1 / 4
1
しおりを挟むちり~んと風がガラスを鳴らした。
まどろみの中でその音がなんとなく気になりながらも瞼は重く、このままスーっ
と眠りに落ちてしまいそうだったのに。そんなタイミングで彼はやって来る。
いつだって突然だから連絡くらいしてと言ってはみるものの、それに何の意味も
無いって事は知っている。私も彼の性格は理解しているからそれ以上は何も言わ
ないのが二人のいつものやりとりなのだ。
お決まりの台詞。
でもそれが私達の挨拶みたいなもので、なにより心地いい。
彼のこういう所が私は何よりも好きで、いつもいいなって思う所なのだ。
「最近どう? 」
そして雑な質問をしてくる彼に私はつい笑ってしまう。
彼みたいなタイプが周りにいないのでこの感じがくすぐったくなってしまうのだ。
「そうね、あまり他人に気をつかわなくなったかな」
私は自らが率先して何かをするようなタイプではないから、常に周りに気を配り
ながら生活してきたけどそれを止めたのだ。以前はよく好きでもないものを好き
だと言ってみたり、別に欲しくもないものを買ってみたりと他人に合わせた行動
をとる事が多くて結局後悔する事が多かった。
だから最近は無理に他人に合わせる事をしないように心がけている。
最初は驚かれたりしたけれど、一回目を乗り越えてしまえば後はもう問題なく
受け入れて貰えた。というか相手にされなくなっただけかもしれないけれど、
無意味な会話をせずに過ごせる日常はあまりにも清々しい気分である。
「ほら見てよ、結構この部屋って広かったのよ」
だからいろいろと身の回りの整理が出来た。
必要なものとそうでは無いものを分けるのは意外と簡単で、それでもそこそこの
量になってしまったけどどうにか片付いた。売るという選択肢もあったけど、
やはりこういうのは捨てた方が気分がいいという事も分かったのは意外な収穫で
もあった。
処分をしたという感覚は私の中で確かに自信に変わった。
エミコが好きなブランドのコスメとかポーチだとか、洋服もそうだし未だに何が
いいのか理解出来ないアイドルグッズに何処が面白いのか分からないが話を合わ
せる為に買っていた本だとかを捨てるという行為は何よりも贅沢な事だ。小銭を
貰っても決して得られる満足感ではなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
ラストグリーン
桜庭かなめ
恋愛
「つばさくん、だいすき」
蓮見翼は10年前に転校した少女・有村咲希の夢を何度も見ていた。それは幼なじみの朝霧明日香も同じだった。いつか咲希とまた会いたいと思い続けながらも会うことはなく、2人は高校3年生に。
しかし、夏の始まりに突如、咲希が翼と明日香のクラスに転入してきたのだ。そして、咲希は10年前と同じく、再会してすぐに翼に好きだと伝え頬にキスをした。それをきっかけに、彼らの物語が動き始める。
20世紀最後の年度に生まれた彼らの高校最後の夏は、平成最後の夏。
恋、進路、夢。そして、未来。様々なことに悩みながらも前へと進む甘く、切なく、そして爽やかな学園青春ラブストーリー。
※完結しました!(2020.8.25)
※お気に入り登録や感想をお待ちしています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
【完結】夏色の玻璃
那月 結音
恋愛
大学一年生の日野紫(ひのゆかり)は夏が苦手だった。
夜空に咲いた大輪の花。優しい二人の笑顔。
美しいはずの夏色の記憶が、紫を暗い暗い過去に縛りつける。
だが、ミステリアスな麗人——久我響(くがひびき)との出会いにより、紫の運命は大きく変化することに。
八月一日。
紫にとって儚く、けれど、特別な夏が始まった——。
❈ ❈ ❈
※2018年完結作品
※エブリスタ小説大賞2020「スターツ出版文庫大賞」優秀作品
龍の花嫁は、それでも龍を信じたい
石河 翠
恋愛
かつて龍を裏切った娘の生まれ変わりとして、冷遇されてきた主人公。閉ざされた花畑でひとり暮らしていた彼女は、ある日美しい青年に出会う。彼女を外に連れ出そうとする青年は、彼女を愛していると言い……。ほんのりビターな異類婚姻譚です。
この作品は、小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は雨音AKIRA様に描いていただきました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる