夜桜の下でまた逢う日まで

馬場 蓮実

文字の大きさ
上 下
12 / 34
第2章 佐野家

書斎

しおりを挟む
 通路の左側は収納スペースのようで、上段と下段の間には小物が沢山置いてある。触った感じ、木彫りの彫刻とか人形とか、あと写真立てみたいなものだろうか。
 五個、六個、なんて数じゃない。十個……いや二十個は優に超えている。この長い廊下に対しても少し雑然としている雰囲気、これは客に見せるための展示品というよりは思い出の品が無造作に置かれている感じだと思う。アルバムなんかがあれば我が家のルーツを知れそうなものだが。

 下段の角が手から離れると、廊下ではない広い空間へと変わった。図面の通りなら、確か左側と前方にドアがあって、左は廊下からリビングへと、前方は例の書斎へと繋がるはず。

「二人ともええか?ここからは離れるなよ」

 少し離れたところからトシの声が聞こえ、すかさずサクラが後ろから反応した。

「待ってトシ、私が先に行くから」

「アホ言え。わいの家でおまんらに何かあったら責任取れん。黙って着いて来い」

「おうおう逞しいこと」

 ガチャッ、というドアノブの回転と共に、蝶番が高々と鳴る。
 その金属の疲弊音ときたら今にも壊れそうなものだけど、それよりも先に驚いたのは、そのドアの先。てっきり真っ暗だと思っていたのに、意外にも薄ら明るい。よく見渡すと、奥の壁を塞いでいる本棚の上から僅かに光が漏れ出ている。

「なんだ明るいじゃん。気張って損した」

「ゆーて、じゃろ。この距離でもアネキのイカつい顔見えんぞ」

「私のビューティフルフェイスが見えないって?かわいそうに」

 見たところ、あの部屋のような崖は無い。四方の壁を埋める大量の本棚と、右奥に机のようなものが一つ。後は特に変わったものは無し。ここはまるで、ウチの爺ちゃんの部屋みたいだ。
 
 ……ん?となると、将来的にはここが爺ちゃんの部屋?

 いやちょっと待て、爺ちゃんは中学生の時点で新居に移っていて、この異世界は更に時が進んでいるから……俺のひいひい爺ちゃんの部屋ってことでいいのか?ひい爺ちゃん……つまりトシのお父さんは一緒に新居に移ってるもんな?

「素朴な疑問なんだけど、この書斎はお祖父さんの部屋?」

「ここはわいの親父が使っとった。昔は爺さんの部屋じゃったらしいがの」

「あー、なるほど?」

 そうか、今は使ってないということであれば辻褄は合うのか……?んー、なんか自分家の事なのに混乱してきたぞ……。

 根本的なところ、ここが俺にとっての過去であることは間違いないとして、じゃあ具体的に何年前になるのか。

 俺が単に過去に来てるだけなら話は早いのに、トシにとっては未来だからタチが悪い。いつなのかが分からないことには不確定なことが多すぎる。まあ、分かったところで今更どうなるって話ではあるかもしれないけど。

「印の位置的にこの机が怪しいわね」

 大きさはよくある学校の教職員デスクと同程度。触った感じ骨組みは鉄で天板やサイドチェストは木製のようだ。

「また机か。まったく芸が無いのう」

「芸があったら困るの私たちでしょうが」

 トシが数段ある引き出しを下から順に開けていき、サクラが中を手で漁る。今回は空っぽという感じではなく、書類や文房具といった物が別の入れ物に収納されているようで、簡単には判別できない。

「あっちとこっちでなんでこんなに物の量が違うのよ」

 周囲の本棚は整然としているのに、机の中がそうじゃないのは若干引っかかる。それにサクラの言う通り、新居の机と違って何というか、生活感?がある。置き勉してる学校のロッカーとでも言えば分かりやすいだろうか。
 となると、やっぱりひい爺ちゃんが引っ越した後で今(と言ってもこの世界での時代)はひいひい爺ちゃんが使っているというのが無難な推理か。普通に考えて新居の部屋とこの部屋は状況が逆じゃないとおかしいからな。

 そうこうしている間に四段あるうちの下三段を終えて、いずれも不発。残りは一段目のみ。何となく楽観視していた俺たちにも、ここまでくると少しの緊張が走りつつあった。ここになければ、割と本格的に『詰み』になる。

「最後、開けるぞ」

 下三段に比べると、段間が狭いここが可能性として一番低い気がする。少なくとも、俺が見つけた時のあの箱は入らない。徳利を横に寝かせてギリってところだ。

「勿体ぶらなくていいから早よ開けな」

「いや、ちょっと待ってくれ……開かねえわ」

「はい?」

 サクラが代わり、取っ手を握って手前に引くも、サイドチェスト全体が揺れるだけで一向に開かない。

「物が引っかかってる感じか?」

「いや、そんなんじゃないわ……もしかして、これ鍵かかってない?」

「それなら鍵穴があるはずだけど」

「……あ、あった普通に」

 前板を指で探ると、右端に丸い金具と細い溝。確かにこれは、鍵付きの引き出しでよく見るタイプのやつだ。暗くて全然気が付かなかった。

「てことは、今度は鍵を探せってこと?」

「おい嘘じゃろ……いっそぶち壊すか!?」

「なにバカ言ってんの?変に衝撃与えてお酒こぼれたらどうすんのよ」

「おぉ確かに……でもよ、これってチャリンコの鍵くらいのサイズじゃろ?この状況で見つけ出すのは相当厳しいぞ?」

「まあ私はもう少しこの家見て回りたかったし、丁度いいかな」

「サクラおまえ、この状況でよくそんな観光気分でいられるな」

 でも、俺はこれで確信した。鍵がかかっているということは、ここにそれ相応の物があるってことだ。間取り図の印も考慮すると、それは間違いない。もしそれが酒ではないにせよ、あの一緒に入ってたノートって可能性もある。

「しゃあねえ、そんじゃあ手分けして探そう。わいはまだ見てないリビングを漁ってみる。おまんらは適当に他当たってくれ」

「じゃあ私は和室でも見ようかな」

「んー……なら俺はその他で」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

放課後はネットで待ち合わせ

星名柚花
青春
【カクヨム×魔法のiらんどコンテスト特別賞受賞作】 高校入学を控えた前日、山科萌はいつものメンバーとオンラインゲームで遊んでいた。 何気なく「明日入学式だ」と言ったことから、ゲーム友達「ルビー」も同じ高校に通うことが判明。 翌日、萌はルビーと出会う。 女性アバターを使っていたルビーの正体は、ゲーム好きな美少年だった。 彼から女子避けのために「彼女のふりをしてほしい」と頼まれた萌。 初めはただのフリだったけれど、だんだん彼のことが気になるようになり…?

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

ヤマネ姫の幸福論

ふくろう
青春
秋の長野行き中央本線、特急あずさの座席に座る一組の男女。 一見、恋人同士に見えるが、これが最初で最後の二人の旅行になるかもしれない。 彼らは霧ヶ峰高原に、「森の妖精」と呼ばれる小動物の棲み家を訪ね、夢のように楽しい二日間を過ごす。 しかし、運命の時は、刻一刻と迫っていた。 主人公達の恋の行方、霧ヶ峰の生き物のお話に添えて、世界中で愛されてきた好編「幸福論」を交え、お読みいただける方に、少しでも清々しく、優しい気持ちになっていただけますよう、精一杯、書いてます! どうぞ、よろしくお願いいたします!

GIVEN〜与えられた者〜

菅田刈乃
青春
囲碁棋士になった女の子が『どこでもドア』を作るまでの話。

彗星と遭う

皆川大輔
青春
【✨青春カテゴリ最高4位✨】 中学野球世界大会で〝世界一〟という称号を手にした。 その時、投手だった空野彗は中学生ながら152キロを記録し、怪物と呼ばれた。 その時、捕手だった武山一星は全試合でマスクを被ってリードを、打っては四番とマルチの才能を発揮し、天才と呼ばれた。 突出した実力を持っていながら世界一という実績をも手に入れた二人は、瞬く間にお茶の間を賑わせる存在となった。 もちろん、新しいスターを常に欲している強豪校がその卵たる二人を放っておく訳もなく。 二人の元には、多数の高校からオファーが届いた――しかし二人が選んだのは、地元埼玉の県立高校、彩星高校だった。 部員数は70名弱だが、その実は三年連続一回戦負けの弱小校一歩手前な崖っぷち中堅高校。 怪物は、ある困難を乗り越えるためにその高校へ。 天才は、ある理由で野球を諦めるためにその高校へ入学した。 各々の別の意思を持って選んだ高校で、本来会うはずのなかった運命が交差する。 衝突もしながら協力もし、共に高校野球の頂へ挑む二人。 圧倒的な実績と衝撃的な結果で、二人は〝彗星バッテリー〟と呼ばれるようになり、高校野球だけではなく野球界を賑わせることとなる。 彗星――怪しげな尾と共に現れるそれは、ある人には願いを叶える吉兆となり、ある人には夢を奪う凶兆となる。 この物語は、そんな彗星と呼ばれた二人の少年と、人を惑わす光と遭ってしまった人達の物語。        ☆ 第一部表紙絵制作者様→紫苑*Shion様《https://pixiv.net/users/43889070》 第二部表紙絵制作者様→和輝こころ様《https://twitter.com/honeybanana1》 第三部表紙絵制作者様→NYAZU様《https://skima.jp/profile?id=156412》 登場人物集です→https://jiechuandazhu.webnode.jp/%e5%bd%97%e6%98%9f%e3%81%a8%e9%81%ad%e3%81%86%e3%80%90%e7%99%bb%e5%a0%b4%e4%ba%ba%e7%89%a9%e3%80%91/

青春リフレクション

羽月咲羅
青春
16歳までしか生きられない――。 命の期限がある一条蒼月は未来も希望もなく、生きることを諦め、死ぬことを受け入れるしかできずにいた。 そんなある日、一人の少女に出会う。 彼女はいつも当たり前のように側にいて、次第に蒼月の心にも変化が現れる。 でも、その出会いは偶然じゃなく、必然だった…!? 胸きゅんありの切ない恋愛作品、の予定です!

処理中です...