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第1章
25.天威師
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天威師。神の寵児の中でも特殊な存在である、至高神の加護と寵を賜った存在。自らも至高の神位を持ち、地水火風の四大高位神すら超越する日神、月神、闇神、死神のいずれかの神格を有している。
「天威師は生まれながらの至高神。至高神は神にしか情を抱かない。属国でも習う常識でしょう」
皇帝の一族にしか誕生しない天威師は、元から自身の中に神格を持っている。聖威師の場合、人間として生まれた者が神の寵を受け、神格を与えられることで後天的に神となる。しかし、天威師は最初から至高の神として顕現する。
何故ならば、兄妹であり夫婦でもあった帝国と皇国の初代皇帝が、実は天から降臨した至高神であり、皇帝家はその末裔に当たるためだ。
皇帝家に生まれた一部の者は、先祖返りを起こし至高の神として誕生する。それが天威師と呼ばれる存在なのだ。
「当代の皇帝方だって、いつまで地上にいて下さるか分からないわ」
天威師たちは、顕現してからしばらくは地上に留まり、人の世において皇帝として即位する。若い天威師であれば、次期皇帝として太子の地位に即いている。その間は、聖威師と同様に神格を抑制し、人間に擬態した状態になっているとされる。
在位中は、人間が神々を怒らせ大被害が発生しそうな時の神鎮めを中心に、神が関連する領域に対して調整を行なってくれる。
だが、一定期間が過ぎると、皇帝の地位を太子に譲り、抑えていた神性を解放して至高神に戻り、本来の居場所である天界の上に還る。
その後は、天に座す至高神の一柱となり、地上の天威師たち一一すなわち己の末裔たちを祖神として加護するようになる。
なお、いつまで皇帝及び太子でいるかは天威師たちの一存に委ねられている。何十年も在位して地上に留まる者もいれば、ごく短期間であっさりと神に戻り天に還ってしまう者もいる。
そのような存在であるため、皇帝や太子と称される地位に即いてはいても、実際に天威師たちが政治や国営を行なっているわけではない。
天威師たちとは別に、人間の世界の政や国の運営を行う人間の王と大臣たちがきちんといる。
「天威師に目をかけていただける可能性がある人間は、王族だけよ。王族は天威師と同じ一族だから」
人間の王である人王は、皇帝家に生を受けた者のうち、先祖返りを起こさず人間として生まれた者から選ばれる。王にならず、かつ先祖返りを起こさなかった者は王族となり、王を補佐して国を統治する。
人間の世は人間が回す。神は原則関わらない。これが基本だ。
皇帝一族――天威師はあくまで、神が関与することに対して動く超越的な存在である。人間同士の問題や神が関わっていない事柄に介入することは原則なく、王族以外の者に個別に関心を向けることもない。
仮に特定の人間や神関連ではない事案に介入しようとすれば、ルール違反として天の祖神から警告を受ける場合もあると聞く。
「お前は本当に夢がない女だな」
シュードンが舌打ちする。
「もしかしたらとか考えないのかよ」
「夢を見られるような環境で育ちませんでしたから」
言い返した時、黙々と仕上げに励んでいたミリエーナが歓声を上げた。
「できたわ!」
アマーリエとシュードンは、口論をやめて顔を向けた。ミリエーナが高々と掲げたネックレスは、見事なまでに均等に揃えられた霊威の結晶が、美しく連なったものだった。
「やったな、レフィー!」
「ええ、綺麗だわ」
シュードンが破顔し、アマーリエも素直に賛辞を送る。
「鏡を見る?」
ネックレスをつけたミリエーナに、鏡が付いたコンパクトを差し出すと、ひったくるようにして受け取られた。礼の一つも言われないことには慣れっこなので、今更腹も立たない。
「まあまあ良いじゃない。急ごしらえで作ったからどうなるかと思ったけど」
角度を変えながら自分の姿を確認しているミリエーナに、シュードンがガッツポーズをした。
「これで準備は万端だな。俺もバッチリだ!」
言いながら自身の髪を数本引き抜いて宙に投げ、パチンと指を鳴らす。ひらひらと落ちゆく髪が生き物のようにのたうち、数体の形代に変じた。目も口も書かれていない人型の紙のようで、色は赤や青、緑など様々だ。幼児くらいの大きさがある。
「俺の霊威を込めた分身だ。意識と感覚を俺と同調させてる。これを儀式の会場にばら撒いておけば、どこかの神が目を留めて下さるかもしれないだろ」
予想外の手に、アマーリエは思わず舌を巻いた。
(数を打てば当たる作戦ね)
あの霊威の形代は何か、誰のものか、と僅かでも興味を持ってもらえるだけでも突破口になる。自分だけでは数いる神官の中に紛れてしまうかもしれないが、目立つ分身を複数箇所に配置しておけば、確率は上がる。
これは奇想天外な手段ではない。類似の手法として、自身が創り出した使役獣や霊具をあちこちに置き、神の気を引こうとする神官もいると聞く。明らかに儀式の邪魔になるような行為でなければ禁止されていないのだ。
「どうだ、能無しにはこんな形代作れないだろ。お前をもらってくれるのなんて悪神くらいなんじゃねえか。感性最悪で趣味の悪い悪神に、拾って下さい~って泣きついてみたらどうだ。もちろん、俺とレフィーは素晴らしい神に選ばれて――」
勝ち誇った顔をアマーリエに向けたシュードンが口上を垂れた、その時。
茶色の形代にボッと黒い炎が灯り、瞬く間に全体に燃え広がった。
「天威師は生まれながらの至高神。至高神は神にしか情を抱かない。属国でも習う常識でしょう」
皇帝の一族にしか誕生しない天威師は、元から自身の中に神格を持っている。聖威師の場合、人間として生まれた者が神の寵を受け、神格を与えられることで後天的に神となる。しかし、天威師は最初から至高の神として顕現する。
何故ならば、兄妹であり夫婦でもあった帝国と皇国の初代皇帝が、実は天から降臨した至高神であり、皇帝家はその末裔に当たるためだ。
皇帝家に生まれた一部の者は、先祖返りを起こし至高の神として誕生する。それが天威師と呼ばれる存在なのだ。
「当代の皇帝方だって、いつまで地上にいて下さるか分からないわ」
天威師たちは、顕現してからしばらくは地上に留まり、人の世において皇帝として即位する。若い天威師であれば、次期皇帝として太子の地位に即いている。その間は、聖威師と同様に神格を抑制し、人間に擬態した状態になっているとされる。
在位中は、人間が神々を怒らせ大被害が発生しそうな時の神鎮めを中心に、神が関連する領域に対して調整を行なってくれる。
だが、一定期間が過ぎると、皇帝の地位を太子に譲り、抑えていた神性を解放して至高神に戻り、本来の居場所である天界の上に還る。
その後は、天に座す至高神の一柱となり、地上の天威師たち一一すなわち己の末裔たちを祖神として加護するようになる。
なお、いつまで皇帝及び太子でいるかは天威師たちの一存に委ねられている。何十年も在位して地上に留まる者もいれば、ごく短期間であっさりと神に戻り天に還ってしまう者もいる。
そのような存在であるため、皇帝や太子と称される地位に即いてはいても、実際に天威師たちが政治や国営を行なっているわけではない。
天威師たちとは別に、人間の世界の政や国の運営を行う人間の王と大臣たちがきちんといる。
「天威師に目をかけていただける可能性がある人間は、王族だけよ。王族は天威師と同じ一族だから」
人間の王である人王は、皇帝家に生を受けた者のうち、先祖返りを起こさず人間として生まれた者から選ばれる。王にならず、かつ先祖返りを起こさなかった者は王族となり、王を補佐して国を統治する。
人間の世は人間が回す。神は原則関わらない。これが基本だ。
皇帝一族――天威師はあくまで、神が関与することに対して動く超越的な存在である。人間同士の問題や神が関わっていない事柄に介入することは原則なく、王族以外の者に個別に関心を向けることもない。
仮に特定の人間や神関連ではない事案に介入しようとすれば、ルール違反として天の祖神から警告を受ける場合もあると聞く。
「お前は本当に夢がない女だな」
シュードンが舌打ちする。
「もしかしたらとか考えないのかよ」
「夢を見られるような環境で育ちませんでしたから」
言い返した時、黙々と仕上げに励んでいたミリエーナが歓声を上げた。
「できたわ!」
アマーリエとシュードンは、口論をやめて顔を向けた。ミリエーナが高々と掲げたネックレスは、見事なまでに均等に揃えられた霊威の結晶が、美しく連なったものだった。
「やったな、レフィー!」
「ええ、綺麗だわ」
シュードンが破顔し、アマーリエも素直に賛辞を送る。
「鏡を見る?」
ネックレスをつけたミリエーナに、鏡が付いたコンパクトを差し出すと、ひったくるようにして受け取られた。礼の一つも言われないことには慣れっこなので、今更腹も立たない。
「まあまあ良いじゃない。急ごしらえで作ったからどうなるかと思ったけど」
角度を変えながら自分の姿を確認しているミリエーナに、シュードンがガッツポーズをした。
「これで準備は万端だな。俺もバッチリだ!」
言いながら自身の髪を数本引き抜いて宙に投げ、パチンと指を鳴らす。ひらひらと落ちゆく髪が生き物のようにのたうち、数体の形代に変じた。目も口も書かれていない人型の紙のようで、色は赤や青、緑など様々だ。幼児くらいの大きさがある。
「俺の霊威を込めた分身だ。意識と感覚を俺と同調させてる。これを儀式の会場にばら撒いておけば、どこかの神が目を留めて下さるかもしれないだろ」
予想外の手に、アマーリエは思わず舌を巻いた。
(数を打てば当たる作戦ね)
あの霊威の形代は何か、誰のものか、と僅かでも興味を持ってもらえるだけでも突破口になる。自分だけでは数いる神官の中に紛れてしまうかもしれないが、目立つ分身を複数箇所に配置しておけば、確率は上がる。
これは奇想天外な手段ではない。類似の手法として、自身が創り出した使役獣や霊具をあちこちに置き、神の気を引こうとする神官もいると聞く。明らかに儀式の邪魔になるような行為でなければ禁止されていないのだ。
「どうだ、能無しにはこんな形代作れないだろ。お前をもらってくれるのなんて悪神くらいなんじゃねえか。感性最悪で趣味の悪い悪神に、拾って下さい~って泣きついてみたらどうだ。もちろん、俺とレフィーは素晴らしい神に選ばれて――」
勝ち誇った顔をアマーリエに向けたシュードンが口上を垂れた、その時。
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