恋愛倉庫

菫川ヒイロ

文字の大きさ
上 下
55 / 425
ボクとキミ

しおりを挟む





 空は嘘みたいに晴れていて、記録的な暑さだなんだと気象予報士が言っていた日。
 
 
「ちょっと待ってよマキチャ」


「もう、遅いよフータン」


 そう言いながら目の前を男と女が通り過ぎた。
 分かってはいる。確かにボクもそう思うよ。でもそれは思っていても言えないし、
 寧ろ言ってはいけない気がしたのだボクは。
 
 
 だって思い返してみて欲しい。
 彼女からおかしなあだ名をつけられたなんて経験は誰にだってあるはずだし、
 それに付き合っている時はそれがおかしいなんて思ってはいなかったはずだ。
 寧ろ二人だけの特別な呼び方に心躍らせていなかっただろうか?
 
 
 ボクはキミに呼ばれる度、その特別な感じがすごく好きだった。
 
 
 だからそんな二人を見てもボクはただ昔の事を思い出すだけなのだ。
 そうあの日もこんな感じで暑い日だった。
 
 
 
 
 *****
 
 
 
 
 結局の所、どちらの方が好きかなんて事に何の意味もないという事が分かった。
 そんな事で争うなんて馬鹿げているし、こんな炎天下の中でする事ではない。
 だからとりあえずお互いクールダウンしようと喫茶店へ入ったのは英断だった。
 
 
「おお、涼しい」


 中は空調が効いてとても過ごしやすい温度設定である。
 ヒートアップしていたボクたちにとっては最高の場所である事は間違いがなかっ
 たのだ。
 
 
「二名様ですか? では奥の席にどうぞ」


 案内してもらった奥のテーブル席に向かい合って座ったボクたちはメニューを
 開いて注文をした。
 
 
「結構、雰囲気があるね」


 キミにそう言われてボクは店の中を眺める。
 中は落ち着いた感じの薄暗さで、オレンジ色の照明。
 木目で統一されたその空間には重苦しさなんてものはないが、時間が止まって
 いるような感覚になる。
 
 
 微かに流れるBGMはいつかのクラシックのようだが、当然のように題名なんて
 知りはしないけど、それでもなんだかこの店は当りのような気がした。
 
 
「お待たせしました」


 そして注文していたものがテーブルに置かれる。
 
 
「おいしそうだね」


 キミのその嬉しそうな顔を見ているだけでボクはとても幸せな気持ちになれるの
 はどうしてなのだろうか?
 
 
「うん、すごくおいしそうだ」


 そしてボクの前にはクリームソーダが置かれ、キミの前にはミックスジュースと
 プリンアラモードとおすすめされたアップルパイ、チョコレートパフェにチーズ
 ケーキ、ホットケーキにショートケーキ、コーヒーゼリーが並んだ。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...