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第1章 出会い

トシとサクラ

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「ハッ!」


 ビクッという脚の動きに反射して、俺は上半身を勢い良く起こした。

「「うわっ!」」

 と同時に、両側から驚きの声が飛んできて、その声に今度は反射して俺も「うぉッ!」と声を荒げた。

 頭を左右に素早く振ると、左には灰色タンクトップ黒短パン短髪の男、右には見たことない制服の女子。恐らく二人とも俺と同年代。そうか寝てるところをこの二人に発見されたのか。よかった大人じゃなくて。

 起きて早速、男の方が口を開いた。

「起きたか!大丈夫か!?」

「あ、ああ。大丈夫」
「おまんは何者だ!?名前は!?」

 な、何者?何だその質問は……。真剣な眼差しで問いかけてくるのがまたちょっと、不気味というか何というか。

「何者ってどんな質問の仕方よ」

 すかさず俺の気持ちをまんま代弁してくれたのは、右側の女子。

「言葉の通りじゃ。お前さんも結局何処の誰なんじゃ」

「だから言ったでしょ?私は都会から来たお姉さんだって」

「お姉さんって、おまん歳十五なんじゃろ?同い年じゃねえか」

「え?二人とも、十五?」

「おお!おまんもか!?」

「まあ、一応」

「ばーか。私はね、四月一日生まれだからキミらより一つ上のJKなわけ。お姉さんと呼びな中坊の諸君。あ、というか零時過ぎてたから私もう十六歳だわ!」

 ハッハッハと笑うこの女子は、綺麗な顔立ちの割になんと言うか……色気を感じない。色気、なのか?何か不思議な感覚だ。そして、左の男は見た目と話し方からしてとても同い年とは思えない。しかもこの妙なやり取り、この二人は別に知り合いでもないのか?偶々俺を他人の二人が発見した感じなのか?

「で、おまん名前は?」

「あー、『ハル』って呼んで」

 本当は『春希』だけど、なんというか危機管理みたいなものが働いて咄嗟にあだ名で誤魔化した。

「そうかハルか!わいはぁ……利道じゃけえトシって呼んでくれ!」

「分かった、トシね。……ん?利道!?」

 現代では中々珍しい名前だ。そして、その名前は聞き覚えがある。……爺ちゃんと同じ名前だ。

 何かを察した俺は、慌てて立ち上がり周囲を見渡した。

 ほぼ満開の桜、星の出てない夜空、そして……またしてもマンションが無い。


 これは、現実じゃない——。


 どうやら、これは夢の続きのようだ。『落下』して起きなかったのはこれが初めてだけど、意外にそんなこともあるのか。ということは、この『トシ』という人物は……俺が作り出した爺ちゃんってことか!?

「おいどうした急に!」

「あ、いや、なんでもない……」

 ま、何はともあれ一度冷静になろう。夢なら別に焦る必要はない。よく出来た夢『パート2』だ。

「……そうすると、君は誰なんだ?」

 トシは爺ちゃんだとして、この目の前の女子はどういう設定なのか。もしかして婆ちゃんか?婆ちゃんは早くに亡くなってしまったからほぼ記憶がないけども。

「そうするとって何よ。当ててみな!」

 やっぱり、流石俺の脳内。そういう返答が来るということはつまりそういうことだろう。婆ちゃんの名前は確か——。

「ナツミ?」

「誰よそれ」

「あれ?違うのか」

「覚えときなさい。私はサクラ!」

 桜?……身内には居ないな。てことは完全に俺の空想か。現実で夜桜を眺めていた影響?

「なんか……まんまだな」

「ちょっ、おめーが言うなコラ!お前こそ『春』ってまんまだろうが!」

 素で呟いた言葉が何故かしっかりと伝わってしまい、太腿に鋭いツッコミ(パンチ)をお見舞いされた。うん、やっぱりまだ痛みは伝わる。

「まあまあ二人とも、一旦落ち着け。状況を整理せんといかん」

 いつの間にかブランコを漕ぐ爺ちゃ……じゃなくてトシ。俺の脳が俺に向かって冷静になれと言っていると思うと、なんだか少し笑える。サクラはトシの真似をするようにもう一方のブランコに腰掛けた。

「とりあえず、ここは冥界なのか。わいらは死んだ者同士なのか。まずはそこじゃな」

「ここがあの世?何馬鹿言ってんのよ」

「どう見ても現実じゃなかろう!?ここはわいの知ってる世界じゃない。この公園は知っとるが、周りにこんなに洒落た建物は無いぞ?」

「洒落た建物ねえ……」

 ん?……ん?黙って聞いてりゃ、なんだこのリアリティありすぎる会話は。

「ハル、おまんはどう思う?」

「ど、どうって言われてもなあ……」

 俺の夢だから仕方ない、とか言ったらどうなるんだ?……いや、いやいや待てよ——?


 もう一度、冷静に考えよう。今に至る経緯を。
 
 これが、夢のようで実は夢じゃなかったら?


「一つ訊きたいんだけどさ、ここに来る前のこと覚えてる?」

「いやそれよ!ちょっと曖昧なんじゃ——」
「もしかしてお酒飲んだんじゃない?」

 サクラはさも冷静にそう言い放った。それは、トシを含めて俺の記憶も再び思い起こすに至るキーワードだった。

 そう。夢と分かっていたとしても、必ず現実の記憶がすぐさま戻るわけじゃない。ましてや場面が一度変わっていれば尚更。そうだ、俺は酒を飲んだ。

 トシはブランコから勢いよく飛び降りて、見事に着地した。

「それじゃ!わい酒飲んだわ!」

「トシも?」

「ハルもか!てーことは、サクラおまんもか!?」

「ふー……。どうやら原因はそれのようね」

 ここに居る三人が三人、酒を飲んでいる。と、言うことは……この世界は、俺の脳内で起こっているわけじゃないのか……?やはり前提が間違っていた……?

「おまん、未成年の女のクセに酒飲んだのか?」

「私はこれでも君らより年上ですからね中坊の諸君?」

「なーにが年上か数ヶ月違うだけで」


 トリガーは、酒——。


「え、じゃあさ。俺たち今、冥界でも現実でもない場所に居るってこと?」

「まあそういうことでしょ」

「おまんなんでそんなに冷静なんだ?」

「だから言ってるでしょうが私お姉さんなんだって」

「おうおう頼もしいアネキだこと」

 トシはまだネタのようにそう言い放つものの、割とマジでお姉さんに見えてこなくもない。一学年違うだけなのに……これが中学生と高校生の違いなのか。

「で、どうする?これが夢じゃねえなら余計に厄介だぜ?時間が経っても多分目は覚めないってことだろ?」

「あ、確かに……そうなるのか……?」

「お酒飲んでここに来たんだから、こっちでお酒飲めば戻れるんじゃない?」

「おまんなんでそんなに鋭いんじゃ!?」

「わっかんない奴だなぁ!何回このくだりやるのよ?」

「へいへい流石わいらのアネキですわ」

 確かに……サクラの推理はごもっともだ。三人が三人酒を飲んでここに来たのなら、それは試す価値がある。となると、次の問題は——


「何処に酒があるか、か」
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