39 / 103
39.神の正体②
しおりを挟む
フレイムがカッと目を見開いた。
「――ってお前かよ俺を狙撃しやがったのは! マジでふざけんなよ!?」
『僕の生き餌がいる邸の方角に向かって降りて行くから、つい不安になってしまったのだよ』
「そんなもんただの偶然だよ! てかこんな自己中で身勝手な女なんか興味ねえよ、頼まれたって選ばねえわ!」
「「ちょ、ちょっと待って!」」
奇しくも、アマーリエとミリエーナの声がピッタリと重なった。今まで一度もなかった姉妹らしい現象に驚きつつ、アマーリエはフレイムを見上げる。
「ねえ説明して、一体どういうことなの?」
ミリエーナも少年神に向かって聞いた。
「ねえルファ様、この人は何を言ってるの? えっと……何だったかしら……ラミルファ? 違うわよね、あなたはルファリオン様でしょう?」
(ラミルファ……私も聞いたことがないわ)
アマーリエはこっそりと斎場に視線を走らせた。多くの者が困惑顔で疑問符を飛ばしていたが、何名かの高位神官は妙に強張った面持ちで逃げ腰になっている。もしやラミルファという御名を持つ神を知っているのだろうか。
答えたのは壮年の神だった。
『うむ。我が主は間違いなく運命神ルファリオン様であらせられる』
それにホッとした表情を見せたミリエーナに、フレイムが告げた。
「おい、バカ妹」
「は……誰がバカですって!?」
「ああすまん、いつもの呼び方で言っちまった」
「いつもの呼び方!?」
「細かいことは気にすんな。で、だ。そのオッサンじゃなく、ルファ本人に答えてもらってみろよ。あなたは運命神ルファリオン様ですかって、ルファ自身に聞くんだ」
「え……」
ミリエーナが瞬きし、アマーリエは思わず割り込んだ。
「あの従神が偽りを言っているということ? 昨日はご自身の神性に誓って、主神は運命の神ルファリオン様だと断言なさったのよ。神は偽りを述べることもあるけれど、自らの神性に誓ったことに関しては正しい内容を仰るはずよね」
「ああ、普通の神ならな」
「普通……?」
少年神と壮年の神が笑っている。周囲の従神たちもだ。
楽しそうに、愉しそうに、ニヤニヤと嘲笑って――嗤っている。
それは、どこか不気味な光景だった。
反射的に足を引いたアマーリエに、山吹色の双眸が向けられる。
「このオッサン神はな、嘘の神なんだよ」
「「うそ?」」
再び、アマーリエとミリエーナの声が二重奏を奏でた。首肯したフレイムが続ける。
「そうだ。だからこのオッサンに関しては、自身の神性に誓った時も偽りを言う。嘘こそがこいつの神性なんだからな。――嘘を司る偽言の神にして悪神の一柱。誤ったことしか言わない神。それがこいつの正体だ」
「偽言……悪神!?」
アマーリエは声を上ずらせた。
邪神や鬼神、疫神などを総称し、悪神という。悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神である。その性格と気質は、非常に冷酷残忍かつ残虐非道。
れっきとした神の一種であり、天に住む高貴にして超越的な存在であるが、その性質から神官の中では畏怖の対象となっていた。話題に取り上げられることが少ない分、一般的な神に比べると個々の御名も知られていない。
そして、悪神にとっての神使や聖威師は、主神の永久玩具として久遠に嬲られ続ける生き餌に等しい。
通常の神が相手であれば、神使に選ばれることは比類なき誉れであり、愛し子として見初められることは至上の幸福である。
しかし、悪神相手となれば事情がまるで違ってくる。悪神の神使や愛し子になるくらいならば、最下層の地獄に永久投獄となった方が遥かにマシであるほどの凄惨な扱いを受けるのだ。
アマーリエは生唾を飲み込んだ。この場でフレイムが嘘を言う理由はない。ならば、悪神が我が主と仰ぐあの少年神は――。
「じゃあ……じゃあ、あのルファという神は?」
「邪神ラミルファ。悪神の長、禍神の末御子だ」
「――ってお前かよ俺を狙撃しやがったのは! マジでふざけんなよ!?」
『僕の生き餌がいる邸の方角に向かって降りて行くから、つい不安になってしまったのだよ』
「そんなもんただの偶然だよ! てかこんな自己中で身勝手な女なんか興味ねえよ、頼まれたって選ばねえわ!」
「「ちょ、ちょっと待って!」」
奇しくも、アマーリエとミリエーナの声がピッタリと重なった。今まで一度もなかった姉妹らしい現象に驚きつつ、アマーリエはフレイムを見上げる。
「ねえ説明して、一体どういうことなの?」
ミリエーナも少年神に向かって聞いた。
「ねえルファ様、この人は何を言ってるの? えっと……何だったかしら……ラミルファ? 違うわよね、あなたはルファリオン様でしょう?」
(ラミルファ……私も聞いたことがないわ)
アマーリエはこっそりと斎場に視線を走らせた。多くの者が困惑顔で疑問符を飛ばしていたが、何名かの高位神官は妙に強張った面持ちで逃げ腰になっている。もしやラミルファという御名を持つ神を知っているのだろうか。
答えたのは壮年の神だった。
『うむ。我が主は間違いなく運命神ルファリオン様であらせられる』
それにホッとした表情を見せたミリエーナに、フレイムが告げた。
「おい、バカ妹」
「は……誰がバカですって!?」
「ああすまん、いつもの呼び方で言っちまった」
「いつもの呼び方!?」
「細かいことは気にすんな。で、だ。そのオッサンじゃなく、ルファ本人に答えてもらってみろよ。あなたは運命神ルファリオン様ですかって、ルファ自身に聞くんだ」
「え……」
ミリエーナが瞬きし、アマーリエは思わず割り込んだ。
「あの従神が偽りを言っているということ? 昨日はご自身の神性に誓って、主神は運命の神ルファリオン様だと断言なさったのよ。神は偽りを述べることもあるけれど、自らの神性に誓ったことに関しては正しい内容を仰るはずよね」
「ああ、普通の神ならな」
「普通……?」
少年神と壮年の神が笑っている。周囲の従神たちもだ。
楽しそうに、愉しそうに、ニヤニヤと嘲笑って――嗤っている。
それは、どこか不気味な光景だった。
反射的に足を引いたアマーリエに、山吹色の双眸が向けられる。
「このオッサン神はな、嘘の神なんだよ」
「「うそ?」」
再び、アマーリエとミリエーナの声が二重奏を奏でた。首肯したフレイムが続ける。
「そうだ。だからこのオッサンに関しては、自身の神性に誓った時も偽りを言う。嘘こそがこいつの神性なんだからな。――嘘を司る偽言の神にして悪神の一柱。誤ったことしか言わない神。それがこいつの正体だ」
「偽言……悪神!?」
アマーリエは声を上ずらせた。
邪神や鬼神、疫神などを総称し、悪神という。悪しきものを司り、不幸と災厄をもたらす凶神である。その性格と気質は、非常に冷酷残忍かつ残虐非道。
れっきとした神の一種であり、天に住む高貴にして超越的な存在であるが、その性質から神官の中では畏怖の対象となっていた。話題に取り上げられることが少ない分、一般的な神に比べると個々の御名も知られていない。
そして、悪神にとっての神使や聖威師は、主神の永久玩具として久遠に嬲られ続ける生き餌に等しい。
通常の神が相手であれば、神使に選ばれることは比類なき誉れであり、愛し子として見初められることは至上の幸福である。
しかし、悪神相手となれば事情がまるで違ってくる。悪神の神使や愛し子になるくらいならば、最下層の地獄に永久投獄となった方が遥かにマシであるほどの凄惨な扱いを受けるのだ。
アマーリエは生唾を飲み込んだ。この場でフレイムが嘘を言う理由はない。ならば、悪神が我が主と仰ぐあの少年神は――。
「じゃあ……じゃあ、あのルファという神は?」
「邪神ラミルファ。悪神の長、禍神の末御子だ」
6
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
七人の兄たちは末っ子妹を愛してやまない
猪本夜
ファンタジー
2024/2/29……3巻刊行記念 番外編SS更新しました
2023/4/26……2巻刊行記念 番外編SS更新しました
※1巻 & 2巻 & 3巻 販売中です!
殺されたら、前世の記憶を持ったまま末っ子公爵令嬢の赤ちゃんに異世界転生したミリディアナ(愛称ミリィ)は、兄たちの末っ子妹への溺愛が止まらず、すくすく成長していく。
前世で殺された悪夢を見ているうちに、現世でも命が狙われていることに気づいてしまう。
ミリィを狙う相手はどこにいるのか。現世では死を回避できるのか。
兄が増えたり、誘拐されたり、両親に愛されたり、恋愛したり、ストーカーしたり、学園に通ったり、求婚されたり、兄の恋愛に絡んだりしつつ、多種多様な兄たちに甘えながら大人になっていくお話。
幼少期から惚れっぽく恋愛に積極的で人とはズレた恋愛観を持つミリィに兄たちは動揺し、知らぬうちに恋心の相手を兄たちに潰されているのも気づかず今日もミリィはのほほんと兄に甘えるのだ。
今では当たり前のものがない時代、前世の知識を駆使し兄に頼んでいろんなものを開発中。
甘えたいブラコン妹と甘やかしたいシスコン兄たちの日常。
基本はミリィ(主人公)視点、主人公以外の視点は記載しております。
【完結:211話は本編の最終話、続編は9話が最終話、番外編は3話が最終話です。最後までお読みいただき、ありがとうございました!】
※書籍化に伴い、現在本編と続編は全て取り下げとなっておりますので、ご了承くださいませ。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
向原 行人
ファンタジー
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話。
追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
異世界転生した時に心を失くした私は貧民生まれです
ぐるぐる
ファンタジー
前世日本人の私は剣と魔法の世界に転生した。
転生した時に感情を欠落したのか、生まれた時から心が全く動かない。
前世の記憶を頼りに善悪等を判断。
貧民街の狭くて汚くて臭い家……家とはいえないほったて小屋に、生まれた時から住んでいる。
2人の兄と、私と、弟と母。
母親はいつも心ここにあらず、父親は所在不明。
ある日母親が死んで父親のへそくりを発見したことで、兄弟4人引っ越しを決意する。
前世の記憶と知識、魔法を駆使して少しずつでも確実にお金を貯めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる