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リベンジ

慎也 連行

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 喫煙室に行くと、秋沢のそばに栗本がいた。

「おはよう。今秋沢さんにブログを教えてたとこで」

 秋沢の手の中にはスマホがあった。
 しばらく液晶をタップしていた秋沢だが、おそらく動画のページまで行ったんだろう。
 突然操作する手が鈍る。

「んー。後でいいよ……ここで観るわけに行かないだろう…」

「いや、でも本当に本人ですよ多分」

 栗本が邪魔だな。まぁ口は堅い奴だが、念には念を。

「それなんだけど、ちょっと秋沢さんに話があるんだ……」

 席を外して欲しい。

「え?あ、いいよ!
 んじゃ俺、もう現場行くわ」

 賢い奴だ。
 こいつはこいつで自分の役割と出方を伺っている。使える、という印象だが…パシリにしたくないというのが本音だ。分かってほしい。
 私の大事な同期だ。

「ごめん栗本!」

「うぃー」

 気を悪くした様子もなく、栗本はスマホを片手にぷらぷらと消えていった。
 栗本は煙草は吸わない。ブログの話をしに来ていたんだろうが……まさか土井の事までは分からないだろう。

「しかし………アレだな。仁恵さんは恵まれないよなぁ」

 秋沢が渋い顔で天井を見上げる。

「なんだかなぁ。運が悪いというか、お祓いでもしたほうがいいんじゃないのかって気までしてきたぞ…」

 憑いているのは怨霊じゃない。
 完全に人だ。
 寺の坊主に用は無い。

「秋沢さん。このブログの主ですが。うちの現場の人間です」

 この地点で秋沢は煙を吐き出しながら、頭を抱えていた。

「………慎也だな?」

「え!?違いますよ」

「ん?なんだ?誰だ?」

 そんなのこちらも聞き返したいところだ。
 何故ここで慎也の名前が出たんだ?

「姫ちゃんの正体は土井さんですよ?」

「土井だとっ!!?」

「秋沢さんこそ………何故ここで慎也が……?」

 秋沢は煙草を揉み消すと周囲を確認してから話し始めた。

「まだ誰にも言うなよ?
 今朝、本人から連絡があって警察に同行したらしい。今日は出勤しない」

 何を言っている?
 何故慎也が連れていかれるんだ?

「あの。慎也が絡んでた動画はうちの現場で撮った物ですよ?
 こんな卑猥なものではなく、喧嘩になった時の動画ですし…もう慎也はその動画を持っていません…」

「あぁ、落ち着け。その動画については佐伯さんから聞いてる。佐伯さんが今警察所に行ったが…」

 通して貰えるわけないだろう……。
 いや、待てよ。

「連れてかれた理由はなんですか?」

「このブログの配信した回線が慎也のアパートだっていうことらしいんだ。あのアパートでうちの社員は慎也だけ。他は空き家か、別の会社の人間らしい。
 俺はそれ聞いて、てっきりブログの主は慎也だと思ったんだが違うのか?この写真……あいつ、前は髪が長かったろ?」

 限度がある。
 髪を伸ばしても、こうはならんだろ……。

「慎也…………。
 実は昨日このブログを見た時に私、慎也と他の友達と一緒だったんですよ。
 慎也は確実に違います。
 …けれど、でっち上げなんかされないか心配ですね」

「その為に佐伯さんに行ってもらったんだが………まぁ、行ったところで話なんて後回しだろうな…」

 そもそもどの回線から発信されたかなんて、こんな個人でやってるブログの動画に警察が直ぐ食いつくのか?
 それが日常ならもう少し犯罪も減るだろう。

 誰かが、通報した……?
 そんなにすぐ割り出されるのか?

「……土井さんに話を聞きたいです」

「分かった。隣の小会議室を開けよう。鍵を持ってきてくれないか?
 土井を連れてくる」

「はい」

 土井がブログの主で間違いはないはずなんだ。
 土井にさえ話を聞ければ………。

 それにしても、慎也は災難続きだな。
 昨日も寝てないだろうし。
 災難………?

 そうだった。
 あいつのアパートは一度襲撃されているんだ。
 回線………パソコンは異常なかったと言っていたが、使用されたんじゃないのか!?
 ということは、動画が上がってから結構な時間が経っている……?
 それなら警察が捜査する時間はあるはずだ。
 遠隔操作なんてことも考えられる。

 慎也が謎の襲撃を受けたのはこのためか!
 怒りで歩く速度が上がる。
 全く卑怯な奴らだ。
 誰かは知らないが…縁故組繋がりである事は確実だ。

「……………っくそ!!」

 現場の秋沢のデスクに私のカードキーを当てると鍵が開いた。
 カードキーは三段階にセキュリティを変えられるシステムだが、私が開けられるということは山口もこの引き出しを開けれるのかもしれないな。

 小会議室のカードキーを取り出す。

 にしても………。
 秋沢のデスクの中は本がぎっちり詰まっていた。
『明るい職場作り!』
『人の上に立ったら覚えておきたい十の事』
『年代別  切返し入門』

 ……………なんか。
 見てはいけなかった気がする。
 こんなマニュアル如きで、最早この会社は変わらん!
 ………………そう思ったからこんな所に突っ込まれてんのか…。
 なんだか和んだな。
 秋沢もこんなものを読んだりするのか…。そりゃそうだ。何もせずに万能な人間などいないのだから。

 現場を出て小会議室へ向かう。
 もうすぐ始業のベルが鳴る。

「栗本」

「ほあー?」

「今日は朝礼無しにする。残業してるラインはそのまま引き継ぎをして。
 夜勤からは特に問題は無かったって聞いてるから」

「分かった。
 なぁ、慎也大丈夫なの?」

「……………大丈夫だと思うんだ。
 何もしてない訳だから…ね」

「そうだよな。
 なぁ。仁恵さんはこのブログ知ってんのかなぁ?
 あまりに酷すぎる……」

「わかんない………」

 もしかしたら…社食のテナントには来ないかもしれないな…。何より今の彼女には行く宛がある。わざわざここの人間がいる所に戻ってこなくても。

 栗本と離れて休憩室の側を通り、先へ進む。
 廊下の突き当たりには秋沢が土井と立っていた。

「お待たせしました。
 おはようございます土井さん」

「…………………お、おはよう春子ちゃん」

 土井は肩をすくめて居て、その場で小刻みに足踏みしている。挙動がおかしい。

 あのブログサイトにはアカウントがあるはずだ。
 土井以外に開ける者はいない。
 どういうわけか………それによっては、警察所には慎也と交代になるかもな…。

 秋沢は私と土井が小会議室に入ると、カーテンを締め、部屋のほんの一部の電気だけをつけた。

「土井、正直に話せよ?
 何もお前をどうこうしてやろうなんて俺達は思ってない。
 順を追って、わかりやすくゆっくり話してくれ」

 土井は項垂れたまま、ポツリポツリと経緯を語った。
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