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中学編
※中三・冬至 クリスマス⑤
しおりを挟むはあっ、はあっ、はあっ、はあっ。
部屋の中には押し殺せなかった荒い息と、くちくちと濡れた音。
窓の外は風が強く、雨戸がガタピシ鳴っている。
我慢できなかった。
同じ屋根の下にイコがいると思うだけで、眠るイコと同じ空気を吸っていると考えるだけで、張り詰めた自分自身から透明な雫が次から次へと溢れる。指先で雫をすくい、つるりとした先に塗りたくって親指を滑らせれば、体がより強い刺激を欲しがって燃え立つ。
「っ、う、う」
うちにイコが泊まっているのだ、こんな事をしていてはいけない。そう思えば思うほど気持ちよくてたまらなくて、勝手に右手が動く。
古い家、部屋を隔てるのは薄い襖。プライバシーなんてカケラも保てない部屋で自分を慰められるのは、こういう荒れた天気の日だけだ。
みんな寝ているだろう深夜。静かに燃える石油ストーブの横で背中を丸め、ひたすら快楽に没頭する。
脳裏によぎるのはイコの唇。眠るイコの、かすかに開いた小さな口。勧めたものをウサギのようにもにゅもにゅ食べていた可愛い口。
吸いつけばどれほど柔らかいだろう。きっと舌も小さいはずだ。くちづけて舌を絡め、イコを思うさま味わえたなら、ああ、どんなに幸せか。
イコが姉さんから借りた大きすぎるセーターからは、生足がのぞいていた。歩けば白く折れそうな足首と小さなかかとが見え、本当に動くのかと思うほどにささやかで可愛らしいつま先に息をのんだ。
愛おしい。指の1本1本に吸いついたなら、どんな顔をするのだろう。
その足のなめらかな肌は、食事中何度かコタツの中で俺の足に当たった。ジャージ越しに滑っていく悩ましい感触に体が反応しかけ、必死にイコへ食事をよそうことに集中して乗り切ったが、誰にも気付かれなかったろうか。
「く、ふ、うっ、うっ」
手が。止まらない。止めたくない。気持ちいい。情けない声が漏れる。
イコのあの足に唇を滑らせたい。足首から上へと舐めあげ、内ももにキスの雨を降らせて。そうしてその奥、きっと誰も知らない場所を指と舌でぐずぐずに蕩かして、可愛い声で甘く甘くなかせたい。
(イコが、欲しい)
あの細い体に、俺のこれが入るだろうか。ぴったりと閉じた部分を押し広げ沈めていく感覚はどんなだろう。熱く、きつく、狭いはずのイコの中。
ああイコ、大事な大事な、俺のお姫様。
お前を俺のものにしたい。俺だけのものにしたい。誰にも見せずに触れさせずに、しまい込んでしまいたい。
好きだ。
イコじゃなきゃ嫌だ、他じゃ嫌だ誰もいらない、ただひとりイコだけに触れたい。
俺じゃなきゃ嫌だ、他の誰にも譲りたくない、ただひとり俺だけを見て欲しい。
(イコ、イコ、可愛い、俺の、俺の――――)
こと。ほと、ほと。
窓じゃなく襖が音を立てた。隙間風かといぶかしむ耳に。
「岩並君、起きてる?」
イコの声。
全身が一気に凍る。
困ったらいつでも声をかけろ、寝ていても構わない、そうイコに伝えていた。何があった。
「すぐ、行く」
うわずった声で応えながら汚れた手やそこを急いで拭く。下着ごとパジャマの下を着なおし、ウエットティッシュで右手をさらに拭きながら、悪あがきと自覚しつつ窓を少し開ける。すぐににおいが消えるわけないことぐらいわかっているが、何かせずにはいられない。
あれやこれやを捨てたゴミ箱をできるだけ離して壁へ寄せながら、足早に襖に近寄る。
「どうした」
「ごめんね岩並君、起こしたかな?」
「いや、起きてた」
廊下で、パジャマ姿のイコが懐中電灯を手にこちらを見上げた。パジャマの上にはカーディガン1枚。闇の中でもほの白い肌、足は裸足だ。
ばあちゃんが米ぬかで丹精込めて磨き上げた木の廊下は、闇の中でも黒光りして美しいが、冬は氷のように冷たい。
そんな所に、素足のままでいるなんて。
「薄着すぎるだろう!」
慌てて部屋へ引っ張り込み石油ストーブの前へ立たせる。部屋のにおいや俺の体面より、イコの健康の方が大事だ。
「すぐ済むと思ったんだよ」
ぼやくイコへ、着ていたフリースを脱いでかぶせてやる。中がボアのスリッパを引っ張りだして履かせながら、どうしたのかと問いかけると。
「トイレに行きたくて起きたの。でもトイレ、紙がなくなってて、予備の場所は見つけたけど届かないんだ。ごめんね、手伝ってくれる?」
「あの女……ッ!」
姉さんだ、姉さんの『私じゃなくても誰かがやるだろう病』だ。他の人間は絶対放置しない。
来客が泊まっているのに何してるんだ、このせいでイコが熱でも出したら絶対に許さない。
「い、岩並君?」
「悪い。すぐ出す」
「ありがとう」
トイレまで連れ立って歩く。俺のスリッパはイコには大きすぎるが裸足よりはましだろう、ぺたぺた音を立てて歩くイコが可愛い。
以前タイル張りの和式で、冬に遊びに来た仲良が「尻が風邪ひく!」と叫ぶくらいに寒い場所だったトイレは、最近リフォームしてウォシュレットになった。俺は上の棚からトイレットペーパーを引っ張り出し、急いで準備して場所を譲る。
イコは懐中電灯片手に「ありがとう!」と叫んでトイレへ飛び込みドアを閉めた。
可哀想に、寒い中ずいぶん我慢したんだろう。
そう思う俺の耳へ、薄いドア越しに衣ずれの音がしてきた。
(えっ)
次いで、きしり、とイコが腰掛けた気配がして、水の――――。
(止めろ止めろ止めろ! 聞くな! 聞くなッ!!)
耳をふさいでなお、暗い中聴覚が音を探す。止めろ、聞くな、想像するな! イコに顔向けできなくなるだろう! だめだ、だめだ! だめ、だッ!!
ゴッ!!
◇
「いやいや、助かりました岩並君。でもなんかさっき、すごい音したね」
トイレから出て来たイコが首をかしげた。一緒に廊下を歩きはじめながら、俺は痛む額をおさえる。
「いや、柱に頭をぶつけて」
「寝ぼけてた? 気をつけてね」
「ああ。世渡、その上着、返すのは明日でいいから。布団に入るまで着ているといい。客間はもうストーブ消して寒いだろう」
「ありがとう、ごめんね?」
「元はといえばうちの不手際だから、気にするな」
客間の襖の前で立ち止まる。俺の上着を着たイコが、振り返ってこちらを見上げる。
ちっちゃくて可愛い、俺のお姫様。
「夜遅くにごめん、ありがとう岩並君。おやすみなさい」
「おやすみ」
それ以上見ていられなくて、俺はイコに背を向け歩き出した。
その後、部屋でしたことといえば、ひとつしかない。
畜生。
サンタクロース、お願いだ。
プレゼントはいらないから、俺の煩悩をなんとかしてくれ。
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