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A棟 VS F棟

蜘蛛の糸

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 結局、部品はない。

 やっと緑サービスが来たことで順調に進んでいたのにだ…。

 そう、マシンが壊れた訳じゃない。部品さえあれば生産再開出来る。

 しかし頼みの綱が絶たれた。

 いや待て。

 ふと佐伯の顔を思い出した。

「お前の友人の川田は私の甥」

 そしてそこから引き抜きになった秋沢。

 出田を土井に任せ、すぐに女子ロッカーに向かい自分の車のキーを取る。

 距離、たった5キロ。
 一瞬躊躇ったがエンジンを蒸す。

 国道を走り、秋沢に電話をする。

 賭けだった。

「もしもし、実は部品切れになってしまって、ラインが止まりそうなんです。
 それで許可が欲しいんですが」

『許可?』

「秋沢さんの前の会社から部品を分けて頂けませんか?」

『無理だろ…確かにうちの現場の取引先はフルムーン社だが、管轄が違う!』

「実は私の友人が勤めていて、その人は佐伯さんの甥っ子さんらしいんです。

 このままでは納期が遅れますし、なんとか交渉していただけませんか?」

 一瞬の沈黙の後、『かけ直す!』と言い秋沢は電話を切った。

 到着まで後3分。

 川田からのメールの方が早かった。

『部品、用意しておく!』

 助かった!

 続いて佐伯から着信。

『話がついた。二度とこんな無茶はするな。
 後に使用した分は返却する事になっているから無駄に使うなよ』

「ありがとうございます!」

 川田の勤める大手メーカー、フルムーン。

 実は、その企業こそが我々F棟の取引先であったのだ。
 最も、依頼主は他県のフルムーン社の部署であったが、同企業の中と言う事ですぐに話がついたのである。

 お客様を待たせるわけには行かない。

 自分の下請けの部品の手配など、大手メーカーはある意味寛容であった。

 秋沢と川田の人当たりも幸をそうしたのだろう。
 佐伯の電話をきった頃フルムーン社に到着した。
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