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中学編
不健康女子の中三・立春の次候①
しおりを挟む節分も立春も過ぎて、暦の上では春。
相変わらず寒いけれどなんとか寝込まずにいる。
明日は私の15回目の誕生日だ。
「イコちゃん、本当にこの冬がんばったわねえ」
「高校ももう決まったしなあ。明日には15才か」
「いつも寝込んでたのに、今年は元気にお誕生日が迎えられそうね!」
お仕事から帰ってきてようやくお夕飯のパパの隣で、パジャマ姿のまま一緒にテレビを見ていると、ママがついでに私の分のお茶を入れてくれた。
あったかいほうじ茶。猫舌だからしばらく飲めないけど。
「ありがとうママ」
「どういたしまして。イコちゃん、ほんとに誕生日プレゼントいらないの?」
「思いつかないの。なにがいるのかな、高校生活」
読みたい本は買ってもらったり借りたりしているし、お洋服はこの間お出かけで見た。たいていの欲しいものはお小遣いで買える範囲で、誕生日の特別感がない。
何がいいのかな。考えに夢中になりすぎてイスの上で体育座りをしてしまい、「イコちゃん、お行儀悪い」とママに注意を受けてしまう。ごめんなさいちゃんと座ります、手はおひざ!
居住まいを正した私を見て、パパが箸の手を止める。
「イコ、誕生日プレゼントはスマートフォンにしよう。でも、パパのはガラケーだし、スマホのことはわからないよ。自分で探してごらん」
そうだよね、専業主婦のママは携帯自体持っていないし、このうちにスマホについて詳しい人はいないのだ。
「自分で満足するまで調べて決めなさい。通信会社がパパと違っても構わないし、高い機種でもいいよ。その代わり、これじゃないとダメっていう、パパが納得するような説明がちゃんとできること! 契約するのはパパだからね。わかった?」
「わかりましたあ」
パパからのありがたいお話である。めんどくさいとか思っても言ってはいけない。
うちは基本、「それが本当に必要なら高額でも買い与えてあげるけど、説得できるだけのものがないとダメだよ?」というスタンスである。事あるごとに自分で選ぶよう言われ、嫌でも頭を使わないといけなくなる。
めんどうだからそっちで決めて、なんて言ったら最後、ママに嘆かれるしパパに怒られるのだ。
「自分のことに真剣になりなさい」って。
まだまだ熱いほうじ茶をすすりながら、どうしようか考える。
手間がかかりそうだ。ネットで見ても実際のサイズ感とか、実物を手に持ってみないとわからないことも多いだろうし。ショップのはしごかなあ。
岩並君も買うのかな。どうするのか今度聞いてみよう。
パパとママにおやすみなさいを言って部屋に戻る。
明日は誕生日。明後日は祝日で、岩並君におねだりした地域文化祭に連れて行ってもらう約束だ。
文房具のさんまとレモン、どんな風にお皿にのって出品されているんだろう、楽しみ。
『イコちゃん、ほんっとごめんね! お詫びにさ、お出かけの日にスタイリストするよ。1日ずれちゃうけど、誕生日だもん、お姫様みたいに可愛くしてあげる!』
先日の、岩並家と一緒に行ったお出かけで、買い回りすぎて私がへろへろになったことに責任を感じたらしい。明後日は烈さんが髪やらなにやら整えてくれるそうだ。午前中にうちに来てくれる。
『すっごい丈夫に文句言われて針のむしろだったんだよー。あいつ怒るとしつこいからさあ。私が悪いんだけど』
その分はりきって可愛くしちゃうよ! と烈さんは電話越しに笑い声をあげた。言うほどこたえてはいないみたい。見た目はキリッとしたモデル系美人なのに、烈さんはいろいろゆるくて親しみやすい人だ。
だけど、真面目な岩並君が「あの女……ッ!」ってたまに憤っているのも、わかる気がするのです。
でも結局仲いいんだよね、2人して。ひとりっ子としては羨ましい限りです。
そう、岩並君といえば。
『イコが見たい映画があったら誘ってくれ。ペアシートで映画鑑賞、楽しみにしてる』
ショッピングモールからそろそろ帰ろうかというときに彼が言ったのだ。
はじめ気乗りしないみたいな返事してたよね? どうしたの、お気遣い紳士だからって、気を使いすぎることないんですよ。お礼にならないじゃないか岩並君。
2月は始まったばかりなのに、なんだかんだ岩並君とお出かけする機会が多い。
その分お世話になっちゃって、ショッピングモールでは介抱までさせてしまった。あげく甘やかされて、キャラメルポップコーンでお腹いっぱい。やっぱりお昼は少ししか食べられませんでした。
いやね、極力食べようとはしたんですよ? でもすぐにお腹ぱんぱん。胃下垂で腹筋もないから、食べ過ぎるとぽっこり腹になるんだよね。だからかな、岩並君がやたら私のお腹あたりを眺めてました。
くそう、言いたいことあるなら言えよう、餓鬼にそっくりのお腹だねとかさあ、ほら、先生怒らないから! むきむきバディのイケメン男子め、彫刻みたいな体しやがって。最高じゃないですか、ナイスバルク!
岩並君。
大柄むきむき眼福イケメン、いい鑑賞物、なんて思ってた。
くすぐるみたいな甘い眼差しはまだ慣れない。最近は頭をなでられることも増えた、にゃんこのるりちゃんと同じ扱いかな。
触れられると嬉しいのに、なんでか逃げたいような気分になる。
急に思い切り抱きつきたい衝動に襲われてみたり、でも声をかけるのさえためらうような、近くにいるだけでちりちり火にあぶられてるみたいに感じるときもある。
大きくてあったかい魔法の手。
ずっと聞いていたい低い静かな声。
笑うと幼くなって可愛いのに、ときどきこちらがうろたえるくらいの色気を見せて微笑む。
岩並君に宝物みたいに大事に扱われて、勘違いしそうになる。
私は部屋の電気を消して、ベッドに入る。目が覚めた時には、15才になっているだろう。目を閉じて眠りが訪れるのを静かに待つ。
14才最後の日がもうすぐ終わる。
岩並君。
岩並君の中の14才の私は、どんな私でしたか。
たくさん迷惑かけちゃったでしょう? ごめんなさい。
仲好くなってくれてありがとう。
明日からの15才の私にも、あなたの中に、ちょびっと居場所をくれますか。
ねえ、岩並君。
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