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さよなら
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しおりを挟むブンッ ブンッ ブンッ
嗚呼、またいつものこの音が聞こえる。
バットを振る音が窓の外から聞こえて来る。
今日も彼がバットを振っているのだろう。
私はそっと気付かれないように窓際に隠れながら彼のそんな姿を眺める。
あの太い腕、分厚い胸板、綺麗に割れた腹筋。
そんな目の毒にしかならないモノを私はついつい見てしまうのだ。
無駄のないフォーム、飛び散る汗。
私にはそれがとても綺麗なモノに見えてしまうから、頭を振ってそれが間違った
感覚なのだと自分に言い聞かせる。
トントン
「お嬢様、休憩にしませんか? 」
そう言ってメイドがお茶とお菓子を持って部屋に入って来る。
「はっ! ち、違うのよ? ただ少し外を眺めていただけだから。ちゃんと勉強
してたんだからね! 」
「はいはい、そうですね。ええ、分かっておりますとも私は。どうです、お隣の
坊ちゃまにもおすそ分けをしては? 」
「そ、そうね。貴族たるもの平民に分け与える事は義務ですもの。
是非、そうしましょう」
そうやって口実を作って私は彼に会いに行くのだ。
*****
「いつもすいませんお嬢様。こんなおいしい物を頂いて」
彼はそう言って手づかみでケーキを食べる姿はワイルドで、熱いお茶をを一気に
飲み干すその喉仏はとてもセクシーだった。
「良いのよ別に、この程度なんて事ないわ」
「ですが……何もお返しが出来ないのです僕には、これを振るぐらいの事しか能が
ないので。ですからよろしければ次の試合を見に来てはくれませんか? 僕が
必ずお嬢様の為にホームランを打ちますので」
そんな誘われ方をしたら行くしかないではないか。
9回裏
二死満塁
バッターボックスには彼が立っていた。
逆転するには彼が打つしかない、そんな状況で彼は私の方を見て頷いた。
ブンッ
空を切るその音は当たれば必ずホームランになる、そんな予感をさせるには
十分だった。
ブンッ
だから期待してしまうのだ。
私の心臓は今にも飛び出しそうだった。
パッーン!!!!!
その打球の角度は完璧だった。
彼が私の方を指さす。
これが私の為なのだと思ったらそれだけでもう何もかもが溢れ出してしまいそう
になるくらいのこの感覚をどうすればいいのだろうか?
どよめく観客。
ファインプレーによるセンターフライでゲームセット
私の恋も試合終了だった。
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