キャラ文芸倉庫

まだ何者でもないあなたへ

６

　この街の情報は全て教会に入ってくる。
　ちょっとした話からなにから入ってくるものだからラトゥスはいつも忙しい
　のである。もちろん令嬢の家出なんてのもその内の一つで、それが金になったり
　するのだからもうこの状況を諦めていた。
　
　
　今も男が懺悔をしに来ていた。
　どうやら浮気をしたらしく、それを告白して楽になりたいらしい。
　何て都合のいいシステムなのだろうかと思うし、お前の妻も浮気をしているぞ
　と教えてやろうかと瞬間的に思う事もあるが、でも
　
　
「貴方の罪は許されました」


　その言葉が聞きたくてここへやって来たのだから、俺は俺の役割を果たさないと
　いけない。それにこれも情報収集みたいなものだし、何かの役に立つような日が
　来るのかもしれないのだからと利益になる事を考えて誤魔化すのに慣れてきた。
　
　
　俺はきっとこれからもこうやって生きていくのであろう。
　アイツの様な生き方は俺には出来ないしアイツも俺の様な生き方は出来ないだ
　ろう。出会った時からアイツは不器用だった。もっと上手くやれば今の様な
　不様な生き方をしなくていいのにと俺は思っている。
　
　
　でもアイツにはそれが出来ないのだ。
　よく知りもしない誰かの為に生きているアイツの方がきっと神父なんてものに
　向いていたのだろうけど、結局は俺が神父になってしまった。
　
　
　街の奴らはアイツが何をしているかなんてまったく知らない。
　知ったかぶりをしている奴らが居て好き勝手にアイツの事を言っているのを耳に
　した事もあるがそれに対して俺は口を出したりはしない。だってアイツはそんな
　事を望んでなんかいないのだから。
　
　
　街の奴らはアイツの事を何者でもない、ただのクズみたいに思っているだろうが
　俺は違う。俺はアイツの事を聖人だと思っている。だからついついアイツに対し
　てきつく当たってしまうのだ。だってただの人間にはアイツは眩しすぎるから。