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94.大好き②

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「あいつストレス溜まってんだろうな」

 十分に離れた所まで来ると、フレイムが呟く。

「そう? 他の神官たちは皆、大神官は最近生き生きしてると言っているわよ。前よりお元気になられたみたいだって。確かに、初めてお会いした時より、何となくお体の力が抜けたように見えるわ」
「……そうか」

 一拍置いて相槌を打ち、応接室がある方を見遣ったフレイムは、とても柔らかな顔をしていた。

(やっぱり、フレイムが大神官に何かしたのかしら)

 フルードが実はフレイムの教え子であると聞かされた時は驚いた。アマーリエの邸に来た日、彼はフレイムと随分長く話し込んでいたようだ。

『大神官として色々なものを背負い込んでるようだったし、寿命も迫ってたからな。もう重責は捨てて天に還るよう言ったんだが……断固拒否された』

 フレイムはそう言って苦笑していた。

『そんでまぁ、説得しようとしたんだが、反論するわ抵抗するわ泣くわついには癇癪かんしゃく起こして暴れるわで、駄々っ子の相手は大変だったぜ。俺の方が強いから力ずくで強行突破することもできたが、それも想定されてて最後は自分自身を丸ごと人質に取った渾身こんしんの泣き落としで言いくるめられちまってな』

 昇天を無理強いされるならいっそこの足で神罰牢に駆け込む、と言って自身の首にナイフの刃先を突き付けたらしい。入牢できないよう拘束されたとしても、手足が折れようが魂が砕けようがどれだけ時間がかかろうが抜け出して、必ず入ってやると宣言したという。

 ここまで言えばフレイムは絶対に妥協してくれる、自分の側に付いてくれると心の底から信じているからできる荒業あらわざだ。両者の間に確固たる絆が無ければ、『勝手に入れ』と返されて自爆する。
 事実、仰天したフレイムはやめてくれと必死で宥め、一も二もなく譲歩したという。

『全く、どこであんなやり方覚えやがったんだか。俺は教えてねえぞ、あんな捨て身の特攻方法』

 口をへの字に曲げたフレイムだが、その眼差しはどこまでも優しい。なお、同時刻、紅日皇后と黇死皇がそろってクシャミをしていた。

『しょうがねえから、強制昇天はもう少し保留にしてやることにした。今後はあいつのことも見といてやる。んで、マジで限界だと思ったらその時は即座に昇天させる。また神罰牢に行くって騒いでも、今度は譲らねえ』

 それはフルード本人にも言い諭してあるのだという。フルード自身もこれ以上の駄々をこねるつもりは無いようで、大人しく頷いたらしい。今回見逃してくれるならそれだけで十分ですと。

『神罰牢の入口を全部封鎖するとか、あいつの思考や記憶の一部を一時的に封印するとか、こっちにだって取れる方法はあるんだからな。まぁ、今回に関しては折れてやるが……最高神からも、現状は保留でいいが引き続き注意して様子を見ておくよう指示が出た」

 と、可愛い弟を心底想う顔でフルードのことを話していた。二人は師弟でありながら兄弟でもあるそうだ。彼らがどのような経緯で師弟兼兄弟になったのかはまだ聞けていないが、きっとこれから話してもらえるだろう。
 なにせ、時間はたくさんあるのだから。
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