上 下
63 / 103

63.ぶつかる焔と邪②

しおりを挟む
 唐突な言葉にギョッとしたアマーリエだが、曲がりなりにも聖威を使えるようになったことで分かる。今、天の向こうで何柱かの神々が動こうとした。
 聖威を集中させて意識を凝らすと、炎の気配を纏う神々が天界から身を乗り出してこちらを注視している。フレイムがラミルファを見据えたまま言葉を継いだ。

『従神まで参加したら、本気で神同士のいさかいになる。こっちのことは放っとけ、俺とラミルファが二人で騒いでるだけなら、私的なじゃれ合いで済むからな!』

 その言葉で、どうやらあの神々はフレイムの従神らしいと悟る。ラミルファの従神が動きそうなので、自分たちもフレイムを助太刀に来ようとしたのだろう。

『その通りだ。天を巻き込むつもりはない。お前たちは退がれ』

 頷いたラミルファが言う。悪神の従神たちは顔を見合わせ、素直に後ろに退いた。
 アマーリエは慄然とした。二神にとっては、この程度は少し騒いでいるだけのじゃれ合い……でしかないのだ。今は互いに対してのみ放っている力を少し外に向ければ、地上全体がたちまち灰と化してしまうほどの威力だというのに。

『しかし、我が主フレイム様!』

 天から見ている神々の一柱が声を落として来た。

『私も久々に暴れとうございますぞ。邪神様の眷属神ならば相手十分、腕が鳴るというもの! まぁ私が得意なのは脚技あしわざなんですがな!』
『腕も脚も鳴らさんでいい! とにかく来んな!』

 すげなく断るフレイムだが、彼の従神たちはめげない。

『ですが、我らが主の愛し子にも挨拶いたしたく!』
『うぃっす、ぜひ親睦を深めたいっす!』
『フレイム様の宝は私どもの宝!』
『お願いします、紹介して下さい!』

 半眼で聞いていたフレイムがやれやれと呟くと、一転して嬉しそうな笑顔になった。

『そんなに俺のユフィーに会いたいのか。そんならしょうがねえな~! よし、来い!』
「待って待って待って」

 アマーリエは全力でツッコむ。

「それはまずいわフレイム。私との挨拶目的だとしても、今来たら絶対ラミルファ様の従神方と乱闘になるわよ!」
『あー、まぁそうかもな。おいお前ら、やっぱ後にしとけ!』
『『えぇ~!?』』
『えぇ~じゃねえ! またちゃんと紹介してやるから』

 ぶーぶー異論を唱える従神たちに、アマーリエも訴えた。

『あの、また後日ご挨拶いたします! 落ち着いてゆっくりお話しできる時にしたいのです!』

 それを聞いた従神たちが残念そうに引き下がる。

『そうか、本人が言うなら仕方ない』
『残念、また今度っすねー』
『楽しみは後に取っておくか』
(よ、良かったわ……あら?)

 ホッとしたアマーリエがふとラミルファを見ると、彼は興醒めしたように黒い剣を下ろしていた。

『何だ、もう終わりか?』

 フレイムも得物を一回転させて構えを解く。剣筋に沿って舞い散る火の粉が美しい。

『……お前たちのやり取りを聞いていたら馬鹿馬鹿しくなって来た』

 はぁ~ぁと溜め息を吐き、ラミルファはポイと剣を投げ捨てる。虚空を舞った黒剣はスゥッと大気に溶け、地面に落ちる前に消えた。それを確認したフレイムの手からも、炎の剣が煙と化して消失した。
 二神が放っていた甚大な闘気がふっと凪ぎ、平穏な空気が戻って来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊の加護を持つ聖女。偽聖女によって追放されたので、趣味のアクセサリー作りにハマっていたら、いつの間にか世界を救って愛されまくっていた

向原 行人
恋愛
精霊の加護を受け、普通の人には見る事も感じる事も出来ない精霊と、会話が出来る少女リディア。 聖女として各地の精霊石に精霊の力を込め、国を災いから守っているのに、突然第四王女によって追放されてしまう。 暫くは精霊の力も残っているけれど、時間が経って精霊石から力が無くなれば魔物が出て来るし、魔導具も動かなくなるけど……本当に大丈夫!? 一先ず、この国に居るとマズそうだから、元聖女っていうのは隠して、別の国で趣味を活かして生活していこうかな。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました

向原 行人
ファンタジー
 僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。  実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。  そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。  なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!  そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。  だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。  どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。  一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!  僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!  それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?  待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】すっぽんじゃなくて太陽の女神です

土広真丘
ファンタジー
三千年の歴史を誇る神千皇国の皇帝家に生まれた日香。 皇帝家は神の末裔であり、一部の者は先祖返りを起こして神の力に目覚める。 月の女神として覚醒した双子の姉・月香と比較され、未覚醒の日香は無能のすっぽんと揶揄されている。 しかし実は、日香は初代皇帝以来の三千年振りとなる太陽の女神だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

秘密の多い令嬢は幸せになりたい

完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。 完結が確定しています。全105話。

婚約破棄された竜好き令嬢は黒竜様に溺愛される。残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ

水無瀬
ファンタジー
竜が好きで、三度のご飯より竜研究に没頭していた侯爵令嬢の私は、婚約者の王太子から婚約破棄を突きつけられる。 それだけでなく、この国をずっと守護してきた黒竜様を捨てると言うの。 黒竜様のことをずっと研究してきた私も、見せしめとして処刑されてしまうらしいです。 叶うなら、死ぬ前に一度でいいから黒竜様に会ってみたかったな。 ですが、私は知らなかった。 黒竜様はずっと私のそばで、私を見守ってくれていたのだ。 残念ですが、守護竜を捨てたこの国は滅亡するようですよ?

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

処理中です...