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80.大神官の後片付け②
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無邪気に尋ねる皇后に、フルードは苦笑した。
「……焔を。狼神様の神器でも良いのですが、この場に残るのは邪神様と焔神様の神威ですから。そこにまた別の狼神様の力を用いて干渉するよりは、焔の方が良いかと」
『いいね、私もそう思う。ね、久しぶりにあのトンデモ神器が見たいなぁ。私の見送りは後でいいから、先に片付けしちゃってくれない?』
「仰せのままに」
首肯したフルードが両手を打ち鳴らして離すと、左右の掌を結ぶように紅蓮の炎が線となって現れた。刹那の後、炎は一際強く輝き、長い大弓となって顕現した。
もしここにアマーリエがいれば、目を剥いていただろう。何故フレイムと全く同じ炎を放つ神器を、大神官が持っているのかと。
弓から爆ぜた火の粉が矢に変じる。フルードは流麗な所作で矢をつがえ、弓を引き絞ると、燃える鏃を斎場に向けた――が、逡巡するように目を眇めて思案し、せっかく召喚した矢を消した。
そのまま弓を持ち直し、指で弦を弾く。鳴弦だ。大気が波紋を描いて揺れ、虚空を彩るように紅蓮の流星が流れる。明々と輝く弓が鳴動し、圧倒的な神威が渦巻いた。
「――天の頂に燃える焔よ。その御稜威を斎火と成し、全てを清め元へと還し給え」
聖なる焔が波紋のように放たれ、蜃気楼のような揺らめきと共に中空を駆け抜ける。浄化の火が場を焼き払い、祓い清め、斎場に留まっていた高位神の力の名残をかき消した。通信霊具からあふれて場に染み込んでいた霊威も、瞬時に消失する。正常化した神器が浮き上がり、元の巨大な数珠の形にまとまると、すぅっと縮んでフルードの前に移動した。
『矢は使わなかったんだね』
鳴弦を止め、縮んだ数珠型の神器を懐にしまったフルードは、皇后の言葉に眉を下げた。
「矢を用いれば攻撃形態になるので、火力が一気に跳ね上がりますから。剣や槍の形状も同様です。攻撃形態でこの神器を用いれば、凄まじい威力になります。少しでも加減を誤れば、冗談抜きで森羅万象を焼き尽くし、世界どころか宇宙次元の全てを灰にするでしょう」
神威は形がない力だ。ゆえにこの炎の神器も、所持者の望むままに千変万化して形状を変える。ただ、何も指示を出さない場合の基本形は弓矢である。
『これは焔神の護り――フルード君専用の絶対守護神器だから。もんのすごい火力だよね。焔神って超絶過保護だと思う』
「実を言えば、理性を飛ばして荒れた神が相手の神鎮めの時は、いつも冷や冷やしているのです。神に対してこの神器が反応し、動き出してしまわないかと。ご存知の通り一般的な神器ではありませんから。自律して考えるわ喋るわ動くわ……。まあ、それを上手く抑えて使いこなすのも私の腕の見せどころなのですが」
いかにも困っているような言葉とは裏腹に、フルードの表情は明るい。小さな子どもが親からもらったおもちゃを自慢しているかのようだ。
ラミルファの神威に斎場が制圧され、聖威と神器が使えなかった時も、フルードが本当に危機的状況になれば、この神器は自発的かつ強制的に起動して彼を守っていた。全ての面で異次元の神器なのだ。
『ふふ……そうだね。にしてもやっぱり凄い。残り香だったとはいえ、邪神の神威も簡単に一掃しちゃった。このぶっ飛び神器、フルード君を守るためなら何だってするよ』
フルードの手の中で燦然と輝く神弓を見つめ、皇后の漆黒の双眸が細まる。
『さすがは焔神が全霊を注ぎ込んだ最高傑作。火神から〝もう一柱の焔火神〟の銘を与えられた特別品……。完全に規格外だよ。選ばれし神の渾身の作だから当然だけど』
「仮にアマーリエが焔神様を勧請しておらず、あなた方も間に合わなければ……私は邪神様を泣き落としで説得するか、もしくはこの神器を一時的に焔神様にお返しするつもりでいました。創世神ご自身ならば、神格を抑えていても使いこなせるはず。そうすれば神器の力で事態を打開できると考えていました」
『その方法も有りだったね。だけど、あの時は邪神の神威に場が征服されてたから神器を召喚できなかったよね?」
差し挟まれた疑問に、フルードは何でもない顔で答えた。
「私が自分で自分を傷付ければ、この神器は強制起動します。私にダメージが入る前に守るか、あるいはダメージが入った後でもすぐに治癒していたでしょう」
「……焔を。狼神様の神器でも良いのですが、この場に残るのは邪神様と焔神様の神威ですから。そこにまた別の狼神様の力を用いて干渉するよりは、焔の方が良いかと」
『いいね、私もそう思う。ね、久しぶりにあのトンデモ神器が見たいなぁ。私の見送りは後でいいから、先に片付けしちゃってくれない?』
「仰せのままに」
首肯したフルードが両手を打ち鳴らして離すと、左右の掌を結ぶように紅蓮の炎が線となって現れた。刹那の後、炎は一際強く輝き、長い大弓となって顕現した。
もしここにアマーリエがいれば、目を剥いていただろう。何故フレイムと全く同じ炎を放つ神器を、大神官が持っているのかと。
弓から爆ぜた火の粉が矢に変じる。フルードは流麗な所作で矢をつがえ、弓を引き絞ると、燃える鏃を斎場に向けた――が、逡巡するように目を眇めて思案し、せっかく召喚した矢を消した。
そのまま弓を持ち直し、指で弦を弾く。鳴弦だ。大気が波紋を描いて揺れ、虚空を彩るように紅蓮の流星が流れる。明々と輝く弓が鳴動し、圧倒的な神威が渦巻いた。
「――天の頂に燃える焔よ。その御稜威を斎火と成し、全てを清め元へと還し給え」
聖なる焔が波紋のように放たれ、蜃気楼のような揺らめきと共に中空を駆け抜ける。浄化の火が場を焼き払い、祓い清め、斎場に留まっていた高位神の力の名残をかき消した。通信霊具からあふれて場に染み込んでいた霊威も、瞬時に消失する。正常化した神器が浮き上がり、元の巨大な数珠の形にまとまると、すぅっと縮んでフルードの前に移動した。
『矢は使わなかったんだね』
鳴弦を止め、縮んだ数珠型の神器を懐にしまったフルードは、皇后の言葉に眉を下げた。
「矢を用いれば攻撃形態になるので、火力が一気に跳ね上がりますから。剣や槍の形状も同様です。攻撃形態でこの神器を用いれば、凄まじい威力になります。少しでも加減を誤れば、冗談抜きで森羅万象を焼き尽くし、世界どころか宇宙次元の全てを灰にするでしょう」
神威は形がない力だ。ゆえにこの炎の神器も、所持者の望むままに千変万化して形状を変える。ただ、何も指示を出さない場合の基本形は弓矢である。
『これは焔神の護り――フルード君専用の絶対守護神器だから。もんのすごい火力だよね。焔神って超絶過保護だと思う』
「実を言えば、理性を飛ばして荒れた神が相手の神鎮めの時は、いつも冷や冷やしているのです。神に対してこの神器が反応し、動き出してしまわないかと。ご存知の通り一般的な神器ではありませんから。自律して考えるわ喋るわ動くわ……。まあ、それを上手く抑えて使いこなすのも私の腕の見せどころなのですが」
いかにも困っているような言葉とは裏腹に、フルードの表情は明るい。小さな子どもが親からもらったおもちゃを自慢しているかのようだ。
ラミルファの神威に斎場が制圧され、聖威と神器が使えなかった時も、フルードが本当に危機的状況になれば、この神器は自発的かつ強制的に起動して彼を守っていた。全ての面で異次元の神器なのだ。
『ふふ……そうだね。にしてもやっぱり凄い。残り香だったとはいえ、邪神の神威も簡単に一掃しちゃった。このぶっ飛び神器、フルード君を守るためなら何だってするよ』
フルードの手の中で燦然と輝く神弓を見つめ、皇后の漆黒の双眸が細まる。
『さすがは焔神が全霊を注ぎ込んだ最高傑作。火神から〝もう一柱の焔火神〟の銘を与えられた特別品……。完全に規格外だよ。選ばれし神の渾身の作だから当然だけど』
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『その方法も有りだったね。だけど、あの時は邪神の神威に場が征服されてたから神器を召喚できなかったよね?」
差し挟まれた疑問に、フルードは何でもない顔で答えた。
「私が自分で自分を傷付ければ、この神器は強制起動します。私にダメージが入る前に守るか、あるいはダメージが入った後でもすぐに治癒していたでしょう」
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