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中学編

不健康女子の中三・雨水の初候

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 岩並君はちょっとちゅーが好きすぎると思うのだ。
 いや、私も、ちゅーが嫌いなわけではなくて。むしろその、嬉しくてどきどきして気持ちよくて、ずーっとしてたいな……なんてしている時は思うんだけど。うあ照れる! 恥ずかちい!

 でも限度ってやつがあるだろう岩並君、会う度にちゅっちゅちゅっちゅ、話してるときもちゅっちゅちゅっちゅ。
 もうほんと、私の口がタコみたいに伸びたらどうしてくれるのだ!!

 そう、ワタクシ現在、気が付いた時には岩並君のおひざへ横抱きにされ、ちゅっちゅちゅっちゅと顔中にキスを落とされております。

「ちょ、ね、ねえ、岩並君!」
「どうしたイコ」

 どうしたじゃないよ話しにくいわ!
 今日はスマホを選びにお店へ行った後、貰ってきたカタログを広げながら私の部屋で話していたのだ。

 お互い手のサイズが違うから、スマホは同じメーカーの同じシリーズのサイズ違いにしよう。そうすれば機種が違っても共通部分が多いから、私が操作とかわからなくなったとき岩並君へ訊くことができる。ちなみに、今のところ1番頑丈なスマホのシリーズだから落としても安心だね!

 という話をしていたのに、ちゅっちゅちゅっちゅされて話が途切れてしまいました。
 岩並君のキス魔!

「イコが可愛いのが悪い」
「ええ……」

 頬ずりをされながら言われ困ってしまう。大丈夫かキミ、岩並君は視力か女性の趣味に重大な問題があるのでは。

「この3年近く、ずっとこうしたかったんだ。少しくらい浮かれても大目に見てくれ」
「そんなの気付かなかったよ」
「中3の夏くらいまで、そんなに仲好くなれなくて、塾でただ話すだけだったからな」

 そう、知ってびっくりしたのがこれ。
 岩並君は恥ずかしそうに、「町支部校に移ってきた中1の春辺りから、ずっとイコが好きなんだ」と教えてくれたのだ。驚きすぎてしゃっくりが出た。そんな素振りまったくなかったじゃないか!

 そんな、私たちが出会うきっかけになった塾。
 先日、大野君や事情を知ってる知世ちゃんに、改めて「付き合うことになりました」と報告したら、2人どころか教室全体が静まりかえって。

『うわー!!』

 いろんな所から悲鳴が上がりました。もう阿鼻叫喚。
 そんな様子は見えなかったけど、影で岩並君のこと好きな人がいたのかもしれない。イケメンだもんなぁ、などと思っていたら、だだだだだ、とまっしぐらにこちらに走ってきて、がっ! と両手で私の肩を掴んだ人がいた。
 なんだなんだ。
 このボインで大人びた女の子は、セクシー巻添さん!

「大丈夫ひどいことされてない!?」
「えっ」

 大人びた女の子に、必死な顔で問われて戸惑う。

「こいつ変態じゃん人前で指舐めてきたりさあ!」
「そんなにしょっちゅう寝ぼけてないから大丈夫だよ」

 やたらちゅっちゅしてきますけどね!

「そうなの? 変な薬盛られて既成事実作られたりしないでね!」
「えっ」
「おい!」
「変態は黙ってな!!」

 あまりなセリフに岩並君が声をあげたけど、1発で黙らされた。
 巻添さん強い。

「心配してくれてありがとう巻添さん、でも大丈夫、岩並君優しい人だから!」

 笑って巻添さんの顔を見上げると、彼女は大人っぽい顔をくしゃりとゆがめた。

「うううう、ともかくおめでとー! もう私、糖分濃くても耐えずに味わうことにするぅー!」

 かばっと抱きしめられる。
 おお、これぞ推定Eカップ、人類のシャングリラ! おっぱい柔らかいです。私はおっぱいの谷間に顔を埋めながら祝福を聞いた。
 糖分てなんだろ。

 これをきっかけに、私はこの日、あまり親しくもしていなかった塾の女子たちとたくさん話し、一緒に授業を受けていた全員が、岩並君の恋心に早い段階から気付いていた、というのを知った。

「ええ……」
「変に口出しして仲をこじらせたら悪いと思って、みんな見てるだけだったんだよねー」
「最近はもう糖度高くて窒息しそうだったけどさあ」

 だから糖度って何ですか。
 知らなかったのは私だけか、なにそのアウェー。だからといってみんなが岩並君サイドではないらしいのが面白い。

「だってねえ」
「告白に3年かかるとかとんだヘタレだよね!」
「図体ばっかりでかくってね!」
「むだにイケメンだけどさー」
「イケメンでもあれじゃねー」

 大柄むきむき眼福イケメン紳士は、塾の女子に不評でございました! 目の前で悪口言われる岩並君が哀れ。
 ただ今回のことで、あまり知らない人からも心配や祝福を受け話すことができたので、この日の私はご機嫌だった。決してEカップのおかげではない。

「イコ」

 岩並君の膝の上で、塾での事を思い返していると、彼は再びちゅっちゅ、と私の顔へキスを降らしはじめた。
 まぶた、額、鼻、おでこ、頬。

「もう、岩並君!」

 いいかげんにしろ、と私が憤慨すると、彼は楽しげに笑い私をぎゅっと抱きしめる。太い腕。広い胸元。岩並君の腕の中が大好き過ぎて文句が言えない私。おのれ謀ったな! 
 いちゃいちゃベタベタされすぎて、慣れてきちゃった自分が怖い。

「4月に入ったらきっと、2人とも忙しくなってあまり一緒にいられないだろうから。3学期や春休みはこうして、たくさん一緒にいたい」
「うん……」

 岩並君は高校で空手部に入るだろうし、私は高校での新しい生活リズムに慣れるまで大変なはずだ。確かに進学してしばらくは、こうする時間がとれないに違いない。
 あんまりちゅっちゅされるのは困るけど、こうして一緒に過ごせる時間が減ってしまうのはやだな……。
 しょんぼりした私の顔をあげさせて、岩並君は微笑む。

「ちょっと離れたくらいで寂しくならないように、こうしてたいんだ」
「っ!」

 さっきまでとは違う彼の、目の奥の熱に背中がゾクゾクする。まるでそれに気付いているように、大きな手で背中をなでられ。

「あ……」

 気持ちよくて声が出る。恥ずかしさと唇に感じるもの欲しさに、自分の人差し指を口で横にくわえる。あのファーストキスの日以来、私の唇は何かにつけて岩並君を欲しがるようになってしまった。やたらにキスされて文句は言ってみるものの、本気で怒れないのはこのせいだ。
 岩並君は私の手を口元から離させ、指先に軽くキスをしてくる。それでもなお私から外れない視線が、体の内側から私をくすぐる。

 好き。

 近づいてくる顔に目を閉じる。
 触れる彼の唇に頭の芯が溶かされる。入ってきた舌に舌を優しくなでられて、腰がぴくんと跳ねた。

「ん、ふ、んん」

 自分の鼻にかかった吐息にだけは慣れない。
 濡れた音を立てて互いの舌をからめあう。唇も口の中も、こうして彼にくちづけられる度に敏感になっていく。

 ああ。

 私が。
 どんどん、岩並君に作りかえられていく。
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