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秋沢奪還へ

E棟係長 椿 樹理

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 テーブルで酒瓶を握ったまま、寒くて目を覚ましたら五時だった。麗と慌てて皿を片付けシャワーを浴びて出勤した。

 土井さんにはネットでの情報はストップして貰って、やっぱり他の何かで秋沢をF棟に戻すしかないな。
 課長不在の今、身内から課長になる者がいればいいが、ありえないな。
 私が係長になった時も皆訝しげだったし、山口も派遣から社員にしたばかりだ。他の現場から課長が兼務で……なんてことになったら冬野がしゃしゃり出てくるに決まってる!
 何より温厚で何故か現場の士気が上がる秋沢の魅力はまだまだ必要なのだ。

 車を駐車場に停めて空を見上げる。
 爽やかな瑞々しい春の空。
 植え込みの桜も今年は早く咲きそうだな。
 麗の車は離れたところにある。なるべく干渉し合わないで様子を見る予定だ。

 駐車場からF棟へ歩いていると背の高い細身の女性に声をかけられた。

「あら、琴乃さん…? 御機嫌よう」

「おはよう……ございます……?」

 誰だ……?

 白く長い首に金色の十字架のネックレス。
 エンゼルはスーツ出勤が義務だが、彼女の純白のスーツは仕立てのいい物で、華やかな顔立ちと清楚なメイクにベストマッチしている。
 品のいいお嬢様タイプだ。こんな美女………噂にならない訳ないのに、誰だ?

 彼女はフワリ柔げなヘアカールをなびかせながら、私の顔を覗き込む。

「今日の会議、杉山課長と私が出るの。よろしくね琴乃さん」

 ああ。
 D棟の人か。…………会議室に来れるということは、彼女がそうなのか。
 見た目二十四、五程に見えるが……実際は四十代後半だったはずだ。
 整形してないとしたらモンスター級の美魔女だな。

「E棟の係長の椿 樹理さんですね! よろしくお願いします!」

 確か派遣社員からの叩き上げで、女性ながら実力……特に現場の統率力に優れた人……だったはず。

「ふふっよろしく。D棟で係長してたんだけれど、秋沢くんが来たからE棟に移ったのよ」

 いよいよD棟に秋沢が飲み込まれていく。
 秋沢はどうなんだ? もしや、戻らない方が彼のためなのだろうか?

「異動の件は社内掲示板で見ました。E棟はどんなところですか?」

「とってもいい所よ」

 彼女は反縁故寄りの中立組。

「そうなんですか?」

「ええ。とってもね………琴乃さん……実際に会ってみると素直そうな印象ね。好きよ」

「そっ、そうですかね?」

 なんだ? 何か値踏みされてる気がする……。
 裏がありそう?

「困ってる事があったらなんでも仰って!
 相談にのるわ」

 だが何か意味深だな。

「はぁ……はい。ありがとうございます。では」

 F棟の前まで来て挨拶すると、彼女はそのままD棟方面へ向かって行った。
 そこを後ろから数人の女性社員たちが樹理さんに駆け寄ってくる。
 煌めいた声色がここまで聞こえてくる。
 女子高生の集団の様。
 慕われているようだ。

 どんな人かと思ってたけれど、意外と綺麗すぎる人だったな。
 いや、待て。
 あの美人が男どもの餌食にならない理由はなんだ?

 歳じゃない気がするな。
 相当な美人だ。寧ろ男共が逆に返り討ちにあって言いくるめられてしまうとか……?

 興味があるな。
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