夏の思い出

菫川ヒイロ

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 ちり~んと風がガラスを鳴らした。
 まどろみの中でその音がなんとなく気になりながらも瞼は重く、このままスーっ
 と眠りに落ちてしまいそうだったのに。そんなタイミングで彼はやって来る。
 
 
 
 いつだって突然だから連絡くらいしてと言ってはみるものの、それに何の意味も
 無いって事は知っている。私も彼の性格は理解しているからそれ以上は何も言わ
 ないのが二人のいつものやりとりなのだ。
 
 
 
 お決まりの台詞。
 でもそれが私達の挨拶みたいなもので、なにより心地いい。
 彼のこういう所が私は何よりも好きで、いつもいいなって思う所なのだ。
 
 
 
「最近どう? 」



 そして雑な質問をしてくる彼に私はつい笑ってしまう。
 彼みたいなタイプが周りにいないのでこの感じがくすぐったくなってしまうのだ。
 


「そうね、あまり他人に気をつかわなくなったかな」



 私は自らが率先して何かをするようなタイプではないから、常に周りに気を配り
 ながら生活してきたけどそれを止めたのだ。以前はよく好きでもないものを好き
 だと言ってみたり、別に欲しくもないものを買ってみたりと他人に合わせた行動
 をとる事が多くて結局後悔する事が多かった。


 
 だから最近は無理に他人に合わせる事をしないように心がけている。
 最初は驚かれたりしたけれど、一回目を乗り越えてしまえば後はもう問題なく
 受け入れて貰えた。というか相手にされなくなっただけかもしれないけれど、
 無意味な会話をせずに過ごせる日常はあまりにも清々しい気分である。
 
 
 
「ほら見てよ、結構この部屋って広かったのよ」
 
 
 
 だからいろいろと身の回りの整理が出来た。
 必要なものとそうでは無いものを分けるのは意外と簡単で、それでもそこそこの
 量になってしまったけどどうにか片付いた。売るという選択肢もあったけど、
 やはりこういうのは捨てた方が気分がいいという事も分かったのは意外な収穫で
 もあった。
 
 
 
 処分をしたという感覚は私の中で確かに自信に変わった。
 エミコが好きなブランドのコスメとかポーチだとか、洋服もそうだし未だに何が
 いいのか理解出来ないアイドルグッズに何処が面白いのか分からないが話を合わ
 せる為に買っていた本だとかを捨てるという行為は何よりも贅沢な事だ。小銭を
 貰っても決して得られる満足感ではなかった。
 








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