに気づいたとたん、一気にあれやこれやを思いだして照れてしまう。
 いや、私、何度かイッちゃったみたいですけど、そんな簡単に人ってイッちゃえるものなんですかね? 初体験だったし。なんならまだ処女だし。私おかしいのかな?

 なんだか不安になって目を開けば、すぐ前に鎖骨があった。しっかりした骨と筋肉。目線を下へ向ければふかふかの大胸筋。
 あ。
 鎖骨のあたり、ほくろがある。触れあうことに夢中すぎて、今まで気づかなかった。肩のあたりにそばかすが散っていて、よく見たら思っていたより肌が白い。冬の間に日焼けがとれたのだろう。
 そうか、たぁくん、色素薄いんだ。
 目の色も薄いもんね。

「イコ」

 大好きな、低く静かな声で呼ばれ、こたえようとしたのに声が出なかった。口から出た、かふ、という音を耳に拾ったか、彼が私をのぞき込んでくる。紅茶色の目が私を映す。

「大丈夫か」
「……ん」
「よかった、力尽きたみたいに動かなくなって心配した。息が穏やかだったから、ひとまず様子を見ていたんだ」

 目に見えて安心した顔のたぁくんから頬ずりをされる。
 うう、私、涙とよだれで顔がかぴかぴだよう、たぁくん。

「ポカ〇飲むか。人のうちのキッチンで勝手に探して悪いと思ったけど、イコが、のどが渇いているんじゃないかと思って持ってきた」

 返事のかわりに頷く。体が言うことをきかなくて、頭がゆっくりとしか動かない。
 たぁくんは、待っていろ、と言ってベッドから出た。広い背中とお尻を向けられる。
 ああー! パンツ穿いてる! お尻見たかったよう残念すぎるー!
 歯がみをする私をよそに、彼はポカリ〇エットをコップに注ぎ持ってきてくれる。

「起きられるか?」

 手を動かそうと思ったのに動かない。小さく身じろぎするだけの私を、たぁくんは丁寧に起き上がらせてくれた。口元にコップを当てて、ちびりちびりと飲ませてくれる。至れり尽くせりじゃないですか、あなた今すぐ介助員になれますぞー。

 少しのどを潤してひと息をつく。コップをヘッドボードに置いて、彼がベッドへ戻ってきた。隣に座り、両腕ですっぽり私を抱えて抱きしめる。

「イコ、こうして触れさせてもらえて、とても嬉しかった。ありがとう。イコのことが、大好きだ」

 どこかうっとりした話しぶりで、また私に頬ずりをしてくるけれど、取りあえずあなたに言いたいことがあります!

「なんでさっさとパンツ穿いちゃったの」
「えっ」
「まだちゃんとたぁくんのお尻見てなかったのに」
「いや、全裸で人のうちのキッチンをうろうろできないだろう」

 フルチンでキッチンをうろうろするたぁくんを想像する。めっちゃ自由人のたぁくん。見たい。

「いや、しないからな?」
「あれ、口にしてましたか」
「目が楽しそうにきらきらしてた」

 音を立てておでこにキスをされる。至近距離にとろける笑顔。うああ、甘すぎるよう、たぁくん!
 たぁくんは、私が動けるようになるまで、優しく胸に抱きながらいろんなことを話してくれた。

 薔薇をくれた花卉農家さんのこと。おじいちゃんの泰山さんのことで、農家さんからからかわれたこと。たぁくんのおじいちゃん、泰山さんの嫁取りが地域で語り草になっていること。
 桃の花は、毎年彼のおじいちゃんがおばあちゃんの千代さんのために咲かせていて、今日は一枝だけ譲ってもらえたこと。

 そして、桃の花の花言葉。

 ――――『わたしはあなたの虜』。

 恥ずかしそうに教えられて、むきむきイケメンのテレ顔にきゅんきゅんする。

「イコ、ありがとう。こういう言い方をすると、嫌かもしれないけど、その、とっても」
「気持ちよかった?」
「うっ。あ、ああ、き、気持ちよかった」
「えへへ」

 ガリガリのちびの体でも、この、彫刻みたいな体つきの大好きなひとを喜ばせてあげられたんだ。恥ずかしくって、でも嬉しくて、彼の首元へ額をこすりつける。

「イコ、くすぐったい」

 楽しげな笑い声。彼の腕の中はとても温かくて眠たくなる。

「寝るな。体を洗いたいだろう?」
「うん……色々かぴかぴです。お風呂入りたい」
「準備してこようか」
「ありがとう」

 私は彼を上目遣いに見上げる。

「一緒に入るの?」
「いやっ、それは駄目だ触りたくなる、イコの体に負担が大きい」
「体に負担が大きいこと、しちゃいたくなるんですね!」
「ああ……」

 頭にキスが落ちてきた。

「正直に言えばいつだって、イコに触れていたいんだ。だけど、すればこうしてしばらく身動きが取れなくなるくらい、イコは疲れてしまうだろう?」
「慣れれば、違ってくるかも……」
「急がなくていい」

 髪をなでながら、彼は私に言い聞かせる。

「無理に慣れようとしなくていい。ゆっくり、慣れてくれればいい。イコが、こうして体に触れさせてくれて、ぎりぎりまで許してくれたことがとても嬉しいから、なおさら大事にしたいんだ。やせ我慢かもしれないけど、それでも、我慢くらいさせてくれ」

 手を止め、彼は私の唇へくちづけて、ささやいた。

「イコは可愛い、大事な、俺のお姫様だから」

 大柄むきむき眼福イケメン王子様は、ただ今甘々モードです。

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